第十三章⑫『結びつき』
しかし、唯一無二の親友であるエレツが、エアを我が子のように愛で、大切に慈しんでいること。
故に、時折エアはエレツの愛情も時間も独占していることに対し、シャムスが子どもじみた嫉妬を抱いていることも、エアは薄々察していた。
何故ならエアも、全てを包容する大地のように寛容で力強く、森の静寂のように穏やかで優しいエレツのことが、大好きだからだ。
かつては冷酷非道な暴虐王と畏れられたシャムスが、己の心臓をさらけ出し、己の全てをぶつけ合い、受け止め合える唯一無二の存在こそがエレツ。
誰にも代え難く、得難い親友を誰にも取られたくない。
だから、無垢で博愛主義な性質故に、万人・万物に対して物腰柔らかで寛容なエレツが、自分以外の存在に強い関心を注いでいるとつい邪魔したくなる。
そんなシャムスの気難しい態度に隠れた深い想いも、同じ存在を愛するエアだからこそ理解できる。
結局はエア自身も、同じである。
海よりも深く、岩よりも固く、枝よりも長い絆で結ばれているエレツとシャムス。
無意識的にせよ、双方の間にエアを含む他者が立ち入ることの憚られる雰囲気を、エアも時折強く感じるのだ。
エレツとシャムスの不可侵な結びつきと絶対的な強さを前に、ただの花好きの小娘に過ぎない自分は決して太刀打ちできない。
二人の間に入り、共に肩を並べることは到底かなわない現実に、時折エアはもどかしさと共に寂しさを覚えた。
自分とは違い、エレツと肩を並べて戦い、強さも賢さも併せ持つ義兄を密かに羨むのは、一度や二度ではない。
尊大で意地悪な義兄の態度には頭が上がらないが、エレツのおかげで、以前よりもだいぶ丸くなったシャムス。
今となっては、エレツも当然エアも、今のシャムスには王として、兄として、親友としても、深い信頼を寄せている。
エレツの友情も信頼、愛情ですら、親友である自分が一番で在りたいと切望するシャムスの深い親愛、と愛しい独占欲の裏返し。
そう思えば、シャムスの意地悪で辛辣な態度も、エアは狼狽しつつも許容できるのだ。
「あの、義兄さま。実は、お気に召すか分かりませんが……義兄さまへの贈り物もあるんです」
「何? お前からこの私贈り物だと?」
「はい、エレツとおそろいなのです」
エアが恥じらいを込めてシャムスに差し出したのは、月桂樹の葉を編んだ手作りの冠。
高貴な深緑色の葉の編み目を、官能的な甘い芳香をふりまく金木犀が彩る。
明るい金木犀の花と高貴な月桂樹の葉は、太陽さながらに輝く白金の長髪、と精悍な美貌を誇るシャムス王の貫禄を象徴している。
月桂樹と金木犀の冠を前に、シャムスは軽く見開いた双眸に感情の読み辛い涼しげな色を浮かべている。
淡々とした表情と仕草で、シャムス王は贈られた冠を被った。
シャムス王は、雄々しくも高尚なる美しさ――エレツの清廉なる癒しと美しさを醸し出している。
対になる二人の神々しい美しさに、エアは熱い溜息に溶けた称賛を零す。
「とっても、よくお似合いです、義兄さま……っ。こうしてエレツと並んでいると、さらに素敵です」
「私も同感だ、シャムス。エアは、最高の感覚を持っているよ。月桂樹の葉の言葉は『勝利』と『栄誉』を表し、金木犀は『気高い人』。まさに、シャムスにこそ相応しい植物だ」
「そうなのね。義兄さまに似合うと思って、一生懸命選んだのだけれど、よかった……!」
エアと同様に瞳を輝かせるエレツの台詞に、エアは安堵を通り越して歓喜を覚えた。
「ほほう。そうなのか、エレツよ。なるほど、お前にしては殊勝なことではないか、エア。王でもあるこの私への貢ぎものを怠らないのは、良きことだ。はっはっは」
「ありがとうございます、義兄さまっ」
高慢な笑みはそのままで、満更でもないシャムスの態度に、エアもご満悦に浸る。
普段は黄金や宝石で着飾る義兄に、手作りの花冠を贈っていいものか、エアは正直迷っていた。
しかし、気高く美しい義兄に似合う花の選択、と贈った勇気は間違っていなかった。
嬉しさのあまり、シャムスの皮肉にすら臆さずに感謝を述べるエアの声も、自然と弾んだ。
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