10話. 決心
二人はクアの部屋に置いてある、窓辺の椅子に向かい合って座った。
「...レイから聞いたが、婚姻が決まっているのだろう?南の国の公爵家と...18になるのは来年か?」
クアから自分の婚姻の話を聞いて、リルは複雑な気持ちになった。
「3月に18になります。...ですが婚姻はまだ正式には...それに今の状況ではとても...」
「リル王女の身に起きたことや、この国に滞在していることは極秘事項として伏せられている。南の国、公爵家にも知られることはない」
クアはリルの身を案じていた。もし王女が取り憑かれたなど知れれば、公爵家は気味悪がって婚姻は破談されるかもしれない。リルと相手は幼い頃からの仲だと聞く。相手がリルを受け入れてくれても、周りから冷たい目で見られる可能性は高い。
「今回、ラス王国とは両国の国交にも関わる問題が起きた。我が国の遺跡である石板が盗まれ、それがラス王国に渡った。入手した者は交易商に借金があり、石板を借金の形にしたようだ。だがその石板に禍が潜んでいたようで、式典の場で禍が献上品に移ったと思われる」
「あの金の髪飾りに...」
「そうだ。入手した者の捜索はレイが秘密裏に手配している。もし禍の存在や力を知っている者がいた場合は、まずいことになる」
「なぜ、持ち出した者は取り憑かれなかったのでしょう」
クアは少し考え、答える。
「禍は何かに潜む性質がある。動物に憑くことが多いが、人の場合は純真な者に取り憑きやすいと言われている。」
「そうなのですね...では、禍を浄化する方法はわかったのですか...」
クアはリルを見るも、言葉が出ない。
「...クア様?」
「方法はいくつかある。その術は儀式を伴うが...リル王女にとって困難な方法だ」
リルは恐怖で声が震えてしまう。
「...はい」
「一つは、この王宮の中にいれば禍の力は抑えられるということだ」
「でもそれでは...」
「ああ、解決はしない」
「ウタ国の皆様に迷惑をかけるわけにはいきません」
リルはきっぱりと言った。
クアは儀式について伝えるべきか迷った。リルが石板の儀式を拒絶して、体の一部を引き換えにする術式を選ぶ可能性もある。
「もう一つは...体の一部が失われるか、命が失われる術だ」
リルは絶句し、顔が青ざめていく。
「そんな...他に方法はないのですか...」
「もう一つ、この方法は...すぐに決断しなくていい」
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リルは客室に戻ると、先ほどのクアの言葉を何度も考えていた。
儀式でクア様と...
話を聞いている間、クアの顔を見ることができなかった。クアは、自分やユークのことを気遣ってくれている。
クア様はウタ国の王子だ。彼にもすでに許嫁や恋人がいるかもしれない。自分のためにクア様を巻き込むことになってしまう、とリルは気付く。
その日の夜、リルはクアに尋ねる。
「クア様にも婚姻のお相手がいらっしゃるのでは...それなら、私はあの儀式を受けるわけにはいきません」
「リル王女、俺のことなど気にしなくてよい。儀式が成功したらラス王国に戻れる。それに...ただの儀式だ、忘れればいい」
リルはクアの言葉に、少し胸が痛くなった。
「ですがクア様や、お相手に申し訳ないです...」
「...相手などいない。神官は修行が終わるまで結婚はしない」
リルはクアに相手がいないと聞いて決心する。
「...それなら、私は石板の儀式をお受けします」
リルは震えた声で言い、クアの顔を真っ直ぐに見つめた。
「...わかった、儀式に向けて準備しよう。ラス王国には儀式の内容は明かさないので、案ずる必要はない」
「リル王女、手を」
クアはリルが硬く握りしめていた手に自分の手を重ね、心を落ち着かせる術をかけた。
「...クア様、ありがとうございます」
リルは恐怖や複雑な気持ちが落ち着くも、クアに対する気持ちは落ち着かないまま、眠りについた。




