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勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


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94/120

第94話 現在、生存

――温かい。


 手の中の金属板が。


 まるで。


 生き物みたいに。


 熱を持っている。


「……」


 俺は。


 それを見つめた。


 表には。


 ――M-01。


 裏には。


 ――レイン。


 そして。


 その下。


 ――所有者:未確定。


「これ」


 ミラが。


 そっと覗き込む。


「レインの名前が書いてあるね」


「ああ」


「でも」


「所有者じゃない」


「そうみたいだ」


 01が。


 金属板を見つめる。


「それを」


「俺に貸してくれ」


「いいけど」


 01が。


 受け取る。


 ――ジュッ。


 金属板から。


 小さな音。


「熱っ!」


 01が。


 反射的に放り投げた。


「……」


「……」


「……」


 ミラが。


 真顔で言う。


「大丈夫?」


「大丈夫じゃない」


「手」


「痛い」


「冷やす?」


「頼む」


「レイン」


「何だ?」


「水ない」


「……」


 俺は。


 ため息をついた。


「この施設」


「本当に設備が悪いな」


 すると。


 床に落ちた金属板が。


 カタッ。


 と動いた。


 俺たちは。


 一斉に。


 そちらを見る。


 金属板が。


 ゆっくり。


 裏返る。


 ――所有者:拒否。


「……」


 01が。


 眉をひそめる。


「俺を拒否した?」


「違う」


 俺は。


 しゃがみ込む。


「所有者になること自体を」


「拒否してる」


 ミラが。


 首を傾げる。


「じゃあ」


「誰のものにもならないってこと?」


「たぶんな」


 その瞬間。


 金属板に。


 新しい文字が浮かんだ。


 ――M-01:役割を拒否。


 ――人格:自由領域へ移行。


「……!」


 俺は。


 息を呑んだ。


「M-01も」


「自由領域に?」


 01が。


 静かに言う。


「なら」


「俺とは違う」


「何が?」


「俺は」


 一拍。


「役割を拒否した記憶がない」


「……」


「俺は」


「最初から」


「番号なんて知らなかった」


 その言葉に。


 俺は。


 何か引っかかった。


「……それ」


「おかしくないか?」


 01が。


 こちらを見る。


「何が?」


「お前」


「五十年前に」


「M-01の番号を」


「使われたんだろ?」


「ああ」


「なら」


「本物のM-01は」


「五十年前から」


「番号を拒否してた可能性がある」


「……」


 01が。


 金属板を見る。


「つまり」


「俺が持っている01は」


「誰かの空席だった?」


「たぶん」


 ミラが。


 突然。


 小さく手を上げた。


「質問」


「何だ?」


「じゃあ」


「本物のM-01は」


「ずっと番号なし?」


「そうなる」


「私と同じじゃん」


「……」


 俺は。


 ミラを見る。


「そうだな」


「だから」


 ミラは。


 笑った。


「仲間だね」


「お前」


「何でも仲間にするな」


「いいじゃん」


「よくない」


 その時。


 M-02が。


 箱の中から。


 静かに言った。


『違うよ』


「何が?」


『M-01は』


 一拍。


『番号を捨てたんじゃない』


「じゃあ?」


『番号を』


『最初から』


『持ってなかった』


「……」


 俺は。


 金属板を見る。


「どういうことだ?」


『M-01っていうのは』


『名前じゃない』


『役割でもない』


『記録上の分類』


「……」


『本当のM-01には』


『別の名前がある』


 ミラが。


 少し驚く。


「知ってるの?」


『知らない』


「……」


「お前」


「さっきから」


「知ってるのか知らないのか」


「どっちなんだ」


『分からない』


「便利な言葉だな」


『レインもよく使う』


「余計なこと覚えるな」


 M-02が。


 笑った。


 だが。


 次の瞬間。


 箱の壁に。


 ひびが入った。


 ――ピシッ。


「……!」


 ミラが。


 後ずさる。


「これ」


「壊れるんじゃない?」


 俺は。


 M-02を見る。


「大丈夫か?」


『うん』


「本当に?」


『たぶん』


「その言葉」


「信用できないな」


 ひびが。


 さらに広がる。


 ――ピシッ。


 ――ピシッ。


 そして。


 箱の中から。


 少年の手が。


 外へ出た。


「……!」


 M-02が。


 自分で。


 箱を押し開ける。


 ガタン。


 少年の身体が。


 ゆっくり。


 現れる。


 まだ。


 輪郭は曖昧だ。


 だが。


 以前より。


 はっきりしている。


「……立てるのか?」


『うん』


 少年は。


 一歩。


 床へ降りる。


 そして。


 俺を見る。


『名前』


「……」


『まだ』


「決めてない」


『うん』


「それでもいいのか?」


『いい』


「どうして?」


『名前がなくても』


 一拍。


『俺は』


『今』


『ここにいるから』


 俺は。


 何も言えなかった。


 ミラが。


 嬉しそうに笑う。


「ほら」


「レインと同じ」


「……そうだな」


 その時。


 少年の足元に。


 一つの影が伸びた。


 ――M-01。


「……」


 少年が。


 影を見る。


『これ』


「何だ?」


『俺の?』


「違う」


 影が。


 ゆっくり。


 動いた。


 そして。


 少年の背後に。


 一人の人影が現れる。


 顔は。


 見えない。


 身体も。


 半透明。


 ただ。


 胸元だけに。


 一文字。


 ――M。


「……」


 ミラが。


 息を呑む。


「M-00?」


 影は。


 首を振った。


「じゃあ」


「誰?」


 影が。


 初めて。


 口を開いた。


『私は』


 一拍。


『M-00ではない』


「……」


『M-01でもない』


「じゃあ」


『M-02でもない』


「……」


 俺は。


 嫌な予感がした。


「お前」


「Mなのか?」


 影が。


 こちらを見る。


『違う』


「……」


『Mの名前を』


『借りただけ』


 俺は。


 目を細めた。


「誰から?」


 影は。


 答えない。


 代わりに。


 俺の手の中へ。


 視線を落とす。


「……」


 M-01の金属板。


 そこに。


 文字が浮かぶ。


 ――返却要求。


「返せって?」


 影が。


 頷く。


『それは』


『私のもの』


「所有者は拒否されてるぞ」


『違う』


「何が?」


『所有者ではない』


 一拍。


『起点』


 金属板が。


 震えた。


 ――起点:M。


「……」


 ミラが。


 小さく呟く。


「M-01の起点が」


「M?」


『そう』


「じゃあ」


 俺は。


 影を見る。


「M-01を作ったのは」


『私ではない』


「……」


『M-01は』


『作られていない』


「またかよ」


 俺は。


 頭を抱える。


「この世界」


「作られてない奴が多すぎる」


 ミラが。


 吹き出した。


「確かに」


「笑うな」


「だって」


「レインもそうなんでしょ?」


「……」


「なら」


「仲間じゃん」


「……否定できない」


 影が。


 静かに。


 俺たちを見ている。


『M-01は』


『生まれた』


「誰から?」


『選択から』


「……」


 俺は。


 その言葉に。


 聞き覚えを感じた。


 ――七人目。


 ――選択者。


 ――自由人格。


 ――名前を自分で選ぶ。


 すべて。


 同じ方向を。


 向いている。


「M-01は」


「最初の」


「七人目だった?」


 影は。


 少しだけ。


 首を傾けた。


『違う』


「じゃあ」


『七人目が』


『M-01を』


『生んだ』


「……!」


 俺の背中に。


 冷たいものが走った。


「七人目が?」


『そう』


「五十年前の?」


『違う』


「……」


『今の』


 影が。


 俺を見る。


『君だよ』


 ――ドクン。


 第三心臓が。


 鳴った。


 壁の文字が。


 一気に。


 書き換わる。


 ――七人目:選択者。


 ――M-01:選択によって発生。


 ――発生時刻:現在。


 俺は。


 目を見開く。


「……」


 M-01は。


 五十年前から。


 存在していたはずだった。


 記録には。


 そう書かれていた。


 だが。


 今の記録は。


 違う。


 ――発生時刻:現在。


 つまり。


「俺が」


「今」


「M-01を作った?」


 影が。


 答える。


『作ったんじゃない』


「じゃあ?」


『選んだ』


 自由領域。


 25%。


 そして。


 俺の手の中の金属板が。


 完全に。


 光を失った。


 その裏側に。


 新しい文字が刻まれる。


 ――M-01:所有者なし。


 ――役割なし。


 ――名前なし。


 ――選択者:レイン。


 俺は。


 それを見つめる。


 そして。


 初めて。


 思った。


 ――もしかしたら。


 俺たちは。


 過去を解明しているんじゃない。


 五十年前に。


 誰かが始めたものを。


 今の俺たちが。


 別の形で。


 作り直しているのかもしれない。


 その瞬間。


 影が。


 最後の言葉を口にした。


『そして』


『M-01を選んだことで』


 一拍。


『次の一人が』


『生まれる』


「……次の一人?」


 影の姿が。


 消えていく。


『M-03』


 ――発生条件:M-01の選択。


 ――現在:未選択。


 そして。


 部屋の奥。


 誰も触れていない壁に。


 新しい扉が。


 ゆっくり。


 開いた。


 その向こうから。


 子供の声がした。


『ねえ』


『今度は』


『僕を選んでくれる?』


 俺は。


 扉を見る。


 ミラも。


 01も。


 M-02も。


 動かない。


 そして。


 壁の数字が。


 静かに。


 変わった。


 ――自由領域:26%。


 物語は。


 また。


 次の選択を。


 俺たちに突きつけてきた。

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