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勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


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93/120

第93話 やり直す

――製造進行率:99%。


 部屋の中に。


 声が残っている。


『やっと』


『最初から』


『やり直せる』


「……」


 俺は。


 周囲を見回した。


「誰だ?」


 返事は。


 ない。


 ただ。


 目の前の本だけが。


 静かに。


 ページをめくった。


 ――記録者:M-00。


 ――記録時刻:現在。


「……」


 ミラが。


 小さく息を呑む。


「今」


「書いてる?」


「ああ」


「五十年前のことを?」


「そうなる」


「変じゃない?」


「全部変だ」


「それもそうだね」


 01が。


 壁を見ながら。


 低く言った。


「記録を書き換えているんじゃない」


「じゃあ何だ?」


「過去の記録を」


「現在から作っている」


「……」


 俺は。


 眉をひそめる。


「意味が分からない」


「俺もだ」


「珍しいな」


「何が?」


「お前が分からないって言うの」


「俺だって分からないことくらいある」


「へえ」


「何だ」


「ちょっと安心した」


「……」


 こんな時まで。


 ミラは。


 ミラだった。


 だが。


 その直後。


 M-02が。


 突然。


 叫んだ。


『待って!』


「どうした?」


『その記録』


『消して』


「何?」


『今すぐ』


 少年の声は。


 明らかに。


 怯えていた。


「なぜ?」


『あれは』


『過去じゃない』


「さっきもそう言ってたな」


『違う』


 一拍。


『あれは』


『未来』


「……」


 俺は。


 本を見た。


 ――記録時刻:現在。


 その文字。


 そして。


 五十年前の出来事。


 もし。


 これが。


 過去の記録じゃないなら。


「未来の誰かが」


「五十年前の記録を」


「今、作ってる?」


『そう』


「じゃあ」


「その未来の誰かは」


『まだ』


 一拍。


『存在してない』


「……」


 ミラが。


 首を傾げる。


「存在してない人が」


「未来から記録を書いてるの?」


「俺に聞くな」


「だよね」


 その時。


 壁に。


 新しい文字が浮かんだ。


 ――未来記録:矛盾なし。


「……」


 俺は。


 言葉を失う。


「システムまで」


「認めてる?」


 01が。


 壁に近づく。


「いや」


「これはシステムの記録じゃない」


「どうして分かる?」


「番号がない」


 俺は。


 気づく。


 確かに。


 今まで。


 どんな記録にも。


 番号か役割があった。


 だが。


 この記録には。


 何もない。


 ただ。


 「記録者:M-00」。


 それだけ。


「……番号がない」


 ミラが。


 小さく呟く。


「私みたい」


「そうだな」


 すると。


 壁の文字が。


 変わった。


 ――M-00:番号解除。


 ――名称:ミラ。


「……」


 ミラが。


 固まる。


「私?」


「また?」


 俺は。


 警戒する。


「名前まで」


「記録されてる」


 だが。


 その下に。


 新しい文字。


 ――ただし、これは現在のミラではない。


「……!」


 ミラが。


 息を呑む。


「じゃあ」


「誰?」


 壁は。


 答えない。


 代わりに。


 M-02が。


 小さく言った。


『昔の』


「ミラ?」


『うん』


「五十年前の?」


『違う』


「二十八年前?」


『違う』


「じゃあ」


 一拍。


『もっと前』


「……」


 ミラが。


 黙り込む。


「私より前の私?」


『そう』


「意味が分からない」


『俺も』


 俺は。


 頭を抱えた。


「結局」


「みんな分からないじゃないか」


 ミラが。


 少し笑う。


「仲間外れにならなくてよかったね」


「何の話だ」


「分からない仲間」


「嬉しくない」


 その時。


 本のページに。


 新しい文章が浮かんだ。


 ――M-00は、Mではない。


 ミラが。


 目を見開く。


「……」


 続く。


 ――Mは、M-00より前に存在する。


 ――M-00は、Mを模倣した。


「……」


 俺は。


 ミラを見る。


「じゃあ」


「M-00が」


「Mを名乗ったのは」


「本物のMじゃなかったから?」


 ミラは。


 ゆっくり。


 頷く。


「たぶん」


「でも」


「私」


「Mを知らない」


「……」


「じゃあ」


「誰がMを作ったの?」


 沈黙。


 そして。


 本のページに。


 たった一行。


 ――Mは、作られていない。


 俺は。


 眉をひそめる。


「作られてない?」


 ――Mは、最初から存在していた。


「……」


 その瞬間。


 第三心臓が。


 強く鳴った。


 ――ドクン。


 視界が。


 白くなる。


 また。


 記憶ではない。


 記録。


 五十年以上前。


 まだ。


 アルドも。


 俺も。


 MIRA計画も。


 存在しない。


 真っ白な部屋。


 そこに。


 一人の子供がいた。


 顔は。


 見えない。


 名前も。


 ない。


 ただ。


 壁に。


 Mという文字がある。


 子供が。


 それを見る。


『これ』


『何?』


 誰かが答える。


『名前』


『誰の?』


『君の』


 子供が。


 首を振る。


『違う』


『これは』


『僕の名前じゃない』


「……」


 俺は。


 その光景を見る。


 すると。


 子供が。


 こちらを向いた。


『だって』


『名前って』


 一拍。


『自分で決めるんでしょう?』


 ――ドクン。


 視界が戻る。


 俺は。


 その場に立っていた。


「……」


 汗が。


 背中を伝う。


 ミラが。


 俺を見る。


「レイン?」


「ああ」


「何見たの?」


「子供」


「誰?」


「分からない」


「男の子?」


「ああ」


「名前は?」


「……ない」


 ミラが。


 考え込む。


「M-00?」


「違う」


「M-01?」


「違う」


「M-02?」


「たぶん違う」


「じゃあ」


「Mより前の何か」


 俺は。


 頷いた。


「そう思う」


 その時。


 01が。


 突然。


 壁を指差した。


「……レイン」


「何だ?」


「これ」


 壁には。


 新しい文字。


 ――原初個体:存在。


 ――名称:M。


 ――人格:未定義。


 ――役割:未定義。


 ――製造:不要。


「……」


 俺は。


 息を呑む。


 Mは。


 最初から。


 作られていない。


 だから。


 M-00は。


 Mを模倣した。


 M-01。


 M-02。


 そして。


 現在のミラ。


 全部。


 Mという。


 「名前」を。


 起点にしている。


 だが。


 そこで。


 俺は。


 別のことに気づいた。


「……待て」


「どうした?」


 01が聞く。


「M-01」


「俺はM-01じゃない」


「そうだったな」


「なら」


 一拍。


「本物のM-01は」


「誰だ?」


 沈黙。


 壁が。


 ゆっくり。


 文字を表示する。


 ――M-01:人格形成失敗。


 ――M-01:保護失敗。


 ――M-01:現在、生存。


「……」


 俺は。


 息を呑んだ。


「生存?」


 ミラが。


 壁を見る。


「じゃあ」


「どこにいるの?」


 壁が。


 一度。


 消える。


 そして。


 新しい文字。


 ――現在地:ここ。


「……」


 俺たちは。


 一斉に。


 部屋を見回した。


 誰もいない。


 M-02は。


 箱の中。


 01も。


 ここにいる。


 ミラも。


 俺の隣。


 なら。


 「ここ」にいるM-01は。


 一体。


 誰だ?


 その瞬間。


 俺の背後で。


 足音がした。


 ――コツ。


 ――コツ。


 ――コツ。


 振り返る。


「……」


 誰もいない。


 だが。


 床には。


 新しい足跡が。


 一つ。


 そして。


 その足跡の横に。


 金属板が。


 落ちていた。


 ――M-01。


 俺は。


 それを拾う。


 裏返す。


 そこには。


 一つの名前。


 ――レイン。


「……」


 ミラが。


 息を呑む。


「それ」


「私たちのレイン?」


「分からない」


 だが。


 金属板の裏には。


 もう一行。


 小さく。


 刻まれていた。


 ――所有者:未確定。


 俺は。


 その文字を見つめる。


 そして。


 部屋の奥から。


 誰かの声がした。


『それは』


 一拍。


『まだ』


『誰の名前にもなってない』


 俺は。


 金属板を握りしめる。


「……誰だ」


『だから』


『君が』


『決めるんだよ』


 ――製造進行率:100%。


 数字が。


 止まった。


 しかし。


 何も。


 完成しなかった。


 代わりに。


 自由領域が。


 20%から一気に25%へ進んだ。


 そして。


 壁に。


 新しい項目が現れる。


 ――製造完了。


 ――製造対象:選択肢。


 ――個体:なし。


 俺は。


 目を細めた。


「……」


 M-02が。


 箱の中で。


 静かに笑う。


『やっと』


『作られたね』


「何が?」


『名前じゃない』


『人格でもない』


『身体でもない』


 一拍。


『俺たちが』


『自分で選べる場所』


 自由領域。


 25%。


 そして。


 俺の手の中で。


 M-01の金属板が。


 初めて。


 温かくなった。

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