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勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


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73/120

第73話 08

床に落ちた。


 金属板。


 ――08


 裏側には。


 ――ミラ


 俺は。


 しばらく動けなかった。


「……ミラ」


「うん」


「これ」


「見えてる」


 ミラは。


 金属板を拾い上げた。


 指先で。


 表面をなぞる。


「八番」


「そして」


 裏返す。


「私の名前」


「そうだ」


「……」


 ミラは。


 数秒黙ったあと。


 金属板を。


 床に置いた。


 カン。


 乾いた音。


「いらない」


「……え?」


 01が。


 驚いた。


「何?」


「その番号」


 ミラは。


 金属板を指差す。


「私じゃないから」


 俺は。


 思わず笑った。


「ミラらしいな」


「何よ」


「番号を渡されて」


「自分じゃないって言えるところ」


「当たり前でしょ」


 ミラは。


 腰に手を当てる。


「私は08じゃない」


「私はミラ」


 その瞬間。


 ――警告。


 壁が。


 赤く点滅した。


 ――対象:08


 ――名称:ミラ


 ――名称拒否を確認。


 ミラが。


 眉をひそめる。


「だから何?」


 壁に。


 文字が増える。


 ――名称拒否=人格拒否。


「違う」


 ミラが。


 即答した。


「番号を拒否しただけ」


 ――処理不能。


「でしょうね」


「……」


 俺は。


 思わず笑ってしまった。


「何がおかしいの?」


「いや」


「この施設」


「ミラ相手だと弱いな」


「失礼ね」


 01まで。


 小さく笑った。


 だが。


 -1番は。


 笑っていなかった。


「気をつけろ」


「何を?」


「番号を拒否するということは」


 一拍。


「システムそのものを拒否することだ」


「それが?」


「この施設は」


 -1番が。


 静かに言う。


「番号で存在を管理している」


「だから」


「番号を拒否した人間を」


「存在として認識できなくなる」


 ミラの顔が。


 少し曇った。


「じゃあ」


「私が番号を拒否したら」


「消えるのか?」


「可能性はある」


「……」


 俺は。


 ミラを見る。


「やめろ」


「何を?」


「そんなもの」


「受け入れるな」


 ミラが。


 俺を見る。


「でも」


「私が受け入れたら」


「レインが困るでしょ?」


「困る」


「なら」


 ミラが笑う。


「やっぱり嫌」


「……」


 その時。


 少年が。


 ミラの横に立った。


「僕も」


「番号は嫌い」


「どうして?」


「番号をつけると」


 少年が。


 自分の胸を見る。


「僕じゃなくなる気がするから」


 ミラが。


 少し笑う。


「同じじゃん」


「うん」


 二人が。


 顔を見合わせる。


 その瞬間。


 俺の胸が。


 ――ドクン。


 第三心臓が鳴った。


 壁に。


 新しい文字。


 ――番号拒否を確認。


 ――人格固定を解除。


 そして。


 ――自由存在:二件。


「……二件?」


 01が。


 壁を見る。


「そんな処理は」


「存在しないはずだ」


「でも」


 ミラが言う。


「存在したね」


「……」


 01が。


 苦笑する。


「お前たちは」


「本当に規格外だな」


 すると。


 突然。


 壁の08が。


 消えた。


「……」


 ミラが。


 目を見開く。


「消えた?」


 その代わり。


 壁には。


 一つの文字だけが残った。


 ――ミラ


「番号が」


 俺は。


 壁を見る。


「消えた?」


「違う」


 -1番が言った。


「番号が必要なくなった」


「……」


 ミラが。


 自分の名前を見る。


「私」


「番号なしになった?」


「そうだ」


 01が。


 静かに言う。


「これは」


「五十年前には」


「存在しなかった」


 俺は。


 胸元を見る。


 自分の金属板。


 そこには。


 まだ。


 32


 と刻まれている。


「じゃあ」


 俺は。


 自分の板を外そうとした。


「レイン!」


 ミラが。


 止める。


「待って」


「何だ?」


「それ」


「まだ外さない方がいい」


「どうして?」


「分からないけど」


 一拍。


「今のレインには」


 ミラが。


 金属板を見る。


「まだ必要な気がする」


「……」


 俺は。


 手を止めた。


 その瞬間。


 少年が。


 何かに気づいた。


「ねえ」


「どうした?」


「その番号」


 少年が。


 俺の胸を見る。


「32じゃないよ」


「……何?」


 俺も。


 自分の金属板を見る。


 さっきまで。


 確かに。


 32


 だった。


 だが。


 今。


 そこに刻まれているのは。


 ――07


「……」


 ミラが。


 息を呑む。


「レイン」


 俺は。


 金属板を裏返した。


 裏側には。


 名前。


 ――レイン


 そして。


 その下に。


 小さく。


 文字が刻まれていた。


 ――仮登録:解除済み


「……」


 俺は。


 笑ってしまった。


「何だよ」


「結局」


「戻ってきたじゃないか」


 ミラが。


 不安そうに聞く。


「七人目?」


「分からない」


 俺は。


 金属板を握る。


「でも」


 一つだけ。


 分かったことがある。


「番号が俺を決めるんじゃない」


「俺が」


「この番号をどうするか決める」


 その瞬間。


 壁が。


 大きく震えた。


 ――新条件:更新。


 全員が。


 壁を見る。


 そして。


 一行。


 ゆっくり浮かんだ。


 ――七人目:番号を持たない者。


「……」


 さらに。


 その下。


 ――八人目:名前を持つ者。


 ミラが。


 目を見開いた。


「私?」


 壁は。


 答えなかった。


 代わりに。


 最後の一文が。


 表示される。


 ――七人目と八人目が揃った時、最初の記録を開きます。


 俺は。


 ゆっくり顔を上げた。


「最初の記録……」


 01が。


 青ざめる。


「待て」


「どうした?」


「それだけは」


 01が。


 初めて。


 明確な恐怖を見せた。


「開けてはいけない」


「なぜ?」


 01は。


 答えた。


「そこには」


 一拍。


「俺たちが、なぜ作られたのかが書かれている。」


 地下の奥で。


 重い扉が。


 ゆっくり開き始めた。


 ゴゴゴゴゴ――。


 その向こうには。


 一枚の古い記録板。


 そして。


 その中央に。


 たった一行。


 ――「レインを作ったのは、レインである。」


 俺は。


 その文字を見つめた。


 意味が。


 まだ。


 分からなかった。

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