14話. 翌朝
リルは夢を見ていた。
「ここは赤い森...?」
リルはまだ、王宮の外に出たことがない。森の中で、木々の間から金色の何かが光っているのを見つけた。
「あれは妖精?」
リルは自分も光になっていた。そして妖精と一緒に森の中を飛び回る。
「赤い鳥もいる!」
リルは鳥のまわりをふわふわと飛んだ。すると、森の奥で大きな白銀の狼がゆっくりと歩いているのが見えた。
「狼も!」
狼は岩山に向かって行く。リルは狼の背に乗り、そのままついていった。
岩山にはいくつかの小さな紫の光が見えた。リルは狼の背から離れて、岩山の頂上に向かう。
上に向かうにつれ、岩山の内部がなぜか透けるように見え始めた。そして地中深くに、巨大な紫の光の塊が見えた。
「岩山の地中に禍がいる?」
リルは山頂に着いた。まわりを見渡すと、山頂の一角に何か見える。
小さな石が円状に置かれ、その内側には人の背丈ほどある石が3つ、中心を空けて三角に並んでいる。
すると、巨石の中心に向かって、上から光が差してくるのが見えた。
「あれは?」
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リルは目を覚ました。
今のは夢?不思議な岩や光...
まだ夜明け前だろうか、窓の外は少し明るくなり始めている。
リルが身を起こすと、クアも目を覚ました。
「クア様、不思議な夢を見ました。赤い森の中を、金色の光が飛んでいたんです」
「赤い森の妖精を見たのか?」
「それと、あの岩山の内部が見えました。地中深くに、紫の光が大きな塊になって満ちているのが見えたのです」
「岩山の地中に、禍の塊が?」
「はい。岩山の頂上にも行ったのですが、大きな石が3つ並んでいて...その石に向かって光が差し込んだのです」
「リル、なぜそれを?」
クアは驚く。
「確かにあの山は頂上に3つの石が並んでいる。それに、天から光が降りるのを俺も見たことがある」
クアは考えていた。慈束の儀で禍を浄化できたのなら、岩山の禍も何か方法があるかもしれない。
そして山頂の光。光から禍が生まれ、表面に巣食うのではなく、内部に潜んでいるのか?
「禍の浄化について何かわかるかもしれない。起きるか。儀式を閉じよう」
クアはベッドから降りると、祭壇の前に向かう。
クアの隣にリルは隣に座った。
「俺が唱え終わるまでそこにいてくれ」
香を焚き、クアが術式を唱える。リルは自分の体に禍が残っていませんように、と願いながら香の煙を見ていた。
クアがリルのほうを向いてじっと見つめる。
「やはり、俺の目には禍はもう見えない」
リルはほっとする。
「部屋に戻ったら食事の後に大神官様に報告しよう」
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リルは部屋に戻り、沐浴室で体を清めた。
ほんの数時間前には、儀式でクアと共にいた。
もう、クアは「リル」とは呼んでくれない。
禍が祓えたのなら、ラス王国に帰らなくてはならない。そしてユークと結婚...
温かい湯の中で、リルは静かに涙を流した。
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「大神官様、石板の術式を終えました。私の目にはリル王女から禍はもう見えません」
大神官がリルを祭壇に寝かせて、術式を唱える。
「慈束の儀は無事、成し遂げられたようだな。リル王女の禍は祓われた」
リルはほっとしながらも、心が重いままだった。
「大神官様、儀式で金色の光が禍を包むのを見ました。それと、リル王女は昨夜、夢で赤い森の妖精や岩山の石群を見たそうです。山頂に差す光、さらに岩山の地中には禍の塊があるとも」
「金色の光...クアとの儀を終えて、リル王女に力が宿ったのかもしれぬ」
クアとリルは顔が赤くなった。
「リル王女、禍は祓われたが、憑かれていた体にはまだ負担が残っている。しばらくはウタ国で体を癒すように。これからこの国は雪に覆われる。ラス王国に戻れるのは春になるが、よいか」
「はい。大神官様」
ウタ国は標高の高い山に囲まれており、ラス王国に面した国境側は深い雪に覆われてしまう。リルは春まで戻れないことが、うれしいのか悲しいのか複雑な気持ちだった。
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クアは昨夜、慈束の儀が無事に済めばすぐに術式を唱えて、儀式を終える予定だった。
あくまで儀式だ。冷静さを保ち、リル王女を部屋に送り届けて自室に戻る。それでいい。
それなのに、慈束の儀ではリルの美しさに溺れ、儀式の後も一緒にいたいと思ってしまった。部屋に戻りたいかリルに尋ね、一緒に眠りたいと言われたときは喜んだ。
朝になり、自分の横で夢を見たと話すリルが可愛くて、その場で抱きしめたい気持ちを必死に抑えた。
このまま、俺のもとにいればいい。
ふと、そんな思いを抱いてしまう。しかし、いずれリルは遠くへ行ってしまう存在だ。決して想いを持ってはならない。クアは自分に言い聞かせる。
儀式で見たリルの光...あの光は、この国の禍を祓えるかもしれない。
クアはこの国の王子として、神官として、禍に立ち向かうことに集中しようと決めた。




