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勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


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第6話 回収

王国騎士団の徽章。


 普通なら、それだけで大したものではない。


 騎士なら誰でも持っている。


 問題は、その徽章に刻まれた名前だった。


 アルド。


 五十年前、魔王討伐へ向かった勇者と同じ名前。


「……持って帰る?」


 ミラが聞いた。


「ああ」


「隊長に渡す?」


「その前に調べる」


「何を?」


「これが本物か」


 俺は徽章を光にかざした。


 表面には王国の紋章。


 裏には名前。


 そして、その下に小さな数字が刻まれている。


「三十二」


「何の数字?」


「分からない」


「じゃあ、調べる意味あるの?」


「分からないから調べるんだ」


「なるほど」


 ミラが頷く。


「つまり、何も分かってないのね」


「そういうことだ」


「威張ることじゃないわよ」


 俺たちは迷宮を出た。


 その日は町に戻り、騎士団の資料室を調べることにした。


 ところが――


「見せられません」


 資料室の管理人は即答した。


「なぜ?」


「機密です」


「ただの五十年前の騎士団記録だろ?」


「機密です」


「じゃあ、これ」


 俺は金貨を一枚置いた。


 管理人の目が輝いた。


「機密です」


「即答するな」


「ですが……」


 管理人は金貨を見つめる。


「非常に惜しいですね」


「惜しいなら受け取れ」


「規則があります」


「さっきから規則ばっかりだな」


「私は規則を守る男です」


 ミラが横から口を挟む。


「じゃあ、その金貨いらない?」


「……」


「いらないなら戻して」


「……」


 管理人がゆっくり金貨を取った。


「どの資料をご覧になりますか?」


「規則は?」


「今、破りました」


「潔いな」


 こうして俺たちは資料室へ入った。


 五十年前。


 勇者アルド。


 王国騎士団。


 魔王討伐。


 関連する記録を探す。


 だが――


「ない」


 アルドの名前が、ない。


 五十年前の資料。


 勇者の出発記録。


 魔王討伐の報告。


 騎士団の名簿。


 どこにもない。


「でも新聞には載ってた」


 ミラが言う。


「ああ」


「どうして?」


「誰かが消した?」


「全部?」


「分からない」


 俺は騎士団の名簿をめくる。


 すると、一つ気になることがあった。


 五十年前の名簿だけ――


 三十二番が欠番になっている。


「これ」


「何?」


「三十二番」


 ミラが覗き込む。


「……空欄ね」


「そうだ」


「アルド?」


「分からない」


 俺は昨日拾った徽章を見る。


 裏側。


 名前。


 そして数字。


 三十二。


 偶然とは思えなかった。


「管理人」


 俺は呼んだ。


「何でしょう?」


「三十二番って誰だ?」


「……」


 管理人の顔から笑顔が消えた。


「知ってるのか?」


「……知らないほうがいい」


「隊長と同じこと言うな」


「では、私は仕事に戻ります」


 管理人は立ち去ろうとした。


 俺はその腕を掴んだ。


「待って」


「何です?」


「この徽章」


 見せる。


 管理人が息を呑んだ。


 ほんの一瞬。


 だが、確かに反応した。


「……それをどこで?」


「山で拾った」


「そうですか」


「三十二番の徽章か?」


 沈黙。


 管理人は答えなかった。


 代わりに――


「それは騎士団の物ではありません」


「じゃあ何だ?」


「知りません」


「名前はアルドだぞ」


「……」


「五十年前の勇者と同じ名前だ」


「……」


「何を隠してる?」


 管理人はしばらく黙っていた。


 そして、小さな声で言った。


「その名前を、ここで口にしないでください」


「なぜ?」


「聞かれるからです」


「誰に?」


 管理人は答えなかった。


 ただ、資料室の奥を見た。


 誰もいない。


 静かな部屋。


 古い本棚。


 窓から差し込む月明かり。


 何もない。


 それなのに――


 管理人の顔は、本気で怯えていた。


「帰ってください」


「……」


「今すぐ」


 俺は徽章を握った。


「分かった」


 資料室を出る。


 外へ出ると、ミラが小声で言った。


「ねえ」


「何?」


「聞かれたって……誰に?」


「知らない」


「怖くない?」


「怖い」


「怖いんだ」


「怖いから帰る」


「えらい」


「俺は自分の命を大切にしてる」


「だったら最初から迷宮に入らないでよ」


 宿へ戻る。


 部屋に入り、俺は徽章を机の上に置いた。


「今日は寝る」


「調べないの?」


「明日でいい」


「珍しい」


「眠い」


 ベッドに横になる。


 目を閉じる。


 数分後。


 カン。


「……」


 目を開ける。


 カン。


 カン。


 金属を叩く音。


 山で聞いた音と同じだった。


 俺はゆっくり起き上がった。


 音は――


 机の上から聞こえている。


「……」


 徽章を見る。


 何もない。


 ただの金属。


 もう一度。


 カン。


 俺は徽章を裏返した。


 さっきまで何もなかった場所に――


 小さな文字が浮かんでいた。


 『三十二番、帰還せず』


 俺は息を止めた。


 そして、その下に。


 新しい文字が一文字ずつ浮かび上がった。


 『残り五人』


 俺は思った。


 明日の朝。


 絶対にこの徽章を捨てよう。


 そう決めた。


 ――決めたはずだった。


 翌朝。


 目を覚ますと。


 徽章は、枕元に置かれていた。

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