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【通常版】光の渦と禍~王女は異国の神官との儀式で光に導かれる  作者: 神森 無為


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2話. 式典の狼

リルはラス王国の第三王女である。


緩やかにカーブした金色の髪と、ラス王国では希少な深い藍色の瞳を持ち、神秘的なその瞳と美しい容姿は、一度目にすると誰もが魅了されてしまう。


四つ上で王太子の兄、レイは過保護なあまり、リルを極力人の目から避けるように周りに指示していた。


だが、今日の式典には珍しくリルの参加が許可された。


ラス王国の宮殿では、西のキパ国、南のタルス国、そして東のウタ国の三国の要人を集め、交易と互いの繁栄を祝う式典を数年おきにとり行っている。


ラス王国と西や南の国は、それぞれ馬車で半日ほどの距離だ。東に位置するウタ国のみ、はるか遠方にあった。民族や文化もまったく異なる、まさに異国だった。


そのウタ国から、第二王子であるクアが式典に参加していた。クアは王子でありながら、神官でもある。足の悪いウタ国王と、もうすぐ御子が生まれる王太子の兄に代わっての出席だった。


今回の式典では、近年のウタ国の交易に関する貢献を讃えて、勲章の授与式も予定されていた。


__


「あの方はどなた?」


式典に集まった来賓客が一斉に振り向く。周囲の淑女達がひそひそと話し始めたことで、リルは皆の注目を浴びるその者がウタ国の第二王子、クアだと知る。


白い肌に、グレーがかった淡い水色の瞳。すっきりとした目元には力強さがあり、少し冷たくも見える。

長い黒髪を頭頂部で一つに束ね、後ろに流していた。歩く度に綺麗な黒髪が揺れている。

クアはウタ国の伝統的な礼服と思われる、丈の長い黒い服を着ていた。


クアの背は近隣国の中では高いほうだ。授与式では勲章を授けるレイよりも背が高いので、授与の際にクアは低くかがんでいた。細身ながら引き締まった体は、東の国の伝統礼服の上からでもよくわかる。


授与式の間、クアの表情は硬いが、堂々としたその姿は勇ましく見えた。

ウタ国の人間を初めて見る者も多く、周りの婦人達はこの異国の男を見て、素敵と言う者もいれば、怖いという者もいた。


リルはまるで、美しい狼の神がそこにいるような、神々しい生き物を見る目でクアを見つめていた。


クアは誰とも目を合わさず、授与式後は足早に会場から出て行ってしまう。


式典では各国からの交易品が披露されると共に、様々な献上品がラス王家へ進呈された。

レイはリルに似合うからと、ウタ国からの献上品である髪飾りをリルに渡す。


自室に戻ったリルは、その髪飾りを髪に着けてみる事にした。髪飾りはウタ国で採れる金と翡翠でつくられている。


「綺麗...」


リルは髪飾りを外し、しばし眺めていた。すると、鏡に映る自分の前に突然、紫の光が現れた。

驚くリルの体は紫の光に包まれ、急に胸が苦しくなり始めた。リルはそのまま意識を失ってしまう。


その後、部屋で倒れているリルを侍従が発見した。すぐさまラス王国の医師が呼ばれるも、原因は不明のままだ。


顔が青ざめ、今にも息を引き取りそうなリルを前に、レイは神官でもあるクアを頼ることにした。

クアはレイより一つ下で、数年前に互いの国を訪問しており、その頃からの仲だ。


式典への参加のため、ウタ国の一行は宮殿に滞在していた。

レイに連れられ、クアはリルの部屋へと向かう。


部屋に入ると、クアはベッドに横たわるリルの体に術式をかけた。

すると、リルの身体から禍々しい紫の光を感じ取った。レイや他の者には見えていないようだ。


「レイ、俺が付けているこの水晶は守護の力を宿している。リル王女にこれを」


クアは身に着けていた水晶のペンダントをレイに渡した。

レイがペンダントをリルの首にかけると、リルの顔色が戻り、呼吸が落ち着き始めた。しかしまだ意識はない。


クアはリルの部屋に置いてあった自国の金の髪飾りを見つける。


「まさかこの髪飾りに...?レイ、我が国からの献上品を見せてくれ」


__


レイはクアを献上品が収められた一室に通す。


「レイ、リル王女の体に「禍(まが)」が取り憑いているのが見えた」


「禍だと!?」


「かなり強い存在に見える。リル王女は俺の持っていた水晶の力で、今は落ち着いている。しかし水晶の効果は持って10日程度だろう...大神官のいる我が国でなら、リル王女を助けられるかもしれない」


「なぜこんなことに...リルをウタ国に...それしか方法がないのだな?」


すると、金や翡翠の装飾品と一緒に、不思議な石板が置いてあるのをクアが見つける。


「これはウタ国の古代文明の石板だ。なぜこれがここに?」


「交易商が珍しい物を手に入れたとの事で、入手したようだ」


「遺跡に盗み入ったのか?だとすると禍はこの石板に潜み、髪飾りに移ったのかもしれない。献上品は式典で俺が確認した時点では異変はなかった」


「それならば、石板を入手した者を至急手配しよう」


「リル王女については、ウタ国へは馬車で約15日はかかる。時間がない」


__


二人がリルの部屋に戻ると、リルは目を覚まし、顔色も正常に戻ってきていた。


「リル、大丈夫か。良くない病にかかったようだ。ラス王国では治せない。急だが、これからこのクアと共にウタ国へ向かってくれ。リルを救ってくれたのはこのクアだ」


リルはまだ意識がぼやけているも、室内にクアがいることに気付く。


「...ク、クア様?...私がウタ国に...?」


あの美しい狼様がなぜここに...?

リルは急に恥ずかしくなり、顔を伏せる。


レイは急いでリルを乗せる馬車を用意し、リルはクアと共にウタ国に向かうこととなった。

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