8話. 石板と古代の術
クアはリルと共にウタ国に到着したその日の夜、すぐに大神官のいる祭壇室に向かった。
「大神官様、この石板は我が国の遺跡からラス王国に持ち込まれた物です。どうやらこの石板に「禍」が宿り、献上品にまぎれてリル王女に取り憑いたようです」
大神官が目を見開き、石板を手にする。
「クア、このウタ語はまだ読めぬな?」
「はい。一部は読めますが、全体はわかりません」
「ここに刻まれているウタ語は、クアが20歳を迎えてから伝承する術式の一つだ。この術式には、たどる道が二つあると記載されている」
「二つ?」
「禍は夜に力を強める。リル王女に取り憑いた禍は明日、読むことにしよう」
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翌日、祭壇室でリルに取り憑いた禍を読んだ後、クアは大神官と共に石板に記された術式を確認していた。
「クア、リル王女に取り憑いた禍は、おそらくこの術式でなければ浄化できぬ」
「方法が二つあるとおっしゃっていましたが?」
「...一つは術式で取り憑かれた者の命を奪い、魂に禍を乗せて天に還すことになる」
「!」クアは絶句する。
「それではリル王女は助からない...もう一つの術式なら助かるのですか」
「...もう一つは、慈束の儀という儀式を伴う術式だ。この石板の図を見てみよ」
クアはウタ語が刻まれている石板の反対側を見た。よく見ると男女がぴたりと向かい合っている図に見える。
「人が二人描かれていますが...生贄などですか?」
「それは男女の交わりの図だ。つまり、取り憑かれた者と交わり、愛の儀式によって禍を浄化させる」
クアは大神官様の言葉に混乱した。
「...交わる?...つまりリル王女と誰かが?」
ウタ文明には、古来から男女の性にまつわる神話やお祝いの風習がある。子を育むための自然なことであり、時には神聖な象徴として祀られるほか、儀式にも使用されてきたと聞いて育ってきた。
「その術を扱えるのは神官だけだ。つまりクア、お前の役目だ」
ウタ国の神官はクアの他にも数名いるが、既婚者やクアよりもずっと若い者しかいない。
「しかし、リル王女には婚姻相手がおり、来年には結婚すると...」
「命あっての話だ」
「大神官様、他にも方法があるかもしれません。それに、私がまだ知らない術式があるのですよね?」
クアはリル王女やラス王国のことを思うと、他の方法に期待するしかなかった。
「あれほど強い禍への術式は、伝承にもわずかしかない。私が知るには、この石板の他には、何かを引き換えにする術式だ。たとえば目や腕、声など。」
「そ、それは...」
「リル王女もいつまで体が持つかわからぬ。至急、クアには私の知る限りの伝承を伝えよう。それまでリル王女の体調が悪化しないよう、これを」
大神官はクアに、守護の術式をかけた水晶のペンダントを渡した。
「...わかりました」
秋生まれのクアは、リルを連れて王宮に戻った数日後に20歳を迎えた。
大神官からは「こうなることは天の導きかもしれぬ」と言われ、クアは新たな伝承を受け継ぐこととなる。
しかし、あらゆる書籍を読み、古代ウタ文明の叡智を吸収するも、強力な禍に対する術式は少ない。
大神官が言っていた身体の一部を引き換えにする術式もあったが、禍が望む部位を差し出すため、生贄の命が助からない場合が多いと残されている。
やはり、石板にあった術式以外の手段は見つからない。
神官のみ扱える術式や伝承は、他国に明かすことを許されていない。リルがこの術式を了承したとしても、儀式の内容はレイを含むラス王国には伏せておく。それに、リルは婚姻を控えている身だ。
リルにどう伝えればよいか、クアは悩んでいた。




