↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
69/120

第69話 五人目を殺した

――「五十年前、お前は俺を殺した」


 その言葉が。


 頭の中に残った。


「……俺が?」


「そうだ」


 五人目は。


 静かに頷く。


「お前が」


 俺は。


 自分の手を見る。


 何もない。


 血も。


 傷も。


 それなのに。


 胸の奥には。


 妙な感覚がある。


 ――知っている。


 この男を。


 知らないはずなのに。


 知っている。


「名前は?」


 俺が聞く。


「名前?」


「そうだ」


「……」


 五人目が。


 少し困った顔をする。


「忘れた」


「忘れた?」


「ああ」


「五十年間?」


「違う」


 一拍。


「五十年間、名前を持たなかった」


「……」


 ミラが。


 小さく呟く。


「また名前……」


 俺も。


 同じことを思った。


 この地下施設では。


 名前が。


 何度も問題になる。


「なぜ?」


 俺が聞く。


「七人目が」


 五人目は。


 俺を見る。


「俺の名前を奪ったからだ」


「俺が?」


「ああ」


「どうやって?」


「殺した」


 五人目が。


 胸元を指す。


「俺を殺したとき」


「俺の名前も一緒に」


「消した」


 俺は。


 息を呑んだ。


「……そんなことができるのか?」


「できる」


 -1番が。


 横から言った。


「名前は人格を固定する」


「名前を失えば」


 一拍。


「存在そのものが不安定になる」


 五人目が。


 苦笑した。


「だから俺は」


「五十年間」


「何者でもなかった」


「……」


 少年が。


 五人目を見る。


「かわいそう」


 五人目は。


 少し驚いた顔をした。


「そう思うか?」


「うん」


「なぜ?」


「僕も」


 少年が。


 自分の胸に手を当てる。


「名前がなかったから」


 五人目は。


 少年を見る。


「……そうか」


 そして。


 静かに笑った。


「じゃあ」


 五人目は。


 俺を見る。


「俺たちは同じだな」


「……」


 俺は。


 答えなかった。


 なぜか。


 胸が痛い。


 ドクン。


 三つ目の鼓動。


 ――記録照合中。


 壁に。


 新しい文字が浮かぶ。


 ――五人目:存在番号05。


 ――死亡:五十年前。


 ――死亡原因:人格消失。


 俺は。


 その文字を見つめた。


「殺してない?」


 ミラが言う。


「……ああ」


 記録上は。


 五人目は。


 肉体的に殺されたわけではない。


「じゃあ」


 俺は。


 五人目を見る。


「俺が殺したっていうのは」


「俺の人格を」


 五人目が。


 自分の頭を指す。


「消したという意味だ」


「……」


「五十年前のお前は」


 一拍。


「俺から名前を奪った」


「どうして?」


 五人目は。


 少しだけ笑った。


「俺が」


 そして。


「お前を裏切ったからだ」


 空気が。


 止まった。


「何を裏切った?」


「約束を」


「どんな?」


「七人目を」


 五人目の目が。


 俺を見る。


「起こさないこと」


 俺の背筋に。


 寒気が走る。


「じゃあ」


 俺は。


 ゆっくり聞く。


「お前は七人目を起こそうとした?」


「違う」


「じゃあ?」


「止めようとした」


「……」


 31番が。


 初めて口を挟んだ。


「五人目は」


「俺たちの中で」


「唯一」


 一拍。


「七人目を止めようとした」


 俺は。


 五人目を見る。


「じゃあ」


「なぜ俺がお前を殺した?」


 五人目が。


 笑った。


「簡単だ」


「お前は」


 一拍。


「七人目だったからだ」


 俺の胸が。


 大きく鳴る。


 ――ドクン。


 ――ドクン。


 ――ドクン。


 第三心臓が。


 初めて。


 痛みを伴って鳴った。


「……っ」


 俺は。


 膝をつく。


「レイン!」


 ミラが。


 支える。


 頭の中に。


 映像が流れた。


 雪。


 血。


 五人目。


 俺。


 そして。


 俺の手に。


 一本の短剣。


『レイン』


 五人目が。


 映像の中で言う。


『やめろ』


 俺は。


 震えている。


『頼む』


『七人目を』


『起こすな』


 そして。


 俺の口が。


 動く。


『ごめん』


 次の瞬間。


 短剣が。


 五人目の胸に。


 突き刺さる。


「……!」


 俺は。


 叫びそうになった。


 だが。


 映像は。


 そこで終わらなかった。


 倒れた五人目の前に。


 もう一人。


 誰かが立っている。


 顔は。


 見えない。


 ただ。


 声だけ。


『これで五人目は消えた』


 そして。


 俺に向かって。


『次は六人目だ』


 ――映像が切れる。


「……誰だ」


 俺は。


 息を荒くする。


「今の奴」


 五人目が。


 静かに答えた。


「分からない」


「お前も?」


「ああ」


 -1番が。


 険しい顔をする。


「俺も見たことがない」


 31番も。


 黙っている。


 だが。


 少年だけが。


 何かに気づいたように。


 小さく呟いた。


「……あの人」


「知ってるのか?」


「ううん」


 少年が。


 首を振る。


「でも」


「声を聞いたことがある」


「どこで?」


 少年は。


 俺を見る。


「僕の中」


 その瞬間。


 第三心臓が。


 ――ドクン。


 また鳴った。


 壁に。


 新しい文字。


 ――五人目:記録復元完了。


 ――六人目:選択済み。


 そして。


 最後に。


 ――四人目:次回起動。


「……四人目?」


 ミラが。


 顔を青くする。


 俺は。


 地下の奥を見る。


 五人目の後ろ。


 暗闇の中。


 何かが。


 立っている。


 四人目。


 その胸元には。


 番号がない。


 代わりに。


 名前だけが刻まれていた。


 ――アルド。


 俺は。


 息を呑んだ。


「……アルド?」


 その男が。


 ゆっくり顔を上げる。


 そして。


 俺を見て。


 笑った。


「やっと」


「名前を返してくれたな」


 俺の胸の奥で。


 三つ目の鼓動が。


 大きく鳴った。


 ――ドクン。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。