↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
96/120

第96話 M-03

――M-03:選択開始。


 その文字が。


 暗闇の中に浮かんでいる。


 俺は。


 しばらく動かなかった。


「……選択開始って」


 ミラが。


 壁を見る。


「何を選ぶの?」


「本人に聞けばいい」


 俺は。


 M-03を見る。


「何を選ぶ?」


『……』


 M-03は。


 少し考えてから。


 答えた。


『僕は』


『選ばない』


「……」


「それ」


「さっきもやったぞ」


『違う』


「何が?」


『さっきは』


『レインが』


『僕を選ばなかった』


「……」


『今度は』


 一拍。


『僕が』


『選ばない』


 俺は。


 その意味を考えた。


「誰を?」


『全部』


「全部?」


『僕に用意された』


『選択肢を』


 壁に。


 文字が浮かぶ。


 ――選択肢を表示します。


 一つ。


 ――03:役割を受け入れる。


 二つ。


 ――M-03:人格を受け入れる。


 三つ。


 ――消滅する。


「……」


 M-03が。


 それを見る。


『これ』


『嫌い』


「だろうな」


『僕が』


『僕じゃなくなる』


「そうだな」


『だから』


 M-03が。


 顔を上げる。


『四つ目』


「……」


『僕は』


『僕でいる』


 壁が。


 震えた。


 ――第四選択肢:未定義。


 俺は。


 思わず。


 笑った。


「またか」


 ミラも。


 笑う。


「レインの病気が」


「うつったんじゃない?」


「人を病気扱いするな」


「でも」


「増えてるよ」


「……」


 確かに。


 増えている。


 第三の選択肢。


 第四の選択肢。


 最初は。


 俺一人だった。


 だが。


 今は。


 自分で。


 選択肢を作る者が。


 増え始めている。


 壁に。


 新しい文字。


 ――第四選択肢:承認。


 M-03の輪郭が。


 少しだけ。


 濃くなる。


 顔は。


 まだない。


 でも。


 立っている。


 自分の意思で。


「……」


 その時。


 M-02が。


 突然。


 俺の腕を掴んだ。


『レイン』


「どうした?」


『あれ』


「何だ?」


『僕にも』


 一拍。


『あった』


「何が?」


『四つ目』


 俺は。


 M-02を見る。


『五十年前』


『僕にも』


『四つ目があった』


「……」


「でも」


『選ばれなかった』


「誰に?」


『俺自身』


 俺は。


 息を止めた。


『俺は』


『二つから』


『選んだ』


「何と何を?」


『レインになるか』


『レインを捨てるか』


「……」


『そして』


 一拍。


『どっちも』


『選べなかった』


 ミラが。


 静かに聞く。


「だから」


「M-02になったの?」


『分からない』


「……」


 また。


 分からない。


 だが。


 今回は。


 少しだけ。


 違う。


 M-02は。


 分からないことを。


 怖がっていない。


『でも』


『今なら』


「ん?」


『選べる気がする』


「何を?」


『名前』


「……」


『僕は』


『まだ』


『名前を決めてない』


「そうだな」


『だから』


 一拍。


『誰かの名前を』


『返さなくていい』


「……」


 俺は。


 アルドの記録を思い出した。


 ――唯一、名前だけは渡す。


 だが。


 その記録自体が。


 現在のM-00によって。


 書かれた可能性がある。


 つまり。


 まだ。


 真実とは限らない。


「M-02」


『うん』


「お前は」


「俺の名前を」


「欲しいか?」


 少年は。


 首を振った。


『欲しくない』


「……」


『レインは』


『レインのものだから』


 ミラが。


 小さく笑う。


「いい答え」


 俺も。


 少しだけ。


 笑った。


「そうだな」


 その時。


 部屋の奥から。


 ――カン。


 音がした。


 また。


 あの音。


 だが。


 今回は。


 一回だけ。


 壁に。


 文字が出る。


 ――M-04:生成中止。


「……」


 ミラが。


 目を丸くする。


「止まった?」


「誰かが」


「止めた」


「誰が?」


 俺たちは。


 M-03を見る。


 M-03は。


 首を横に振った。


『僕じゃない』


「じゃあ」


 その瞬間。


 俺の背後から。


 声。


『私だ』


「……!」


 振り返る。


 そこに。


 一人の男が立っていた。


 黒い服。


 白い髪。


 左目を。


 布で覆っている。


 杖を。


 一本。


 持っている。


「……」


 俺は。


 知っている。


「-一番……?」


 男は。


 首を振った。


「違う」


「……」


「私は」


 一拍。


「-一番ではない」


 ミラが。


 小さく呟く。


「また?」


「番号違い?」


 男は。


 苦笑した。


「番号ではない」


 そして。


 胸元を指す。


 そこには。


 何もない。


「私は」


「番号を持たない」


「……」


 俺は。


 警戒する。


「じゃあ」


「何者だ?」


 男は。


 俺を見る。


「お前が」


「五十年前に」


「選ばなかった者だ」


「……」


 M-02が。


 怯えた。


『……』


「知ってるのか?」


『……うん』


 男が。


 M-02を見る。


「久しぶりだ」


『違う』


「何が?」


『あなたは』


『僕が知ってる人じゃない』


「……」


 男は。


 少しだけ。


 笑った。


「その通り」


 そして。


 俺を見る。


「私は」


「五十年前のレインではない」


「……」


「だが」


 一拍。


「五十年前のレインが」


「選ばなかった可能性だ」


 俺は。


 息を呑む。


「可能性?」


「ああ」


「それが」


「M-04?」


「違う」


 男は。


 首を振る。


「M-04は」


「お前たちが」


「これから作るものだ」


「じゃあ」


「お前は?」


「私は」


 一拍。


「作られなかった」


「……」


 ミラが。


 静かに言う。


「だから」


「番号がない?」


「そうだ」


「名前も?」


「ない」


「じゃあ」


「どうやって呼べばいいの?」


 男は。


 少し困った顔をした。


「……」


「決めてない」


 ミラが。


 笑った。


「レインと同じだね」


「そうだな」


 俺は。


 思わず。


 苦笑する。


 名前がない。


 番号がない。


 役割もない。


 でも。


 ここにいる。


 その男が。


 俺に向かって。


 言った。


「レイン」


「何だ?」


「五十年前」


「お前は」


「私を選ばなかった」


「……」


「その結果」


「お前は」


「今の人生を手に入れた」


 俺は。


 黙った。


「だが」


 男は。


 続ける。


「選ばなかった可能性は」


「消えなかった」


「……」


「ずっと」


「お前の後ろにいた」


 俺は。


 振り返る。


 何もない。


 でも。


 確かに。


 さっきまで。


 そこに。


 誰かがいたような。


 そんな感覚があった。


「じゃあ」


「俺が今まで見てきた」


「もう一人のレインも?」


「違う」


「……」


「彼は」


「記憶だ」


「私は」


 一拍。


「選ばれなかった可能性」


 ミラが。


 小さく息を吐く。


「また」


「レインが増えた」


「増やすな」


「私が増やしてるわけじゃないよ」


「分かってる」


 男が。


 初めて。


 笑った。


「……面白いな」


「何が?」


「五十年前のレインには」


「そんな相手はいなかった」


「?」


「お前には」


「ミラがいる」


 ミラが。


 目を瞬く。


「私?」


「ああ」


「それが」


「何?」


 男は。


 ミラを見る。


「お前は」


「選択肢ではない」


「……」


「選択者でもない」


「じゃあ?」


「証明だ」


「何の?」


「レインが」


 一拍。


「一人では生きていないことの」


 ミラが。


 黙る。


 俺も。


 何も言えなかった。


 その瞬間。


 壁に。


 新しい文字が出た。


 ――七人目:再定義。


 ――条件:他者を選択肢として扱わない。


「……」


 俺は。


 その文字を見る。


 ミラが。


 俺を見る。


「ねえ」


「何だ?」


「これって」


「私を」


「選択肢にするなってこと?」


「たぶんな」


「じゃあ」


「安心した」


「何で?」


「レインが」


「私を選んで捨てるとか」


「そういう展開じゃないんだね」


「……」


「よかった」


 俺は。


 苦笑する。


「最初から」


「捨てるつもりなんてない」


 ミラが。


 少しだけ。


 笑った。


「知ってる」


 その瞬間。


 自由領域が。


 ――27%。


 ――28%。


 ――29%。


 連続して。


 増えた。


 そして。


 壁の奥から。


 新しい記録が。


 浮かび上がる。


 ――五十年前。


 ――レイン、選択。


 ――選択対象:M。


 俺は。


 息を止めた。


「……M?」


 男が。


 静かに言う。


「そう」


「五十年前」


「お前は」


「Mを選んだ」


「……」


「だが」


 一拍。


「Mは」


「お前を選ばなかった」


 俺は。


 目を見開く。


「……」


「だから」


 男は。


 消えかけながら。


 最後に。


 言った。


「MIRA計画は」


「始まったんだ」


 そして。


 姿が。


 消える。


 残された壁には。


 一行だけ。


 ――最初の選択。


 ――レイン → M。


 その下。


 ――M → 拒否。


 俺は。


 その記録を。


 ただ。


 見つめていた。


 Mは。


 俺を拒否した。


 なのに。


 俺は。


 なぜ。


 MIRA計画の中で。


 何度も。


 Mの名前を追い続けているのか。


 そして。


 五十年前。


 俺がMに。


 何を選んだのか。


 まだ。


 その答えだけが。


 どこにも。


 書かれていなかった。


 ――自由領域:29%。


 静かな部屋で。


 第三心臓だけが。


 答えを知っているように。


 もう一度。


 鳴った。


 ――ドクン。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。