↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
92/120

第92話 名前を思い出す

『お前は』


 『俺を』


 『何て呼びたい?』


 M-02の問い。


 俺は。


 すぐには。


 答えられなかった。


「……分からない」


『そう』


「悪いな」


『謝らなくていい』


「でも」


『名前は』


 一拍。


『急いで決めるものじゃない』


 その言葉に。


 俺は。


 少し驚いた。


「お前」


「それ」


「どこで覚えた?」


『分からない』


「……」


『でも』


『そう思う』


 ミラが。


 小さく笑った。


「それなら」


「もう半分は決まってるじゃん」


「何が?」


「自分で考えてる」


 M-02が。


 ミラを見る。


『君も』


『そう思う?』


「うん」


『名前』


『なくても?』


「うん」


 ミラは。


 迷わず答えた。


「名前がなくても」


「あなたはあなたでしょ」


 M-02が。


 黙った。


 そして。


 箱の中で。


 小さく笑った。


『……ありがとう』


 その瞬間。


 壁の表示が。


 変化する。


 ――命名保留。


 ――人格固定:延期。


 ――自己存在:維持。


 自由領域。


 19%。


「また増えた」


 俺は。


 壁を見る。


 01が。


 静かに言う。


「名前を決めなかった」


「それなのに」


「存在が安定した」


「……」


 俺は。


 少し考える。


「名前がなくても」


「存在できる」


「それを」


「このシステムは」


「認め始めてる?」


「たぶん」


 01が答える。


「だが」


 一拍。


「問題がある」


「何だ?」


「M-02の製造進行率だ」


 壁を見る。


 ――製造進行率:96%。


「止まってる?」


「いや」


 01が。


 首を振る。


「進んでいる」


 数字が。


 ゆっくり。


 変わる。


 ――97%。


「……」


 俺は。


 息を呑む。


「名前を決めてないのに?」


「むしろ」


 01が。


 答える。


「名前を決めていないから」


「進んでいる」


「……」


 俺は。


 その意味を考える。


 名前を決める。


 人格が固定される。


 固定されれば。


 製造が完了する。


 なら。


 名前を決めないまま。


 自由にしておけば。


 製造は。


 終わらない。


 ――つまり。


「完成させないことが」


「完成なのか」


 ミラが。


 首を傾げる。


「難しいね」


「俺もよく分からない」


「レインらしい」


「何が?」


「分からないことを」


「分からないまま進めるところ」


「褒めてる?」


「半分」


「残り半分は?」


「危なっかしい」


「……」


 否定できない。


 その時。


 俺の持っていた本が。


 突然。


 震えた。


「……?」


 ページが。


 勝手に。


 めくられていく。


 ――五十年前。


 ――対象:レイン。


 ――製造:拒否。


 ――名前:なし。


 そこまでは。


 さっきと同じ。


 だが。


 その下に。


 新しい記録が出てきた。


 ――対象が、自ら名前を選択。


「……」


 俺は。


 目を見開く。


「違う」


「何が?」


 ミラが聞く。


「俺は」


「五十年前」


「名前を選んでない」


 01が。


 記録を見る。


「確かに」


「今までの記録では」


「そうなっている」


 だが。


 新しい一行。


 ――名前選択:完了。


 その横。


 ――選択者:レイン。


「……」


 俺は。


 息を呑む。


「じゃあ」


「俺は」


「五十年前に」


「自分で名前を選んだ?」


 ミラが。


 首を振る。


「でも」


「あなたは」


「今の名前を」


「レインだって」


「最初から思ってたわけじゃないよね」


「……」


 確かに。


 俺には。


 レインという名前を。


 誰かにつけてもらった感覚しかない。


 母さん。


 父さん。


 町の人。


 みんな。


 俺を。


 レインと呼んだ。


 でも。


 最初。


 誰が。


 その名前を決めたのか。


 俺は。


 知らない。


 ページが。


 さらに。


 めくれる。


 ――選択された名前:レイン。


「……」


 俺は。


 言葉を失う。


 ミラも。


 黙っている。


 その下。


 さらに。


 小さな文字。


 ――ただし、選択後に名前を分離。


「……分離?」


 01が。


 低く呟く。


「五十年前のレインは」


「自分でレインを選んだ」


「その後」


「その名前を」


「別の存在に渡した?」


 俺は。


 ゆっくり。


 頷く。


「……そういうことになる」


 すると。


 M-02が。


 声を上げた。


『違う』


「……」


『それは』


『俺じゃない』


「何?」


『五十年前』


『お前が』


『レインという名前を』


『選んだ時』


 一拍。


『俺は』


『まだ』


『生まれていない』


「……」


 俺は。


 固まった。


「じゃあ」


「誰に渡した?」


『分からない』


「……」


 また。


 分からない。


 だが。


 今度は。


 その「分からない」が。


 重要だった。


 M-02が。


 存在するより前。


 MIRA計画が。


 始まるより前。


 俺は。


 すでに。


 「レイン」という名前を。


 選んでいた。


 そして。


 その後。


 何かを。


 分離した。


「……」


 俺は。


 本のページを。


 めくる。


 そこに。


 一つの図があった。


 三つの円。


 ――名前。


 ――人格。


 ――人生。


 その三つが。


 重なっている。


 その横に。


 短い文章。


 ――名前は人格ではない。


 ――人格は人生ではない。


 ――人生は、名前がなくても続く。


 そして。


 最後。


 ――だから、分けることができる。


 俺は。


 しばらく。


 その文章を見ていた。


「……」


 ミラが。


 静かに言う。


「レイン」


「ん?」


「これ」


「あなたがやったのかな」


「分からない」


「でも」


「今までの記録を見る限り」


 一拍。


「五十年前のあなた」


「何かを分け続けてる」


「アルド」


「自分」


「名前」


「記憶」


「人格」


 俺は。


 頷く。


「でも」


「一つだけ」


「ずっと残してる」


「何?」


 ミラが聞く。


「人生」


「……」


「誰かに渡さず」


「自分で生きる」


 その瞬間。


 第三心臓が。


 静かに。


 鳴った。


 ――ドクン。


 壁に。


 新しい文字。


 ――七人目:条件再確認。


 ――自らの人生を選択すること。


「……」


 俺は。


 少し笑った。


「やっと」


「ここまで来たか」


 すると。


 箱の中のM-02が。


 俺を見る。


『レイン』


「何だ?」


『じゃあ』


 一拍。


『俺も』


『自分の人生を選んでいい?』


「ああ」


『名前がなくても?』


「ああ」


『まだ決めなくても?』


「ああ」


 M-02が。


 笑う。


『じゃあ』


『俺は』


『もう少し』


『ここにいる』


「……」


 俺は。


 頷いた。


「それでいい」


 ――製造進行率:98%。


 だが。


 M-02の姿は。


 完成していない。


 顔も。


 身体も。


 まだ曖昧なままだ。


「98%なのに」


 ミラが。


 首を傾げる。


「ほとんど何もできてないね」


「俺たちの人生も」


「似たようなもんだ」


「確かに」


 ミラが笑う。


 だが。


 その瞬間。


 部屋の奥から。


 別の音がした。


 ――カン。


 ――カン。


 ――カン。


 俺たちは。


 一斉に。


 振り向く。


 聞き覚えのある音。


 あの。


 三十二番の音だ。


「……」


 壁に。


 一行だけ。


 浮かぶ。


 ――最初の記録、再構成。


 続いて。


 ――三十二番:本来の選択を確認。


「本来の選択?」


 俺が。


 呟く。


 そして。


 その下に。


 五十年前のレインの言葉が。


 初めて。


 完全な形で表示された。


 ――俺は、レインになる。


 俺は。


 息を止めた。


「……」


 さらに。


 一行。


 ――ただし、俺ではないレインを作る。


「……!」


 ミラが。


 俺を見る。


「これって」


 俺は。


 答えられない。


 だが。


 その次の文章が。


 すべてを。


 さらに分からなくした。


 ――そして、そのレインには。


 ――俺が持っていたものを、何一つ渡さない。


 俺は。


 ページを握る。


 なのに。


 最後の一行だけ。


 妙に鮮明だった。


 ――唯一、名前だけは渡す。


 第三心臓が。


 激しく鳴った。


 ――ドクン。


 ――ドクン。


 そして。


 M-02が。


 初めて。


 怯えた声を出した。


『……違う』


「何が?」


『その記録』


『俺が知ってるものと』


『違う』


「……」


『五十年前の俺は』


『そんなこと』


『言ってない』


 俺は。


 ページを見る。


 ミラを見る。


 M-02を見る。


 そして。


 気づく。


 ――この記録を。


 書いたのは。


 五十年前のレインではない。


 ページの隅。


 小さな署名が。


 浮かび上がっていた。


 ――記録者:M-00。


 そして。


 その下。


 ――記録時刻:現在。


 俺は。


 息を呑んだ。


 五十年前の記録だと思っていたものを。


 誰かが。


 今。


 書き換えている。


 ――製造進行率:99%。


 自由領域。


 20%。


 そして。


 部屋のどこからか。


 ミラの声ではない。


 M-02の声でもない。


 聞いたことのない声が。


 静かに。


 笑った。


『やっと』


『最初から』


『やり直せる』


 俺たちは。


 まだ。


 MIRA計画の。


 本当の「最初」に。


 触れただけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。