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【通常版】光の渦と禍~王女は異国の神官との儀式で光に導かれる  作者: 神森 無為


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9話. クアの部屋

王宮では万が一のため、リルの禍を祓うまでの間、国王夫妻とヒチ夫妻は別の宮に移り住んでもらうことにした。


王宮を移る日に国王夫妻は、盗まれた石板が原因となったことをリルに詫び、祓いが済み、体が癒えるまで王宮で過ごすよう言葉をかけた。


リルは自分の身に起こったこと、そして王宮に迷惑をかけていることを気に病んでいたので、国王夫妻からの言葉に涙が出た。


大神官とクアは毎日祭壇室でリルに祈りを唱え、もうじき方法がわかると励ましてくれた。


祈りの後、リルは二階の回廊に面した窓辺でよく過ごしていた。その場所は床より高い小上がりで、お茶を飲むテーブルもあった。横には大きな窓があり、外の景色がよく見える。


リルは一人、静かな王宮で自身の心の変化に戸惑っていた。


ウタ国に来てから、毎朝クアが呼びに来てリルの体調を確認し、祭壇室に向かう。夜眠る前にもリルの様子を見に来てくれ、不安な時は手に触れてもらい、心を落ち着かせる術をかけてもらう。


毎日顔を合わせるクアに、どうしても意識がいってしまう。


王女として宮殿で育ったリルは、兄のレイ以外の男性とほとんど接したことがない。

レイは明るい性格で、向こうからリルにいろいろ話しかけてくれる。


しかしクアは寡黙で、術式に関すること以外の会話をしない。常に毅然とした態度だ。表情も冷たく、こちらと目も合わせない。それでも、リルが不安な時はすぐに察知してくれる。


リルはクアが部屋に来るまでの間、そわそわして身なりを整えていた。クアに会うと、恥ずかしさや嬉しさで戸惑ってしまう。術で手に触れられると、クアの顔を見ることができなかった。


ユークという婚約者がいる身でありながら、クアに戸惑う自分に、どうしてよいかわからなかった。


クア様はいつも毅然としていて、王子としても神官としても立派な方なのだわ...


外の景色を見ながら、リルは自分もクアを見習おうと思った。


すると、窓の下に、王宮の一階から中庭に出るクアの姿が見えた。


「クア様...どこかに行かれるのかしら?」


するとクアは少し走り、何かを捕まえた。


「え?」


クアは王宮で飼っている三毛猫を抱きかかえていた。何度か王宮内で見かけていた猫だ。侍従によると、クアが子供の頃から飼っているらしい。


クアはいつもの冷静な表情のまま、猫の頭を大事そうに何度も撫でている。そして猫を抱っこしたまま、王宮に戻って行く。


「か、可愛い...!」


リルは男性に対して、可愛いなどという気持ちを抱いたのは初めてだった。


もしかしてクア様って、猫ちゃんと二人きりならもっと穏やかな顔をするのかしら?


クアは毎朝、リルの様子を見て一瞬だけホッとした顔をするが、笑顔は見たことがない。


すると下の階から、先程の三毛猫が階段を駆け上ってきた。


「あ!さっきの猫ちゃん!」


三毛猫はリルに気付くと、急に尻尾がボンと太くなり、その場に固まっている。


少し長めのふわふわとした毛質だ。


「なんて可愛い!」


リルは小上がりから床に手を付き、頭を低くして人差し指を三毛猫に向けて伸ばした。


三毛猫はソロソロと慎重に、リルに近付いてくる。

そしてリルのすぐ前まで来て、リルの指先をクンクンと嗅いでいる。


「ムイ!」


猫を追って二階に来たクアの声に、三毛猫は驚いて左側に走って行ってしまった。

リルは床に這うように手を付いた姿をクアに見られて恥ずかしくなり、身を起こす。


「ムイとはあの猫ちゃんお名前ですか?」


「あぁそうだ。さっき庭に脱走して捕まえたんだが、あいつ枯葉だらけだ」


「枯葉、ふふふ可愛い」


リルはウタ国に来て初めて笑えた。クアが猫の頭を撫でている光景も思い出し、クスクスと笑いながら猫の逃げた方向を見ていた。


「...触ってみるか?」


「いいんですか?...あ、でも私には...猫ちゃんに危険が...」


禍が猫に取り憑いてしまうかもしれない。リルは怖くなった。


「禍は術で呼び出さない限り抑えている。それに君は気付いていないだろうが、ムイは毎日、君の客室のドアの前で寝ている」


思わぬ守り神がいたことに驚きつつ、リルはクアと共にムイを見に行った。


王宮の左奥にある部屋のドアがわずかに開いていた。クアは静かにその部屋に入ると、リルを呼んだ。


リルが中に入ると、クアはムイを抱っこしていた。

そのままムイをリルに近づける。


「猫は禍が見えると聞くが、ムイにわかるだろうか?」


ムイはジッとリルを見つめている。


リルはムイに何も起こらないよう、指先だけ近づけた。


ムイがクンクンとリルの指を嗅ぎ、ゆっくりと目を細めたので、恐る恐るムイの頭を撫でてみる。


「可愛い...!」


「ムイは禍を気にしていないようだな」


クアはムイを部屋のベッドに下ろすと、ムイは真ん中で毛繕いを始めた。


「このお部屋は?」


「俺...私の部屋だ」


「え!そ、それは失礼いたしました」


「構わない、ムイの部屋でもある」


ムイを眺めながら、しばし沈黙が訪れる。

すると、クアが深刻な顔をしてリルを見つめ、話しだした。


「リル王女、貴方を救う方法について、話がある」


クアの深刻な表情に、リルは不安で胸が苦しくなった。

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