6話. 庭の妖精
クアは2度目となるラス王国に到着した。宮殿に着くと、レイが出迎えてくれる。
「クア、街には寄って来たのかい?」
「いえ、すぐこちらに参りました」
「そうか。もし街の女性が君のような異国の男性を見たら、気絶してしまうかもな。皆、君に夢中になるだろう」
「レイ王子、何をおっしゃ...」
「クア、もっと気楽に話そう。レイと呼んでくれ。そう、私の妹は絵を描くのが好きでね、君のような黒髪をした、ウタ国の人を見たことがない。きっと絵に描きたいと騒ぎそうだ」
クアはレイに連れられて王の間に行き、ラス王と王妃に挨拶を済ませた。
「クア、明日は出発だ。せっかく我が国に来てくれたのだ、何か見たい物はあるか?」
レイがクアを気遣い、聞いてくれる。
「ありがとう、そうだな...宮殿の塔には登れるのか?以前父上と母上が登ったそうで、俺も見てみたい」
「もちろんだ、一番高い塔を案内しよう」
レイは宮殿で最も高さのある塔にクアを連れて行く。長い螺旋階段を登り、一番上の展望所に着いた。
よく晴れた空と、広い大地。そして海が見える。
塔の上はやや風が強く、乾いた風が心地よい。下にはラス王国の街並み、その周りには農地や草原が広がっていた。
はるか向こうには、連なった険しい岩山が見える。
「あれがウタ国の山だな。向こうに国境がある。こっちは北の氷の山だ。そして西はキパ、南はタルスだ。私達ラスやキパ、タルスの民は、あの海の向こうからこの地に着いた」
レイが説明してくれる。
西と南の方向には、それぞれの街がわずかに見えた。
この風景を、父と母も見たのだな。クアは目の前に広がる壮大な景色に感動した。
二人は塔を降りて、二階にある来賓室に戻った。
するとレイが来賓室から続くテラスに出て、クアを手招きした。
テラスは植物や花に囲まれた空中庭園になっていた。下にある宮殿の庭からも、石階段で繋がっている。
屋根付きの椅子に座り、二人はウタ国での予定を話し合う。
ふと、クアは下にある手入れされた宮殿の庭を見た。ピンク色の花がたくさん咲いている場所に、誰かがいるのが見えた。
金色の髪がキラキラと太陽の光に透けている。
よく見ると女性が椅子に座り、花の絵を描いているようだ。真剣な眼差しで、花を見つめている。
レイは庭の方向を見たまま動かないクアを見て、リルに気付く。
「妹のリルだ、絵を描いているな」
「...綺麗だ」
クアはうっかり言ってしまう。それを聞いたレイは驚いてクアの顔を見た。
「あ、いや、庭もだ。花も。妖精でもいるのかと。俺の国にはいるんだ」
いつも冷静で口数が少ないクアが、耳まで真っ赤になって説明している。レイは口元の緩みを抑えるのに苦労した。
「クア、リルのこと気に入ったのか?呼んでこよう、挨拶させるよ」
「いや、真剣に絵を描いているだろ、邪魔しなくていい」
クアは誤魔化すようにお茶を飲み、レイを止めた。
「そういえばヒチ王子は来年結婚だそうだが、君はもう相手は決まっているのか?恋人は?」
「俺はまだ婚姻の予定はない。...恋人もいない」
「昔からの許嫁はいないのか?」
「ああ、兄は王位継承者だから小さい頃から決められている。家や血筋、あとは神官の占いで決める」
「クアはどうなんだ?」
「俺は兄に何かあった時の代役だからな...その場合は兄の妻も引き受ける事になる。まあ、俺はウタ文明の神官も兼ねているから、王からは術を絶やさぬように、としか言われていない」
「ラス王国の神官は結婚しないのだが、もしかしてウタ国もそうなのか?」
「いや、ウタ国では神官も家庭を持つ。霊的な力は遺伝することが多いからな」
ウタ国では神官は修行のため、20歳まで結婚や異性と関係を持つ事を禁じられていた。
もし兄の結婚までに何かあり、クアが王位を継承することになったとしても、クアが清らかなのは王宮として都合が良かった。
クアはそこまではレイに伝えなかった。




