第83話 ミラがつくったもの
――製造者:ミラ。
その文字を。
俺は。
何度も見た。
「……ミラが」
「01を作った?」
扉の向こう。
ミラは。
すぐには答えなかった。
「記録には」
一拍。
「そう書いてある」
「でも」
01が。
静かに言う。
「俺は違う」
「何が?」
「俺は」
01が。
自分の胸元に触れる。
「ミラに作られた記憶なんてない」
「記憶が消されてる可能性は?」
「ある」
「じゃあ」
「否定できないだろ」
「……」
01が。
黙る。
ミラが。
扉の向こうから言う。
「待って」
「何だ?」
「M-01の記録」
「まだ続きがある」
「読んでくれ」
俺は。
壁を見る。
ミラの声に合わせて。
文字が浮かび上がる。
――M-01。
――製造者:ミラ。
――製造目的:観測対象の保護。
「……保護?」
01が。
顔を上げる。
「誰を?」
ミラが。
答える。
「レイン」
俺は。
黙った。
「俺を?」
「うん」
記録が。
さらに続く。
――対象レインは、死亡予定。
――M-01は、対象の死亡を防止する。
――ただし、直接介入は禁止。
――対象自身の選択を尊重すること。
「……」
俺は。
その文章を見て。
胸の奥が。
妙に痛くなった。
それは。
今の第三心臓の条件と。
よく似ていた。
「他者による選択を尊重する」
俺が呟く。
「これと」
第三心臓。
「同じだ」
01が。
ゆっくり頷く。
「……そうだな」
「じゃあ」
「第三心臓は」
「五十年前から?」
01は。
答えない。
代わりに。
ミラが言った。
「違う」
「何が?」
「この記録」
「もっと古い」
「……」
俺は。
壁を見る。
日付が。
ゆっくり表示される。
――製造開始:五十年前。
その下。
さらに古い日付。
――原型設計:五十年前より前。
「……」
五十年前より前。
つまり。
俺たちが知っている物語より。
さらに前。
「MIRA計画って」
俺は。
呟く。
「アルドが勇者になる前から」
「存在してたのか?」
ミラは。
答えない。
01が。
代わりに言った。
「おそらく」
「誰が作った?」
「それは」
01が。
目を閉じる。
「分からない」
「……」
また。
分からない。
だが。
今回は。
その「分からない」が。
少し違った。
01は。
本当に。
知らないように見えた。
その時。
ミラが。
突然。
叫んだ。
「レイン!」
「どうした?」
「M-01の顔」
「顔?」
「記録に」
「映像がある」
「見せられるか?」
「うん」
壁が。
白く光る。
映像が。
始まった。
暗い部屋。
椅子。
机。
そして。
一人の男。
黒い服。
顔は。
見えない。
男の前に。
一人の少年がいる。
俺に。
少し似ている。
「……俺?」
ミラが。
答える。
「分からない」
映像の中。
男が。
少年に言う。
『選べ』
『何を?』
『誰を守るか』
『……』
『レインか』
『それとも』
一拍。
『ミラか』
少年が。
黙る。
そして。
『両方』
男が。
笑った。
『それはできない』
少年は。
少し考える。
『じゃあ』
『作ればいい』
俺の。
胸が。
――ドクン。
鳴った。
「……」
映像の少年が。
こちらを見る。
そして。
はっきり。
言った。
『二人とも生きられる場所を作る』
映像が。
途切れる。
「……」
俺は。
言葉が出なかった。
ミラも。
黙っている。
01が。
小さく呟く。
「今の」
「誰だ?」
「分からない」
だが。
その時。
五人目が。
低い声で言った。
「……知ってる」
「え?」
「今の少年」
一拍。
「俺は」
「見たことがある」
「どこで?」
「五十年前」
五人目が。
俺を見る。
「お前の隣にいた」
「……俺?」
「いや」
一拍。
「正確には」
五人目が。
言葉を選ぶ。
「お前と」
「ミラの」
目を見る。
「間にいた」
「……」
俺は。
考える。
俺と。
ミラの。
間。
そんな存在。
今まで。
聞いたことがない。
その時。
ミラが。
突然。
「待って」
と言った。
「どうした?」
「私」
「今の少年」
「知ってる」
俺は。
息を呑む。
「誰だ?」
ミラが。
答える。
「……」
「ミラ?」
「名前」
一拍。
「名前だけ」
「何て?」
「その子は」
ミラの声が。
震える。
「私が」
「最初につけた名前」
地下が。
静まり返る。
「……何て名前?」
ミラは。
しばらく。
答えなかった。
そして。
ようやく。
一言。
「アルド」
「……!」
俺は。
目を見開く。
「でも」
「アルド本人じゃない」
ミラが。
続ける。
「記録には」
「そう書いてある」
「アルドという名前を」
「私が」
「最初に使った」
「……」
俺は。
胸の奥にいる。
名前を持たない声を思い出す。
名前を返してほしいと言った声。
名前を自分で選びたいと言った声。
そして。
今まで現れた。
「アルド」という名前を持つ者たち。
もしかすると。
アルドという名前は。
最初から。
一人の人間のものではなかった。
「じゃあ」
俺は。
呟く。
「アルドって名前は」
「人を指す名前じゃなくて」
「何かの役割だった?」
01が。
ゆっくり首を振る。
「それも違う」
「じゃあ何だ?」
「名前を」
一拍。
「受け取るための器だった」
「……」
その瞬間。
壁に。
新しい文字が浮かぶ。
――名前:アルド。
――所有者:複数。
――初回使用:MIRA計画。
――用途:未定義。
俺は。
背筋が寒くなる。
「複数……」
ミラが。
呟く。
「だから」
「今まで」
「何人も」
「アルドを名乗れたんだ」
だが。
その下に。
さらに一行。
――原初所有者:記録欠損。
「……」
俺は。
また。
謎の前に立たされた。
アルド。
レイン。
ミラ。
どれも。
誰か一人だけのものではない。
それなら。
俺たちは。
名前を使って。
何かを引き継いできたのか。
その時。
第三心臓が。
突然。
激しく鳴った。
――ドクン。
――ドクン。
――ドクン。
「レイン!」
ミラが。
叫ぶ。
「大丈夫か?」
「……ああ」
だが。
俺の胸から。
声が出た。
俺の声ではない。
少年の声でもない。
今まで。
聞いたことのない声。
『やっと』
一言。
『名前が』
一拍。
『戻ってきた』
「……誰だ?」
声は。
答えた。
『お前が』
『五十年前に』
『作らなかったもの』
自由領域。
完成率。
13%。
そして。
壁に。
新しい表示。
――第八人目:人格候補、発生。
――名前:アルド。
ミラが。
息を呑む。
「また……アルド?」
俺は。
首を振った。
「違う」
「え?」
「今度は」
俺は。
胸に手を当てる。
「名前を借りてるだけじゃない」
「じゃあ?」
「今度は」
一拍。
「名前の方から」
「俺たちを選んでる」
その瞬間。
地下の奥で。
何かが。
ゆっくり。
目を開けた。
そして。
誰かが。
呟く。
「……やっと」
「俺の名前を」
「返してもらえる」
自由領域が。
**14%**へ進んだ。




