第68話 死ぬ前の1番
――「俺を殺す必要はない」
-1番の言葉が。
地下に響いた。
「……どういう意味だ?」
俺は。
警戒したまま聞く。
「言葉通りだ」
-1番は。
杖をつく。
カツン。
乾いた音。
「五十年前」
彼は言った。
「俺はお前に殺された」
「……」
「正確には」
-1番が。
俺を見る。
「お前の命令で」
その言葉は。
以前にも聞いた。
だが。
今までとは。
何かが違う。
「でも」
俺は言う。
「お前はアルドを殺した」
「ああ」
「そして」
「俺に殺された?」
「そうだ」
「……」
俺は。
混乱する。
「なら」
俺は。
-1番の胸元を見る。
「今のお前は何だ?」
「記録だ」
「記録?」
「五十年前の」
一拍。
「俺が死ぬ直前に残った記録」
俺は。
言葉を失った。
「つまり」
ミラが。
恐る恐る口を挟む。
「本人じゃない?」
「そうだ」
-1番は。
あっさり答えた。
「俺は」
胸を指す。
「生きている-1番ではない」
「死ぬ直前の-1番だ」
「……」
それなら。
なぜ。
今ここにいる?
「じゃあ」
俺は聞く。
「お前は五十年前から」
「ずっとここにいたのか?」
「違う」
「いつから?」
「今だ」
「……」
また。
意味が分からない。
すると。
ミラが。
小さく手を挙げた。
「質問していい?」
「何だ?」
「つまり」
ミラが。
指を折る。
「五十年前の人が」
「今のレインが条件を変えたから」
「今、記録として現れた?」
「正解だ」
「……」
ミラが。
自慢げに俺を見る。
「私、賢くない?」
「今だけな」
「今だけって何!」
少し。
笑えた。
だが。
少年は。
ずっと-1番を見ている。
「……知ってる」
少年が。
小さく言った。
-1番が。
彼を見る。
「そうか」
「僕」
「お前に」
「会ったことがある」
俺は。
驚いた。
「五十年前?」
「うん」
「でも」
少年は。
首を振る。
「僕じゃない」
「……?」
「僕になる前」
-1番の目が。
細くなる。
「そうだ」
その一言で。
俺の背筋が冷えた。
「候補三になる前」
「お前は」
-1番が言う。
「別の名前だった」
「名前?」
少年が。
俯く。
「僕」
一拍。
「名前があったの?」
「あった」
「何て?」
-1番は。
答えなかった。
「言えない」
「どうして?」
「その名前を言えば」
-1番が。
俺を見る。
「お前の第三心臓が」
「完全に起動する」
「……」
ドクン。
胸が鳴った。
「じゃあ」
俺は。
聞く。
「第三心臓は」
「名前を聞くことで起動する?」
「違う」
-1番が。
首を振る。
「名前を思い出すことで起動する。」
「……」
少年が。
顔を上げた。
「僕の名前」
「そうだ」
「思い出したら」
「お前だけじゃない」
-1番が。
静かに言う。
「レインも思い出す」
「俺も?」
「ああ」
「何を?」
-1番は。
答えない。
代わりに。
床に杖をついた。
カツン。
地下の奥から。
同じ音が返ってくる。
カン。
カン。
カン。
「……」
俺の金属板が。
熱くなる。
――記録照合開始。
壁に。
古い日付が浮かぶ。
――五十年前。
――四十九年前。
――二十八年前。
――現在。
そして。
その四つの日時を。
一本の線が繋いだ。
「……時間が」
ミラが呟く。
「繋がってる?」
「違う」
-1番が言った。
「重なっている」
「重なって?」
「五十年前に起きたことが」
一拍。
「今、もう一度起きている」
俺は。
その言葉を聞いて。
嫌な予感がした。
「つまり」
「俺たちは」
「五十年前をやり直してる?」
「違う」
-1番が。
首を振る。
「やり直しているのではない」
「じゃあ?」
「続きを生きている。」
その瞬間。
地下の奥から。
足音が聞こえた。
一歩。
また一歩。
誰かが。
こちらへ向かっている。
ミラが。
俺の後ろに隠れる。
「……誰?」
-1番は。
答えない。
ただ。
静かに。
杖を握り直した。
足音が止まる。
暗闇から。
一人の男が現れた。
黒い服。
胸元に。
――05
「五人目……?」
俺が呟く。
男は。
俺を見る。
そして。
ゆっくり笑った。
「やっと見つけた」
「誰を?」
「俺の」
一拍。
「名前を」
俺は。
息を呑んだ。
男の顔を。
見た瞬間。
胸の三つ目が。
今までにないほど。
強く鳴った。
――ドクン。
――ドクン。
――ドクン。
そして。
頭の中に。
一つだけ。
言葉が浮かんだ。
「五人目は、俺が殺した」
「……俺が?」
男が。
笑った。
「そうだ」
そして。
「五十年前」
静かに。
「お前は俺を殺した」
そう言った。




