第65話 六人目
――本登録条件:六人目の死亡。
壁の文字を。
俺は睨んだ。
「つまり」
ミラが言う。
「31番が死ねば、レインが七人目になる?」
「そういうことだ」
31番が答えた。
妙に。
落ち着いている。
「じゃあ」
俺は31番を見る。
「死ぬつもりか?」
「必要なら」
「……」
即答だった。
「お前」
「何だ?」
「死ぬことに慣れすぎじゃないか?」
「回収人だからな」
「その答え」
俺はため息をつく。
「聞き飽きた」
ミラが。
小さく笑った。
「レインも人のこと言えないよ」
「俺はまだ死んでない」
「それ、威張ることじゃないから」
31番も。
少しだけ笑った。
だが。
すぐに表情を戻す。
「問題は」
31番が言った。
「俺が死ぬことじゃない」
「じゃあ何だ?」
「お前が」
31番が。
俺を見る。
「俺を殺せるかだ」
「……」
「五十年前」
一拍。
「お前は俺に頼んだ」
「何を?」
「アルドを殺すように」
俺は。
黙った。
「そして」
「今度は」
31番が。
胸元の番号を指す。
「俺を殺す番だ」
「違う」
俺は。
首を振った。
「俺は殺さない」
「なら七人目にはなれない」
「それなら」
俺は。
壁を見る。
「七人目にならなくていい」
31番の目が。
少しだけ見開かれた。
「……何?」
「俺は」
自分の胸に手を当てる。
「誰かを殺すことを条件にする存在なら」
一拍。
「そんなもの、いらない」
壁が。
激しく点滅した。
――条件拒否を確認。
――七人目登録を停止。
――存在番号07:削除準備。
「……!」
ミラが叫ぶ。
「レイン!」
俺の視界が。
一瞬。
白くなった。
身体から。
何かが抜けていく感覚。
「……っ」
膝をつく。
「レイン!」
ミラが支える。
だが。
その手の感触が。
遠くなっていく。
俺の名前。
レイン。
その言葉が。
頭の中から。
少しずつ消えていく。
「……まずい」
旧レインが。
立ち上がった。
「名前が削られている」
「何?」
「お前の人格を固定しているものだ」
俺は。
ミラを見る。
「ミラ」
「いるよ!」
「俺の名前」
「……え?」
「呼んでくれ」
ミラの顔が。
歪んだ。
「レイン」
もう一度。
「レイン!」
その声が。
俺を引き戻す。
「……」
まだ。
俺は俺だった。
「ありがとう」
「何言ってるの!」
ミラが怒鳴る。
「勝手に消えないでよ!」
「消えるつもりはない」
「なら、もっとちゃんとして!」
「善処する」
「そこは『分かった』でしょ!」
少しだけ。
笑えた。
だが。
壁の文字は。
止まらない。
――七人目:削除率12%
――25%
――41%
「……」
俺は。
立ち上がる。
「時間がない」
31番を見る。
「お前」
「何だ?」
「本当に俺を七人目にしたいのか?」
31番は。
黙った。
「答えろ」
「……したくない」
「え?」
俺は。
耳を疑った。
「俺は」
31番が。
胸元の06を握る。
「お前を七人目にしたくない」
「じゃあ」
「だから」
31番が。
初めて。
苦しそうな顔をした。
「俺は五十年間」
一拍。
「お前を探していた」
「……」
「殺すためじゃない」
「じゃあ何のために?」
「止めるためだ」
空気が。
変わった。
「何を?」
「七人目になることを」
「……!」
旧レインが。
驚いた。
「お前……」
「そうだ」
31番が言う。
「俺は回収人じゃない」
「なら何だ?」
「監視人だ」
「それは」
俺は。
以前にも聞いた言葉を思い出す。
「三十一番としての役割か?」
「ああ」
「何を監視していた?」
31番は。
しばらく答えなかった。
そして。
ゆっくり。
俺の胸を見る。
「七人目が」
一拍。
「目を覚まさないように」
「……」
「だから」
31番が。
低く言う。
「お前が第三の選択肢を作った瞬間」
その目に。
初めて恐怖が浮かんだ。
「俺は失敗したと思った」
「何が?」
「五十年前から」
31番が。
呟く。
「ずっと」
「お前は七人目になるために動いていたんだ」
俺は。
何も言えなかった。
――ドクン。
胸の三つ目が鳴る。
すると。
壁に。
新しい文字が浮かんだ。
――六人目:真実の開示を開始。
31番が。
顔を上げる。
「やめろ」
だが。
止まらない。
――六人目の役割:七人目の監視。
――監視対象:レイン。
そして。
最後の一行。
――監視開始:五十年前。
俺は。
31番を見る。
「……最初から俺を知ってたのか?」
「ああ」
「俺が死ぬ前から?」
「ああ」
「俺が28年前に目覚めることも?」
31番は。
答えない。
俺は。
一歩近づいた。
「答えろ」
31番が。
目を逸らす。
「知っていた」
「……」
「お前が28年前に目覚めることも」
「ミラと出会うことも」
「この地下に来ることも」
「そして」
31番の声が。
震えた。
「今日、第三の選択肢を作ることも」
俺の背中に。
冷たいものが走る。
「じゃあ」
俺は。
ゆっくり言った。
「俺の人生は」
「最初から」
一拍。
「全部、決められていたのか?」
31番は。
答えなかった。
代わりに。
床から。
古い紙が一枚。
滑ってきた。
俺は拾う。
そこには。
五十年前の日付。
そして。
俺の字で。
こう書かれていた。
――「俺が七人目になることを、絶対に止めろ。」
俺は。
息を止めた。
その下には。
もう一行。
――「もし止められなかったら――六人目を殺せ。」
俺は。
ゆっくり31番を見る。
31番は。
何も言わなかった。
ただ。
静かに目を閉じた。




