第66話 六人目を殺せ
――もし止められなかったら――六人目を殺せ。
紙を。
何度も見た。
間違いなく。
俺の字だった。
「……俺が書いたのか?」
31番は。
答えない。
「31番」
「……ああ」
「これ」
紙を突きつける。
「本当に俺が書いたのか?」
「ああ」
「五十年前に?」
「ああ」
「じゃあ」
俺は。
喉の奥から言葉を絞り出す。
「俺は五十年前から、六人目を殺すつもりだったのか?」
31番は。
しばらく黙った。
「違う」
「……?」
「正確には」
31番が言う。
「お前は」
一拍。
「六人目を殺すことを、最後の手段にした。」
「最後の手段?」
「ああ」
「何のために?」
「七人目を止めるためだ」
俺は。
壁を見る。
――七人目:起動条件。
――六人目:死亡。
「でも」
俺は言った。
「六人目を殺すと、七人目になるんだろ?」
「そうだ」
「なら矛盾してる」
「だから」
31番が。
苦しそうに笑う。
「五十年前のお前は」
紙を指す。
「自分が七人目になることを、知らなかった」
「……」
「知っていたのは」
31番が。
俺を見る。
「俺だけだ」
嫌な沈黙が。
落ちた。
「だったら」
ミラが。
口を開く。
「どうしてレインに言わなかったの?」
31番は。
ミラを見る。
「言えば」
「レインが選ぶからだ」
「何を?」
「自分を殺すことを」
俺は。
黙った。
「だから」
31番は続ける。
「俺は嘘をついた」
「どんな?」
「お前が死ねば」
一拍。
「全て終わると」
「……」
「お前はそれを信じた」
旧レインが。
突然。
口を開いた。
「違う」
「何が?」
「レインは」
旧レインが。
俺を見る。
「そんな単純な理由で死んだんじゃない」
31番が。
少しだけ目を細める。
「……お前は知っているのか?」
「ああ」
「何を?」
「俺が」
一拍。
「何を恐れていたか」
俺は。
旧レインを見る。
「何を?」
「七人目じゃない」
「……」
「俺が怖かったのは」
旧レインが。
胸に手を当てる。
「七人目が目覚めたあと」
「何をするかだ」
俺の胸が。
ズキッと痛んだ。
「何をする?」
「殺す」
「誰を?」
旧レインが。
俺を見る。
「俺たち全員を」
少年が。
息を呑む。
「僕も?」
「ああ」
「レインも?」
「ああ」
「アルドも?」
「……」
旧レインが。
少しだけ黙る。
「アルドは」
「もう死んでいた」
その言葉で。
俺は。
以前見た記録を思い出した。
――アルド死亡。
――レイン死亡。
――殺害者不明。
――七人目。
全てが。
少しずつ繋がる。
「七人目は」
俺が言う。
「誰かを殺す存在じゃない」
「……」
「目覚めたら」
俺は。
旧レインを見る。
「全員を消す存在だった?」
「正確には」
旧レインが答える。
「全員を一つに戻す存在だ」
「……何?」
「殺すのではない」
一拍。
「分けられる前に戻す」
俺は。
言葉を失った。
候補三。
旧レイン。
現在のレイン。
原初人格。
三十二番。
アルド。
全部。
別々の存在だと思っていた。
だが。
「……一つだった?」
俺が呟く。
「五十年前は」
旧レインが言う。
「そうだった」
「じゃあ」
ミラが。
恐る恐る聞く。
「七人目って」
旧レインは。
答えなかった。
代わりに。
31番が言った。
「元に戻す者だ。」
――ドクン。
胸の三つ目が。
大きく鳴った。
「……俺が?」
「違う」
31番が首を振る。
「まだだ」
「じゃあ何が足りない?」
「一つ」
「何?」
31番が。
俺の持つ紙を見る。
「六人目の選択だ」
俺は。
紙を握る。
「六人目は」
「何を選ぶ?」
31番が。
静かに答える。
「お前を殺すか」
「それとも」
一拍。
「お前を生かすか」
俺は。
31番を見る。
「それで何が変わる?」
「七人目になる条件が」
31番が。
自分の胸元の06を外した。
金属板が。
床に落ちる。
カラン。
「変わる」
「どう?」
31番は。
初めて。
その番号を自分から捨てた。
「俺が六人目であることを」
彼は。
ゆっくり言った。
「終わらせる」
壁が。
激しく揺れる。
――六人目:番号解除。
――選択権限:本人へ移行。
俺は。
息を呑む。
「お前」
「何だ?」
「自分で選べるようになったのか?」
「ああ」
「何を選ぶ?」
31番が。
俺を見る。
その目は。
今まで見たことがないほど穏やかだった。
「俺は」
そして。
静かに笑った。
「お前を殺さない」
――ドクン。
三つ目の鼓動が。
鳴った。
壁の文字が。
赤から白へ変わる。
――六人目:選択完了。
――対象:レイン。
――選択:生存。
そして。
最後に。
誰も予想していなかった文字が。
浮かんだ。
――七人目:仮登録を解除します。
「……え?」
ミラが。
声を漏らした。
俺も。
言葉を失った。
俺は。
七人目になれない。
なのに。
なぜか。
胸の三つ目の鼓動だけが。
強くなっていく。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
そして。
壁の一番下に。
小さな文字が現れた。
――新条件を生成します。
俺は。
それを見て。
嫌な予感しかしなかった。
五十年前に。
俺が失敗した。
その「選択」を。
今度は。
俺自身がやり直すことになる。




