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勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


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第7話 残り五人

朝起きたら、枕元に徽章があった。


 俺はしばらく見つめた。


 昨日、机の上に置いた。


 間違いない。


 なのに今は、枕元。


「……」


 嫌な予感がする。


 こういうとき、遺体回収人としての経験が役に立つ。


 触らない。


 近づかない。


 そして――


「ミラ」


「なに?」


「これ、持って帰ってくれ」


「嫌」


 即答だった。


「まだ何も言ってないぞ」


「顔を見れば分かる」


「じゃあ、俺の代わりに捨ててくれ」


「もっと嫌」


「受付嬢だろ」


「受付嬢に何を期待してるのよ」


 ミラはベッドの上に置かれた徽章を見る。


「……昨日より文字が増えてる」


「ああ」


 裏側には、昨夜浮かび上がった文字。


『三十二番、帰還せず』


その下に、


『残り五人』


 俺は徽章を布で包んだ。


「とりあえず、これを調べる」


「どこで?」


「騎士団」


「昨日、資料室を追い出されたじゃない」


「だから別の場所」


 俺たちは町の冒険者ギルドへ向かった。


 騎士団より冒険者ギルドのほうが、古い情報が残っていることがある。


 理由は単純。


 冒険者は記録を取るのが好きだからだ。


 酒場で、


「俺は昔、ドラゴンを三匹倒した」


「嘘つけ」


「本当だ!」


 などと自慢する。


 そういう話まで記録されている。


「つまり、勇者の情報も?」


「何か残ってる可能性はある」


 受付で古い資料を頼む。


 すると――


「五十年前ですか?」


「ああ」


「勇者アルドについて?」


「ああ」


 受付嬢は首を傾げた。


「そんな冒険者、登録されてませんよ」


「……」


 嫌な感じがした。


「じゃあ、五十年前の魔王討伐隊」


「魔王討伐?」


「勇者一行」


「その記録もありません」


「全部?」


「はい」


 ミラと顔を見合わせる。


 昨日の新聞。


 そこには確かに書いてあった。


 勇者アルド。


 魔王討伐。


 北の山。


 六人。


 なのに――


 公式記録には何もない。


「新聞だけはある」


「新聞社に行く?」


「そうする」


 俺たちは新聞社へ向かった。


 古い新聞を保管している地下倉庫。


 埃だらけの棚を探す。


 一時間。


 二時間。


 三時間。


「……ない」


 ミラが座り込んだ。


「お腹すいた」


「俺も」


「何か食べる?」


「調査中だぞ」


「三時間調べて何も出ないなら、もうご飯でいいでしょ」


「……それもそうだな」


 食堂へ向かう。


 注文する。


「今日のおすすめは?」


「山羊肉の煮込みです」


「それを二つ」


「パンも?」


「三つ」


「食べすぎじゃない?」


「昨日山を歩いたからな」


「歩いたの私もなんだけど」


「じゃあ四つ」


「増やすな」


 食事をしていると、隣の席から声が聞こえた。


「昔の勇者の話?」


 老人だった。


「聞こえてました?」


「ああ。アルドの話だろ」


 俺の手が止まった。


「知ってるんですか?」


「知ってるも何も、昔は有名だった」


「勇者だった?」


「そうだ」


「魔王を倒した?」


 老人は笑った。


「それがな」


 そこで一度、酒を飲む。


「誰も知らん」


「……」


「五十年前、勇者が北の山へ向かった」


「はい」


「だが、帰ってこなかった」


「その後は?」


「死んだことになった」


「遺体は?」


「ない」


 俺は徽章を取り出しそうになった。


 だが、やめた。


「仲間は?」


「五人いた」


「その五人は?」


 老人は首を振った。


「全員、死んだことになってる」


「遺体は?」


「ない」


 俺は息を呑んだ。


 六人。


 全員、死んだ。


 だが――


 誰一人として遺体がない。


「どうして死んだと分かったんです?」


 老人は黙った。


「……帰ってこなかったからだ」


「それだけ?」


「ああ」


 俺は考え込む。


 遺体回収人として、それはおかしい。


 人間は、死んだかどうかを確認する。


 帰ってこない。


 だから死んだ。


 そんな雑な記録は普通なら残さない。


「誰がそう判断したんです?」


「王国だ」


「当時の王は?」


 老人の顔が変わった。


「……聞かないほうがいい」


 まただ。


 昨日の管理人と同じ。


 隊長と同じ。


 誰もが同じ反応をする。


 俺は老人に聞いた。


「アルドって、何をしたんです?」


「……」


「魔王討伐以外に何か?」


 老人はしばらく黙っていた。


 そして、低い声で言った。


「勇者はな」


「はい」


「魔王を倒しに行ったんじゃない」


 俺は老人を見る。


「じゃあ、何をしに?」


 老人は答えなかった。


 代わりに、俺の後ろを指差した。


「それを聞きたいなら――」


 その先にいたのは。


 見知らぬ男だった。


 黒い外套。


 深く被ったフード。


 男はこちらを見ていた。


 目が合う。


 男は立ち上がった。


「……」


 そして、店を出ていく。


「待て!」


 俺は追いかけた。


 外へ出る。


 人混み。


 男の姿はない。


「……逃げられた」


 戻ると、老人もいなくなっていた。


 テーブルには一枚の紙だけ。


 俺は拾い上げる。


 そこには、見覚えのある文字が書かれていた。


 『残り五人』


 そして、その下に――


 『次はお前が拾う番だ』


「……」


 ミラが青ざめる。


「レイン」


「ああ」


「これ……」


 俺は紙を握り潰した。


「分かってる」


 俺たちはまだ、五十年前の死体を一つも見つけていない。


 なのに。


 向こうは――


 俺たちのことを知っている。

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