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勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


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85/120

第85話 名前共有

――共有解除まで、残り10時間。


 その数字を見て。


 俺は。


 ため息をついた。


「また時間制限か」


「最近、多くない?」


 ミラが。


 呆れたように言う。


「名前に期限をつけるって、どういう発想なの」


「俺に聞くな」


「レインが作ったんじゃないの?」


「……それは」


 否定できなかった。


 壁には。


 はっきりと。


 ――製造者:現在のレイン。


 と表示されている。


「俺が作ったなら」


「もっとマシな仕様にする」


「例えば?」


「時間制限なし」


「それだけ?」


「あと」


 一拍。


「説明書をつける」


 ミラが。


 真顔になった。


「それは欲しい」


「だろ」


 少しだけ。


 空気が緩む。


 だが。


 その直後。


 ――ドクン。


 俺の胸が鳴った。


「……」


 笑っている場合じゃない。


 第三心臓が。


 壁の表示に反応している。


 ――三者共有状態。


 ――レイン。


 ――ミラ。


 ――アルド。


 そして。


 その下。


 ――人格干渉:発生。


「人格干渉?」


 ミラが。


 表情を変える。


「誰かが誰かを乗っ取るとか?」


「分からない」


 俺が答えた瞬間。


 アルドが。


 胸を押さえた。


「……俺」


「どうした?」


「今」


 アルドが。


 俺を見る。


「お前の記憶が見えた」


「俺の?」


「雪」


 一言。


「五十年前の雪だ」


 俺の胸が。


 また鳴る。


 ――ドクン。


「何が見えた?」


「お前が」


 アルドが。


 少し困った顔をする。


「俺に名前を返した時」


「……」


「お前は」


「泣いていた」


 俺は。


 黙った。


「俺が?」


「ああ」


「覚えてない」


「そうだろうな」


 アルドが。


 苦笑する。


「俺も」


「今まで忘れていた」


 その時。


 ミラが。


 小さく呟いた。


「……私も」


「何が?」


「今の」


「見えた」


「え?」


 ミラが。


 胸元に手を当てる。


「雪の中に」


「レインがいた」


「アルドもいた」


「それから」


 一拍。


「私も」


 俺は。


 ミラを見る。


「五十年前の?」


「分からない」


「顔は?」


「今の私」


「……」


 01が。


 初めて。


 強い声を出した。


「ありえない」


 俺たちは。


 01を見る。


「何が?」


「五十年前」


 01が。


 ミラを見る。


「俺は」


「ミラを見ていない」


「……」


「レインを起動した時」


「そこにいたのは」


「俺と」


「レインだけだ」


 ミラが。


 首を傾げる。


「でも」


「私はいた」


「……」


「レインの横に」


 01が。


 黙る。


 しばらくして。


「記録と」


「記憶が違う」


「いつものことじゃない?」


 ミラが言う。


「……」


 01が。


 少しだけ。


 困った顔をした。


「お前」


「それを普通に言えるのか」


「だって」


「レインの周り」


「ずっとそうじゃん」


「……確かに」


 01が。


 妙に納得した。


「おい」


 俺は。


 突っ込んだ。


 すると。


 壁が。


 突然。


 大きく揺れた。


 ――記録矛盾を確認。


 ――時間軸矛盾を確認。


 ――名前共有状態を再計算。


 文字が。


 次々と変わる。


 ――レイン:五十年前にアルドを所有。


 ――ミラ:二十八年前にアルドを受領。


 ――アルド:現在、所有権を取得。


 そこまでは。


 理解できる。


 問題は。


 その次だった。


 ――三者は、同一名称の異なる所有者ではない。


 俺は。


 目を細める。


「……違う?」


 文字が。


 さらに続く。


 ――三者は、同一名称を共有するために存在した。


「……」


 ミラが。


 息を呑む。


「最初から?」


 壁。


 ――肯定。


「じゃあ」


 俺は。


 聞く。


「俺がアルドの名前を持っていたのも」


「ミラが受け取ったのも」


「こいつが今、持ってるのも」


「全部」


「最初から予定されてた?」


 ――否定。


「……どっちだよ」


 思わず。


 声が出た。


 ミラが。


 吹き出す。


「レイン」


「何だ」


「今のは私も思った」


 だが。


 壁の文字が。


 変わった。


 ――計画されたのは、共有ではない。


 ――計画されたのは、分離。


 俺は。


 黙った。


 そして。


 次の一行。


 ――一つの名前を、三つに分ける。


「……」


 アルドが。


 静かに言った。


「俺たちは」


「最初から」


「一つだったのか?」


 俺は。


 答えられなかった。


 名前。


 人格。


 記憶。


 器。


 何度も。


 分けられてきた。


 俺たちは。


 別々の存在だと思っていた。


 でも。


 もし。


 その「別々」という状態そのものが。


 誰かによって作られたものなら。


「じゃあ」


 ミラが。


 壁を見る。


「分ける前は」


「誰だったの?」


 ――記録欠損。


「またそれ……」


 ミラが。


 頬を膨らませる。


 だが。


 今回は。


 その下に。


 小さな文字があった。


 ――ただし、断片のみ残存。


 そして。


 三つの名前。


 ――レイン。


 ――ミラ。


 ――アルド。


 その三つが。


 ゆっくり。


 重なっていく。


 すると。


 俺の胸が。


 強く鳴った。


 ――ドクン。


 アルドも。


 胸を押さえる。


 ミラも。


 同時に。


 胸に手を当てた。


「……三つ」


 俺が呟く。


「同時に鳴った」


「うん」


 ミラが。


 答える。


「同じ音」


 アルドが。


 目を閉じる。


「違う」


「え?」


「音は同じじゃない」


「じゃあ何が違う?」


 アルドが。


 ゆっくり。


 答えた。


「意味が違う」


「……意味?」


「ああ」


 アルドが。


 自分の胸を指す。


「俺の鼓動は」


「戻るため」


 次に。


 ミラを見る。


「ミラの鼓動は」


「生まれるため」


 そして。


 俺を見る。


「レインの鼓動は」


 一拍。


「選ぶためだ」


 俺は。


 何も言えなかった。


 その瞬間。


 壁に。


 新しい文字が出る。


 ――三者共有:安定。


 ――共有解除:不要。


「……」


 俺は。


 壁を見た。


「じゃあ」


「10時間って何なんだ?」


 返事は。


 すぐには来なかった。


 やがて。


 文字が一つだけ。


 浮かぶ。


 ――製造終了までの時間。


「……」


 俺は。


 息を呑んだ。


「製造?」


 壁の奥で。


 何かが。


 動く。


 ――第八人目。


 ――製造進行率:86%。


「86……?」


 ミラが。


 目を見開く。


「さっきまで」


「もっと低くなかった?」


 俺も。


 覚えている。


 自由領域は。


 まだ16%。


 なのに。


 第八人目の製造は。


 86%。


 つまり。


「自由領域が完成する前に」


「第八人目が完成する?」


 01が。


 首を振った。


「違う」


「何が?」


「逆だ」


 01が。


 壁を見る。


「第八人目が完成することで」


「自由領域が」


 一拍。


「完成する」


 ――製造進行率:87%。


 俺は。


 ゆっくり。


 息を吐いた。


 そして。


 地下のさらに奥から。


 声がした。


『レイン』


「……」


『名前を』


 一拍。


『もう一度』


『分けてくれ』


 その声は。


 初めて聞くはずなのに。


 なぜか。


 懐かしかった。


 そして。


 声の主は。


 最後に。


 こう言った。


『今度は』


『四つにする』


 ――製造進行率:88%。


 自由領域。


 16%。


 まだ。


 何も完成していない。


 なのに。


 俺の中で。


 何かが。


 確実に。


 増え始めていた。

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