第77話 番号
――自由領域:完成率2%。
数字が。
ゆっくり増えていく。
だが。
目の前には。
顔のない番号たち。
01。
02。
03。
04。
05。
06。
07。
「……七人」
ミラが。
小さく呟く。
「さっきまでの番号と同じ」
「でも」
俺は。
彼らを見る。
「違う」
「何が?」
「俺たちには」
一拍。
「顔がある」
目の前の七人には。
顔がない。
黒い布で覆われているわけでもない。
本当に。
何もない。
そこには。
ただ。
平らな皮膚だけがある。
07が。
一歩。
前に出る。
『レイン』
「何だ?」
『番号を返せ』
「断る」
『なぜ?』
「必要ない」
『番号がなければ』
「俺は俺だ」
『違う』
07が。
首を傾ける。
『番号がなければ』
『お前は誰でもない』
「……」
俺は。
少し考えた。
「じゃあ」
一歩。
前へ出る。
「お前は誰なんだ?」
07が。
止まった。
「番号しかないなら」
「名前は?」
「役割は?」
「記憶は?」
「……」
答えない。
「お前自身は?」
07の身体が。
わずかに震えた。
『……』
その瞬間。
01が。
小さく息を呑んだ。
「レイン」
「何だ?」
「やめろ」
「なぜ?」
「あいつらは」
一拍。
「自分が誰なのかを考えられない」
「……」
「番号を与えられて」
「番号だけになった」
俺は。
07を見る。
「じゃあ」
「俺が名前を呼べば?」
「危険だ」
「何が?」
「名前がない者に」
01が。
低く言う。
「名前を与えると」
「人格が生まれる」
「それの何が悪い?」
「人格が生まれれば」
一拍。
「番号が壊れる」
「……」
ミラが。
小声で言う。
「それ」
「レインと同じじゃない?」
俺も。
そう思った。
番号を捨てた。
役割を拒否した。
それでも。
俺は。
俺でいる。
「だったら」
俺は。
07に近づく。
「お前にも」
「名前が必要だ」
07が。
後ろへ下がった。
『やめろ』
「名前は?」
『やめろ』
「呼ばれる名前は?」
『やめろ!』
地下に。
叫び声が響く。
他の番号たちも。
一斉に動き始めた。
『番号を返せ!』
『役割を戻せ!』
『記憶を消せ!』
『人格を削除しろ!』
ミラが。
耳を塞ぐ。
「うるさい!」
俺も。
頭が痛くなる。
だが。
その中で。
一つだけ。
聞こえた。
『助けて』
「……」
俺は。
顔のない07を見る。
「今」
「何て言った?」
『……』
「助けてって言ったか?」
07は。
動かない。
「お前」
一歩。
近づく。
「名前が欲しいのか?」
『……』
「それとも」
「番号を返したいのか?」
長い沈黙。
そして。
『……分からない』
その言葉を聞いた瞬間。
俺の胸が。
――ドクン。
鳴った。
自由領域。
完成率。
3%。
「レイン!」
ミラが。
驚く。
「今、増えた!」
「ああ」
07が。
胸元を押さえる。
『痛い』
「どうした?」
『番号が』
『……薄くなる』
07の胸。
そこに刻まれた。
07
その数字が。
少しずつ。
消えていく。
『怖い』
「……」
『番号がなくなったら』
『俺は』
「誰になるか分からない?」
『……うん』
俺は。
少し考える。
「なら」
俺は。
手を差し出した。
「今は」
「分からなくていい」
『……?』
「俺だって」
「最初から分かってたわけじゃない」
「レインって名前を」
「何度も失いそうになった」
「それでも」
一拍。
「ミラが呼んでくれた」
ミラが。
少し照れたように笑う。
「……まあね」
俺は。
07を見る。
「だから」
「お前も」
「自分で決めればいい」
『名前を?』
「ああ」
『俺が?』
「お前が」
07が。
長い時間。
俺の手を見る。
そして。
初めて。
手を伸ばした。
指先が。
俺の手に触れる。
その瞬間。
――自由領域:4%。
番号07が。
震える。
『……名前』
「何だ?」
『考えてもいい?』
「ああ」
『今すぐ決めなくても?』
「いい」
『……ありがとう』
07の身体から。
黒い霧のようなものが。
少しだけ抜けていく。
その奥から。
人間の顔が。
ほんの一瞬だけ。
浮かんだ。
「……!」
俺は。
息を呑む。
「今の顔」
01が。
震える。
「知っている」
「誰だ?」
「……」
01が。
答えない。
「誰なんだ?」
もう一度聞く。
01は。
ゆっくり。
07を見る。
「五十年前」
一拍。
「最初に死んだ人間だ」
「……!」
五人目が。
驚く。
「そんな記録はない」
「記録には」
01が。
苦しそうに言う。
「残していない」
「なぜ?」
「それは」
01が。
顔を伏せる。
「俺たちが」
「一人目から七人目までを作る前に」
一拍。
「すでに」
01が。
言った。
「八人目が存在していたからだ。」
空気が。
凍った。
ミラが。
小さく呟く。
「……八人目?」
俺は。
目の前の07を見る。
「じゃあ」
「こいつは」
01が。
首を振る。
「違う」
「何が?」
「こいつは」
一拍。
「八人目じゃない」
「じゃあ何だ?」
01が。
俺を見る。
「八人目になる前の」
「空席だ」
その瞬間。
自由領域の中央で。
何もなかった場所に。
新しい数字が。
浮かび上がった。
08
だが。
その数字は。
すぐに。
消えた。
代わりに。
一文字だけが残る。
――名。
ミラが。
それを見て。
静かに言った。
「番号じゃなくて」
「名前を入れる場所なんだ」
俺は。
頷いた。
「たぶんな」
すると。
俺の胸の奥から。
あの声が。
また聞こえた。
『違う』
「……」
『八人目は』
一拍。
『名前を入れる場所じゃない』
俺は。
息を止める。
『名前を作る者だ』
そして。
地下の最奥から。
誰かが。
ゆっくり。
拍手をした。
パチ。
パチ。
パチ。
暗闇の奥から。
声が響く。
「やっと」
「そこまで来たか」
俺は。
暗闇を見る。
「誰だ?」
声は。
笑った。
「お前が」
「五十年前に」
「作らなかったものだ」
そして。
最後に。
「第八人目――製造者。」
自由領域の完成率が。
**5%**へ。
進んだ。




