15話. 3枚の石板
儀式の翌日から、クアは王宮の外にあるウタ文明の遺跡保管庫へ向かった。連日に渡って遺跡の石板や伝承を探り、リルへの想いをかき消すかのように、禍を祓う方法を追求した。
クアは「慈束の儀」の術式を習得する際に、大神官から他の石板についても教えられていた。
1枚目の「慈束の儀」は、取り憑いた「禍」を愛の儀式で祓う。
2枚目は「結光の儀」。光の使者の力を高める儀式とされている。クアはこの石板は、神官のための儀式だと思っていた。
3枚目は「誕滅の儀」。光の使者が愛の力で金色の光を産み、愛の世界で闇を包むと記されている。クアはこの石板は、神官が赤い森の妖精の力を使う術だと思っていた。
慈束の儀の際、リルは金色の光を放っていた。
赤い森の妖精と同じ金色の光...光の使者とはリルのことか?もしリルの光を高めたら、岩山の禍を祓えるのかもしれない。
クアは赤い森の妖精に関する古代の伝承を調べた。
はるか昔、文明の発展に奢った人々は赤い森の木々を大量に伐採した。これにより妖精の数が減り、「禍」に支配される暗黒の時代が数百年続いた。国は衰退し、当時の文明や叡智の大半が失われた。それ以来、ウタの人々は赤い森と妖精を大切に守るようになったと記されている。
クアは大神官に報告した。
「大神官様、リル王女の光は、妖精と同じ光かもしれません。石板の光の使者とはリル王女のことでは...」
「雪が降る前に、リル王女を連れて赤い森に行くとよい」
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「リル王女」
クアに会うのは数日ぶりだ。クアは慈束の儀の翌日から王宮の外にある遺跡保管庫に泊まり込み、伝承を探っていたという。
「これから一緒に赤い森に来てほしい。王宮の外に出るので、これを」
クアは水晶のペンダントをリルに渡した。
「私も赤い森に?」
「儀式の時に見た金色の光は、妖精の光と同じかもしれない。それを確かめたい」
リルは水晶のペンダントを身につけて、金色の髪を隠せるローブを被った。
クアと共に、王宮の裏手から赤い森に入る。
そこには、リルが夢で見た景色そのままの森があった。
私、ここに来たことがある...
先を進むと、夢で見たのと同じ木の枝に、赤い鳥が止まっていた。
鳥のまわりには、金色の光が舞っているのが見える。
「クア様、あの鳥のまわりに光が見えます」
クアが鳥を見る。
「本当か?俺には見えない。小さい頃はよく見えていたんだが」
リルは鳥に近づいてみる。すると鳥が止まっている木の奥にも、金色の光がいくつも見えた。
「クア様、こちらに来てください」
リルはクアを連れて、光が見える方向に進む。奥に進むと、夢で見たのと同じ狼がいるのが見える。
あぁ!あの狼にも会えた!リルは嬉しくなった。
狼はリル達に気が付くと、ゆっくりと森の奥に消えていった。狼がいた茂みの先には、少し開けた場所がある。二人はその開けた場所に行き、空を見上げる。
「小さい頃、この森が光っているのを見た。もしかするとこの場所なのかもしれない」
先ほどまでチラチラと光っていた光の妖精が、その場に集まり、二人のまわりを舞っている。
すごく綺麗...
「リル、俺にも光が見えた!君の体も光っている」
クアの目にも飛び交う金色の光と、リル自身からの光が見えていた。
「あの時の光と同じだ。やはり君は光の力を持っている」
「光の力?」
「この国の禍を、全て祓えるかもしれない」
リルは驚いた。私が禍を?
王宮に戻ると、祭壇室でクアが石板を見せてくれた。1枚は慈束の石板。他の2枚は初めて見た。
「この石板は結光の儀。光の力を持つ者の力を、儀式によって高める術式だ。俺はこれを神官のための術式だと思っていた。だがこれはリル、君の力を高めるのかもしれない」
「もう1枚は誕滅の儀。金色の光で闇を包むと記されている。これも神官や妖精の力かと思っていたが、リルの光を使うのかもしれない」
リルはクアを見つめた。
「私を救ってくれたクア様のお力になれるのなら、私はどうなってもかまいません」
クアは結光の儀について教えてくれた。
「この儀式は、愛の力で光を高めるとされている。光に目覚めた者が、慈束の儀で見たあの世界に行くことで、さらなる力を得る」
「あの、何もかも一つになった世界に?」
「そうだ。過去にこの儀式を試した神官の記録があるが、何も起こらなかったとある。光の力を持つ者ではないと術式が発動しないのだろう」
「その世界に行くには...またクア様と一つになればよろしいのでしょうか?」
クアの顔が赤くなる。
「...他の手段も調べたのだが、特定の薬草を使うと同じような世界を見ることはできるらしい。だかここに記された双方の愛というのが、肉体のつながりを意味するのなら、慈束の儀と同じ方法となる」
今度はリルが赤くなった。
「リル、結光の儀を受けてくれるか」
「はい」
クアは儀式の翌朝にはリル王女と呼んでいたが、森に行ってからはまたリルと呼んでくれる。リルはそれが嬉しかった。
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クアは儀式に向けて、石板の術式を習得する日々を過ごす。
光の使者...愛の力と愛の世界...
「大神官様、私が20歳を迎え、許された神官の教えに「愛を行うには、己の執着から抜ける」とあります。__この石板にも「愛」と記されていますが、私には、この愛というものが未だに掴めずにいます。家族や相手を想うことでしょうか?」
「クア、人はその人生を歩む中で、自分に関わる人や物を持つと、そこに欲が生まれる。そしてそれらを手放すことを拒むようになる。__伝承が示す「愛」とは「欲」とは異なる。それは執着のないものだ。自我すらも手放した、極地に「愛」がある」
それから約半月後、結光の儀の日程が決まった。
季節は冬を迎え、雪が降り始めていた。
リルは自身に取り憑いた禍が祓われたら、クアへの想いを断ち切る覚悟でいた。
しかし光の力を宿したことで、またクアと一つになる。
もう一度クアと肌を重ねたら、リルは気持ちを抑えられない気がしていた。そして、ラス王国に戻った後の苦しみに耐えられないとも感じていた。
リルはすでに、引き返せないほどクアに恋をしていた。




