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勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


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83/120

第83話 ミラがつくったもの

――製造者:ミラ。


 その文字を。


 俺は。


 何度も見た。


「……ミラが」


「01を作った?」


 扉の向こう。


 ミラは。


 すぐには答えなかった。


「記録には」


 一拍。


「そう書いてある」


「でも」


 01が。


 静かに言う。


「俺は違う」


「何が?」


「俺は」


 01が。


 自分の胸元に触れる。


「ミラに作られた記憶なんてない」


「記憶が消されてる可能性は?」


「ある」


「じゃあ」


「否定できないだろ」


「……」


 01が。


 黙る。


 ミラが。


 扉の向こうから言う。


「待って」


「何だ?」


「M-01の記録」


「まだ続きがある」


「読んでくれ」


 俺は。


 壁を見る。


 ミラの声に合わせて。


 文字が浮かび上がる。


 ――M-01。


 ――製造者:ミラ。


 ――製造目的:観測対象の保護。


「……保護?」


 01が。


 顔を上げる。


「誰を?」


 ミラが。


 答える。


「レイン」


 俺は。


 黙った。


「俺を?」


「うん」


 記録が。


 さらに続く。


 ――対象レインは、死亡予定。


 ――M-01は、対象の死亡を防止する。


 ――ただし、直接介入は禁止。


 ――対象自身の選択を尊重すること。


「……」


 俺は。


 その文章を見て。


 胸の奥が。


 妙に痛くなった。


 それは。


 今の第三心臓の条件と。


 よく似ていた。


「他者による選択を尊重する」


 俺が呟く。


「これと」


 第三心臓。


「同じだ」


 01が。


 ゆっくり頷く。


「……そうだな」


「じゃあ」


「第三心臓は」


「五十年前から?」


 01は。


 答えない。


 代わりに。


 ミラが言った。


「違う」


「何が?」


「この記録」


「もっと古い」


「……」


 俺は。


 壁を見る。


 日付が。


 ゆっくり表示される。


 ――製造開始:五十年前。


 その下。


 さらに古い日付。


 ――原型設計:五十年前より前。


「……」


 五十年前より前。


 つまり。


 俺たちが知っている物語より。


 さらに前。


「MIRA計画って」


 俺は。


 呟く。


「アルドが勇者になる前から」


「存在してたのか?」


 ミラは。


 答えない。


 01が。


 代わりに言った。


「おそらく」


「誰が作った?」


「それは」


 01が。


 目を閉じる。


「分からない」


「……」


 また。


 分からない。


 だが。


 今回は。


 その「分からない」が。


 少し違った。


 01は。


 本当に。


 知らないように見えた。


 その時。


 ミラが。


 突然。


 叫んだ。


「レイン!」


「どうした?」


「M-01の顔」


「顔?」


「記録に」


「映像がある」


「見せられるか?」


「うん」


 壁が。


 白く光る。


 映像が。


 始まった。


 暗い部屋。


 椅子。


 机。


 そして。


 一人の男。


 黒い服。


 顔は。


 見えない。


 男の前に。


 一人の少年がいる。


 俺に。


 少し似ている。


「……俺?」


 ミラが。


 答える。


「分からない」


 映像の中。


 男が。


 少年に言う。


『選べ』


『何を?』


『誰を守るか』


『……』


『レインか』


『それとも』


 一拍。


『ミラか』


 少年が。


 黙る。


 そして。


『両方』


 男が。


 笑った。


『それはできない』


 少年は。


 少し考える。


『じゃあ』


『作ればいい』


 俺の。


 胸が。


 ――ドクン。


 鳴った。


「……」


 映像の少年が。


 こちらを見る。


 そして。


 はっきり。


 言った。


『二人とも生きられる場所を作る』


 映像が。


 途切れる。


「……」


 俺は。


 言葉が出なかった。


 ミラも。


 黙っている。


 01が。


 小さく呟く。


「今の」


「誰だ?」


「分からない」


 だが。


 その時。


 五人目が。


 低い声で言った。


「……知ってる」


「え?」


「今の少年」


 一拍。


「俺は」


「見たことがある」


「どこで?」


「五十年前」


 五人目が。


 俺を見る。


「お前の隣にいた」


「……俺?」


「いや」


 一拍。


「正確には」


 五人目が。


 言葉を選ぶ。


「お前と」


「ミラの」


 目を見る。


「間にいた」


「……」


 俺は。


 考える。


 俺と。


 ミラの。


 間。


 そんな存在。


 今まで。


 聞いたことがない。


 その時。


 ミラが。


 突然。


「待って」


 と言った。


「どうした?」


「私」


「今の少年」


「知ってる」


 俺は。


 息を呑む。


「誰だ?」


 ミラが。


 答える。


「……」


「ミラ?」


「名前」


 一拍。


「名前だけ」


「何て?」


「その子は」


 ミラの声が。


 震える。


「私が」


「最初につけた名前」


 地下が。


 静まり返る。


「……何て名前?」


 ミラは。


 しばらく。


 答えなかった。


 そして。


 ようやく。


 一言。


「アルド」


「……!」


 俺は。


 目を見開く。


「でも」


「アルド本人じゃない」


 ミラが。


 続ける。


「記録には」


「そう書いてある」


「アルドという名前を」


「私が」


「最初に使った」


「……」


 俺は。


 胸の奥にいる。


 名前を持たない声を思い出す。


 名前を返してほしいと言った声。


 名前を自分で選びたいと言った声。


 そして。


 今まで現れた。


 「アルド」という名前を持つ者たち。


 もしかすると。


 アルドという名前は。


 最初から。


 一人の人間のものではなかった。


「じゃあ」


 俺は。


 呟く。


「アルドって名前は」


「人を指す名前じゃなくて」


「何かの役割だった?」


 01が。


 ゆっくり首を振る。


「それも違う」


「じゃあ何だ?」


「名前を」


 一拍。


「受け取るための器だった」


「……」


 その瞬間。


 壁に。


 新しい文字が浮かぶ。


 ――名前:アルド。


 ――所有者:複数。


 ――初回使用:MIRA計画。


 ――用途:未定義。


 俺は。


 背筋が寒くなる。


「複数……」


 ミラが。


 呟く。


「だから」


「今まで」


「何人も」


「アルドを名乗れたんだ」


 だが。


 その下に。


 さらに一行。


 ――原初所有者:記録欠損。


「……」


 俺は。


 また。


 謎の前に立たされた。


 アルド。


 レイン。


 ミラ。


 どれも。


 誰か一人だけのものではない。


 それなら。


 俺たちは。


 名前を使って。


 何かを引き継いできたのか。


 その時。


 第三心臓が。


 突然。


 激しく鳴った。


 ――ドクン。


 ――ドクン。


 ――ドクン。


「レイン!」


 ミラが。


 叫ぶ。


「大丈夫か?」


「……ああ」


 だが。


 俺の胸から。


 声が出た。


 俺の声ではない。


 少年の声でもない。


 今まで。


 聞いたことのない声。


『やっと』


 一言。


『名前が』


 一拍。


『戻ってきた』


「……誰だ?」


 声は。


 答えた。


『お前が』


『五十年前に』


『作らなかったもの』


 自由領域。


 完成率。


 13%。


 そして。


 壁に。


 新しい表示。


 ――第八人目:人格候補、発生。


 ――名前:アルド。


 ミラが。


 息を呑む。


「また……アルド?」


 俺は。


 首を振った。


「違う」


「え?」


「今度は」


 俺は。


 胸に手を当てる。


「名前を借りてるだけじゃない」


「じゃあ?」


「今度は」


 一拍。


「名前の方から」


「俺たちを選んでる」


 その瞬間。


 地下の奥で。


 何かが。


 ゆっくり。


 目を開けた。


 そして。


 誰かが。


 呟く。


「……やっと」


「俺の名前を」


「返してもらえる」


 自由領域が。


 **14%**へ進んだ。

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