第8話 勘
その日の夜。
俺は眠れなかった。
ベッドに横になりながら、昼間の紙を眺める。
『残り五人』
『次はお前が拾う番だ』
何度読んでも、意味が分からない。
「……」
そもそも。
誰が書いた?
どうやって俺たちが北の山を調べていることを知った?
そして――
なぜ「拾う」と書いた?
「レイン」
隣の部屋からミラの声がした。
「起きてる?」
「ああ」
「怖い?」
「少し」
「私も」
「じゃあ寝ろ」
「眠れるわけないでしょ」
しばらく沈黙。
「ねえ」
「何?」
「明日、どうする?」
「調べる」
「やっぱり?」
「ああ」
「怖いのに?」
「だから調べる」
俺は紙を机の上に置いた。
「相手が何者か分からないまま逃げるほうが怖い」
「……そうね」
翌朝。
俺たちは町の外へ出た。
向かったのは、北の山ではない。
昨日見つかった行方不明者の家だった。
「なんで?」
ミラが聞く。
「死体を探す前に、本人が何を探していたのか確認する」
「なるほど」
依頼人の家族に話を聞く。
行方不明になった男――ガルド。
冒険者歴は十二年。
危険な場所にも何度も行っている。
「最近、何か変わったことはありませんでしたか?」
俺が聞く。
母親は首を振った。
「特には……」
「何かを探していたとか」
「……」
母親が黙る。
「実は」
彼女は奥から箱を持ってきた。
「これを息子が残していきました」
箱の中。
古い地図。
何枚かの紙。
そして――
「これ」
ミラが取り出した。
古い銀貨。
表面に王国の紋章。
「五十年前のものだ」
俺はすぐに分かった。
「なぜ、こんなものを?」
「分かりません」
母親が言う。
「ただ、息子は最近ずっと『六人』という言葉を口にしていました」
「六人?」
「はい」
「他には?」
「『死体がない』と」
俺とミラは顔を見合わせた。
やはりだ。
ガルドも何かを調べていた。
「この地図は?」
俺が広げる。
北の山。
旧迷宮。
そして――
「ここ」
地図の端に、丸がついている。
旧迷宮からさらに西。
昨日、俺たちが聞いた金属音がした方向だ。
「何かありますね」
ミラが言う。
「ある」
俺は地図を裏返した。
裏側に文字がある。
ガルドの字らしい。
短い文章。
『墓を六つ見つけた』
その下。
『しかし、死体は一つもなかった』
俺は黙った。
六つの墓。
六人の勇者一行。
なのに、遺体はない。
そして今――
誰かが「残り五人」と言っている。
「レイン」
「分かってる」
「これって……」
「たぶん」
俺は地図を折り畳んだ。
「六人分の墓を探す」
「え?」
「ガルドが見つけた六つの墓だ」
「でも隊長は――」
「旧迷宮に入るなと言った」
「そう」
「今回は西だ」
「屁理屈じゃない?」
「仕事だ」
「またそれ?」
俺たちは地図を頼りに西へ向かった。
山道を進む。
一時間。
二時間。
やがて、森が開けた。
そこに――
墓があった。
一つ。
「……」
さらに奥。
もう一つ。
そして、その隣に三つ。
合計五つ。
「五つしかない」
俺は数える。
一。
二。
三。
四。
五。
「六つ目は?」
ミラが周囲を見る。
ない。
ただ、五つの墓の中央に――
妙なものが置かれていた。
古い木箱。
俺は慎重に開ける。
中には、一枚の紙。
そして、小さな骨。
「……」
俺は骨を手に取った。
遺体回収人として、見れば分かる。
これは人間の骨だ。
ただし――
「子供?」
ミラが聞く。
「違う」
「じゃあ?」
俺は骨を調べる。
「……大人だ」
「何で分かるの?」
「骨には色々特徴がある」
「すごい」
「仕事だからな」
「便利ね、その言葉」
紙を開く。
そこには、こう書かれていた。
『五人分はここにある』
その下に――
『六人目は、墓を持たない』
「……」
嫌な予感がした。
俺は五つの墓を見る。
墓石には、それぞれ名前が刻まれていた。
一つ目。
剣士。
二つ目。
魔法使い。
三つ目。
僧侶。
四つ目。
斥候。
五つ目。
騎士。
五人。
なら――
残った一人は。
「アルド」
ミラが呟く。
俺は答えなかった。
その瞬間。
背後から音がした。
カン。
カン。
カン。
まただ。
俺は振り返る。
誰もいない。
だが、五つの墓の前に置かれていた花が――
一輪だけ。
新しくなっていた。
俺は近づく。
花の下に、小さな札がある。
そこには名前が書かれていた。
『レイン』
「……」
ミラが息を呑む。
「レイン……?」
俺は札を拾った。
裏側には、一言。
『六人目』
その瞬間。
俺は初めて理解した。
探している六人の中に――
俺が数えられている。




