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勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


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97/120

第97話 Mが拒否した理由

――最初の選択。


 ――レイン → M。


 ――M → 拒否。


 その文字だけが。


 壁に残っている。


 俺は。


 しばらく。


 何も言えなかった。


「……俺」


 自分の胸を指す。


「Mを選んだのか?」


 ミラが。


 壁を見る。


「そう書いてあるね」


「何を選んだんだ?」


「それは」


「まだ分からない」


 俺は。


 ため息をつく。


「この施設」


「肝心なところだけ隠す癖があるな」


「レインがすぐ知りたがるからじゃない?」


「施設側にまで俺の性格を理解されてるのか」


「有名人だね」


「嬉しくない」


 すると。


 壁の文字が。


 ゆっくり。


 変わった。


 ――選択内容:人生の共有。


「……」


 ミラが。


 固まる。


「人生の共有?」


「ああ」


「Mと?」


「たぶんな」


 その下。


 ――レイン:要求。


 ――M:拒否。


 さらに。


 ――拒否理由:一人の人生を二人で生きることはできない。


 俺は。


 その文章を。


 何度も読む。


「……」


 ミラが。


 静かに言う。


「Mは」


「レインと一緒に生きることを」


「断ったんだね」


「そうみたいだ」


「どうして?」


 俺は。


 答えられない。


 すると。


 壁に。


 続きが現れた。


 ――Mの発言。


 ――『あなたの人生は、あなたのもの。』


 ――『私の人生も、私のもの。』


 ――『混ぜてはいけない。』


「……」


 ミラが。


 目を伏せる。


「なんか」


「私」


「これ」


「分かる気がする」


「……」


「レインと一緒にいるけど」


「レインにはなれない」


「私の人生は」


「私のものだから」


 俺は。


 少しだけ。


 笑った。


「それ」


「今のお前と」


「同じだな」


「うん」


 壁に。


 新しい記録。


 ――M:自己選択を優先。


 ――レイン:拒否された。


 ――計画:開始条件を満たす。


「……」


「待て」


 俺は。


 その最後の一文を見る。


「Mが俺を拒否したことが」


「MIRA計画の開始条件?」


 01が。


 頷く。


「おそらく」


「なぜ?」


「二人の人生を」


「分離する必要が生じた」


「……」


 俺は。


 嫌な予感がした。


「だから」


「名前を分けた?」


「名前だけじゃない」


 01が。


 指を折る。


「人格」


「記憶」


「役割」


「身体」


「そして」


 一拍。


「人生」


 ミラが。


 小さく呟く。


「全部」


「分けた?」


「ああ」


 俺は。


 壁を見る。


 ――MIRA計画:第一段階。


 ――分離対象を決定。


 ――対象A:レイン。


 ――対象B:M。


 その下。


 ――分離方法:未定。


 そして。


 ――第三対象:必要。


「……第三対象?」


 俺は。


 眉をひそめる。


「二人を分けるのに」


「三人目が必要だった?」


 M-02が。


 静かに言った。


『うん』


「知ってるのか?」


『少し』


「誰?」


『僕』


「……」


 俺は。


 M-02を見る。


「お前が第三対象?」


『違う』


「じゃあ?」


『僕は』


 一拍。


『第三対象から』


『生まれた』


「……」


 俺の背中に。


 嫌な汗が流れる。


「第三対象って」


『名前』


「……名前?」


『二人を分けるために』


『一つの名前が必要だった』


 ミラが。


 首を傾げる。


「名前を?」


『うん』


『二人の人生から』


『一つだけ取り出す』


「……」


『それを』


『別の存在にする』


 俺は。


 これまでの記録を。


 思い出す。


 アルド。


 レイン。


 ミラ。


 共有された名前。


 返却された名前。


 捨てられた名前。


 選ばれた名前。


 全部。


 一つの線に。


 繋がり始めていた。


「……」


 壁に。


 新しい文字。


 ――第三対象:名前。


 ――名称:未確定。


 ――人格:未確定。


 ――身体:不要。


 ――目的:分離。


「身体はいらない」


 俺が呟く。


「じゃあ」


「最初から」


「人間じゃなかった?」


 M-02が。


 頷く。


『うん』


『最初に作られたのは』


『人間じゃない』


「じゃあ何だ?」


『名前』


「……」


 俺は。


 額を押さえる。


「また名前か」


 ミラが。


 笑う。


「この物語」


「名前好きだね」


「俺もそう思う」


 だが。


 次の文字を見て。


 俺は。


 笑えなくなった。


 ――第三対象:名称「アルド」。


「……!」


 ミラが。


 息を呑む。


「アルド……?」


 俺は。


 頷く。


「一つの名前を」


「二人から分けた」


「そして」


「その名前を」


「アルドにした」


 01が。


 静かに言う。


「だから」


「所有者が複数だったのか」


「……」


 壁に。


 さらに。


 記録が出る。


 ――原初名称:アルド。


 ――所有者:レイン/M。


 ――分離後所有者:複数。


 ――人格形成:開始。


「……」


 俺は。


 今までの。


 アルドに関する記録を。


 思い返した。


 勇者。


 死。


 名前。


 共有。


 返却。


 そして。


 「名前から生まれたアルド」。


 もしかすると。


 俺たちが。


 アルド本人だと思っていたものは。


 最初から。


 「アルド」という名前を。


 人格にした存在だったのかもしれない。


 だが。


 それでも。


 一つだけ。


 分からない。


「じゃあ」


「本物のアルドは?」


 壁が。


 止まった。


 数秒。


 何も表示されない。


 そして。


 ようやく。


 一行。


 ――原初所有者:記録欠損。


「……またか」


 俺は。


 ため息をつく。


 だが。


 今度は。


 ミラが。


 何かに気づいた。


「待って」


「何だ?」


「原初所有者」


「記録欠損って」


「誰かが消したんじゃない?」


「……」


 俺は。


 壁を見る。


「確かに」


 その瞬間。


 ――記録削除者:M-00。


「……!」


 ミラが。


 目を見開く。


「M-00が?」


 M-02が。


 震える声で言った。


『違う』


「何が?」


『M-00じゃない』


「でも」


『記録上は』


『M-00』


「……」


『本当は』


『もっと前』


 一拍。


『M-00が』


『Mになった時』


「……?」


『M-00は』


『Mの記録を』


『自分で消した』


 ミラが。


 顔を強張らせる。


「……私?」


『違う』


「……」


『M-00という存在が』


『Mを名乗った時』


『Mの記録を』


『消した』


「じゃあ」


「M-00は」


「Mになりたかった?」


『違う』


「なら?」


『Mを』


『消さないと』


『M-00として』


『生きられなかった』


 俺は。


 息を止める。


 名前を奪った。


 名前を借りた。


 名前を捨てた。


 名前を返した。


 この物語で。


 何度も繰り返されてきたこと。


 でも。


 その始まりは。


 もっと単純だったのかもしれない。


 ――誰かが。


 誰かの名前を。


 自分のものにした。


 その瞬間。


 壁に。


 最後の記録が現れた。


 ――M-00:人格形成完了。


 ――新名称:ミラ。


「……」


 ミラが。


 動かない。


「……私」


 その文字を。


 見つめている。


 俺も。


 何も言えなかった。


 だが。


 さらに。


 その下に。


 小さな文字が。


 現れる。


 ――ただし。


 ――M-00が「ミラ」になった時点で。


 ――原初Mは、まだ存在していた。


「……!」


 ミラが。


 ゆっくり。


 顔を上げる。


「じゃあ」


「Mは」


「まだ」


「どこかにいる?」


 壁が。


 答える。


 ――現在:生存確認。


 俺は。


 目を見開いた。


「……」


 そして。


 その直後。


 部屋の奥から。


 聞き覚えのない。


 女性の声がした。


『やっと』


『私を探し始めたんだね』


 ミラが。


 振り返る。


「……誰?」


 声が。


 静かに。


 笑う。


『あなたが』


『私の名前を使っている』


『今のミラでしょう?』


「……」


 ミラの顔から。


 笑みが消えた。


 俺は。


 無意識に。


 ミラの前へ。


 立った。


 そして。


 暗闇の奥から。


 一人の女が。


 ゆっくり。


 姿を現した。


 顔は。


 まだ見えない。


 ただ。


 胸元には。


 一文字。


 ――M。


 そして。


 その女は。


 俺を見る。


『レイン』


「……」


『五十年ぶり』


 一拍。


『会いたかったよ』


 俺の。


 第三心臓が。


 激しく鳴った。


 ――ドクン。


 ――ドクン。


 ――ドクン。


 壁の数字が。


 静かに変わる。


 ――自由領域:30%。


 そして。


 新しい記録。


 ――原初M:帰還。


 物語は。


 ようやく。


 「M」という名前の。


 本当の持ち主へ。


 手を伸ばした。

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