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勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


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75/120

第75話 作る

――『俺を作ってくれ』


 その声が。


 胸の奥から響いた。


 俺自身の声。


 でも。


 俺が喋ったわけじゃない。


「……何を作れって?」


 返事はない。


 代わりに。


 壁に文字が浮かぶ。


 ――製造対象:未定。


 ――製造者:レイン。


 ――開始まで:11時間59分。


「時間だけ減ってるな」


 ミラが。


 壁を見ながら言った。


「そうだね」


「止められない?」


「試してみる」


 俺は。


 壁に手を当てる。


「製造中止」


 ――拒否。


「じゃあ延期」


 ――拒否。


「キャンセル」


 ――拒否。


 ミラが。


 横から口を挟む。


「レイン」


「何だ?」


「それ」


「人間相手にも通用する?」


「……たぶん無理だ」


「じゃあ」


「機械相手なら?」


「もっと無理だ」


「そっか」


 ミラが。


 真顔で頷く。


「役に立たないね」


「お前な」


 少しだけ。


 笑った。


 だが。


 その笑いを。


 01が遮った。


「笑っている場合じゃない」


「分かってる」


「この製造は」


「今までとは違う」


「何が?」


 01は。


 壁の文字を見る。


「今までの製造は」


「器を作った」


「人格を作ろうとした」


「記憶を移した」


「でも」


 一拍。


「今回は」


 俺を見る。


「製造者がレインになっている」


「それが?」


「製造者と対象が」


「同じ存在になる可能性がある」


「……」


 少年が。


 小さく言った。


「また」


「僕みたいなのが生まれる?」


「分からない」


「じゃあ」


 少年が。


 俺を見る。


「僕が作られる前に」


「僕は誰だったの?」


 俺は。


 答えられなかった。


 その時。


 五人目が。


 ゆっくり口を開いた。


「俺は」


「知っている」


 全員が。


 彼を見る。


「何を?」


「製造対象が」


 一拍。


「人間じゃないことを」


「……」


「今回作るのは」


 五人目が。


 壁を指差す。


「人格でも」


「器でも」


「記憶でもない」


「じゃあ?」


「選択肢だ。」


 俺は。


 眉をひそめる。


「選択肢?」


「ああ」


「何の?」


「今まで」


 五人目が言う。


「お前たちは」


「いつも決められた選択肢から選ばされていた」


「生きるか死ぬか」


「レインかアルドか」


「一人か二人か」


「五十年前か現在か」


「でも」


 五人目が。


 俺を見る。


「お前は」


「選択肢そのものを作った」


 胸が。


 静かに鳴る。


「……第三選択肢」


「そうだ」


 五人目が頷く。


「お前が作ったのは」


「人格じゃない」


「選べる未来だ」


 俺は。


 黙った。


 ミラが。


 少し考えてから言う。


「じゃあ」


「今回レインが作るのは」


「新しい未来?」


「おそらく」


「それなら」


 ミラが笑う。


「悪くないんじゃない?」


「簡単に言うな」


「でも」


「誰かを殺す条件じゃないんでしょ?」


「……」


「なら」


 ミラが。


 胸を張る。


「前よりずっといいじゃん」


 俺は。


 苦笑した。


「確かにな」


 その時。


 壁の文字が。


 突然変わった。


 ――製造対象:第八候補。


「……!」


 ミラが。


 固まった。


「私?」


 壁は。


 答えない。


 だが。


 08の数字が。


 再び浮かび上がる。


 ――08:未完成。


「待て」


 俺は。


 壁を見る。


「ミラを作るってことか?」


 01が。


 首を振る。


「違う」


「じゃあ何だ?」


「ミラは」


 一拍。


「すでに存在している」


「……」


「だから」


 01が。


 言う。


「作る必要がない」


「じゃあ」


 08は何だ?


 その瞬間。


 ミラが。


 自分の胸に手を当てた。


「……あ」


「どうした?」


「何か」


「変」


「胸が?」


「ううん」


「名前が」


「名前?」


 ミラが。


 自分の名前を呟く。


「ミラ」


 ――認証。


「ミラ」


 もう一度。


 ――認証。


「……ミラ」


 ――存在確認。


 壁の08が。


 ゆっくり消える。


「……消えた」


 ミラが。


 驚いた顔をする。


 代わりに。


 新しい文字が浮かぶ。


 ――第八候補:製造対象から除外。


「じゃあ」


 俺は。


 息を吐く。


「08はミラじゃない」


「そうみたい」


 ミラも。


 少し安心したように笑う。


 だが。


 その下に。


 さらに文字が出た。


 ――第八候補:空席。


 ――製造者:レイン。


「空席……」


 俺は。


 その言葉を見つめる。


 すると。


 胸の奥から。


 また声がした。


『そう』


 今度は。


 少しだけ違う声だった。


『作るのは』


『人じゃない』


 俺は。


 息を止める。


『席を作る』


「席?」


『今まで』


『七つしかなかった』


『だから』


『一人を入れるためには』


『誰かを出さなければならなかった』


 俺は。


 ゆっくり理解する。


「……八つ目の席」


 声が。


 答える。


『そう』


『誰も出さずに』


『全員が存在できる場所』


 その瞬間。


 地下の壁に。


 巨大な円形の図が浮かんだ。


 01。


 02。


 03。


 04。


 05。


 06。


 07。


 そして。


 中央に。


 何も書かれていない席。


「……」


 ミラが。


 呟く。


「これ」


「今までの番号とは違う」


 俺も。


 気づいた。


 八つ目の席には。


 番号がない。


 名前もない。


 ただ。


 空白だけがある。


 ――第八候補:自由領域。


 俺は。


 その言葉を見て。


 思わず笑った。


「なるほどな」


「何?」


 ミラが聞く。


「やっと分かった」


「何が?」


「俺が作るもの」


 一拍。


「誰かじゃない」


 俺は。


 空白を見る。


「誰でも入れる場所だ」


 01が。


 静かに目を見開く。


「それは」


「このシステムそのものを」


 彼は。


 言葉を失った。


 そして。


 壁に。


 新しい警告が浮かぶ。


 ――危険。


 ――製造者が自由領域を生成した場合。


 ――既存システムは不要となります。


「……」


 ミラが。


 俺を見る。


「レイン」


「何だ?」


「それって」


「この施設」


 一拍。


「いらなくなるってこと?」


 俺は。


 壁を見る。


 そして。


 小さく笑った。


「だったら」


「作ってみるか」


 その瞬間。


 カウントが。


 11:00:00


 に変わった。


 ――製造開始まで、11時間。


 そして。


 地下のどこかで。


 何かが。


 初めて。


 怯えたように叫んだ。


『やめろ』


『それを作るな』


『それが完成したら――』


 声が。


 途切れる。


 最後に。


 小さく。


『俺たちは』


 そして。


 震える声。


『番号じゃなくなる』

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