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勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


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65/120

第65話 六人目

――本登録条件:六人目の死亡。


 壁の文字を。


 俺は睨んだ。


「つまり」


 ミラが言う。


「31番が死ねば、レインが七人目になる?」


「そういうことだ」


 31番が答えた。


 妙に。


 落ち着いている。


「じゃあ」


 俺は31番を見る。


「死ぬつもりか?」


「必要なら」


「……」


 即答だった。


「お前」


「何だ?」


「死ぬことに慣れすぎじゃないか?」


「回収人だからな」


「その答え」


 俺はため息をつく。


「聞き飽きた」


 ミラが。


 小さく笑った。


「レインも人のこと言えないよ」


「俺はまだ死んでない」


「それ、威張ることじゃないから」


 31番も。


 少しだけ笑った。


 だが。


 すぐに表情を戻す。


「問題は」


 31番が言った。


「俺が死ぬことじゃない」


「じゃあ何だ?」


「お前が」


 31番が。


 俺を見る。


「俺を殺せるかだ」


「……」


「五十年前」


 一拍。


「お前は俺に頼んだ」


「何を?」


「アルドを殺すように」


 俺は。


 黙った。


「そして」


「今度は」


 31番が。


 胸元の番号を指す。


「俺を殺す番だ」


「違う」


 俺は。


 首を振った。


「俺は殺さない」


「なら七人目にはなれない」


「それなら」


 俺は。


 壁を見る。


「七人目にならなくていい」


 31番の目が。


 少しだけ見開かれた。


「……何?」


「俺は」


 自分の胸に手を当てる。


「誰かを殺すことを条件にする存在なら」


 一拍。


「そんなもの、いらない」


 壁が。


 激しく点滅した。


 ――条件拒否を確認。


 ――七人目登録を停止。


 ――存在番号07:削除準備。


「……!」


 ミラが叫ぶ。


「レイン!」


 俺の視界が。


 一瞬。


 白くなった。


 身体から。


 何かが抜けていく感覚。


「……っ」


 膝をつく。


「レイン!」


 ミラが支える。


 だが。


 その手の感触が。


 遠くなっていく。


 俺の名前。


 レイン。


 その言葉が。


 頭の中から。


 少しずつ消えていく。


「……まずい」


 旧レインが。


 立ち上がった。


「名前が削られている」


「何?」


「お前の人格を固定しているものだ」


 俺は。


 ミラを見る。


「ミラ」


「いるよ!」


「俺の名前」


「……え?」


「呼んでくれ」


 ミラの顔が。


 歪んだ。


「レイン」


 もう一度。


「レイン!」


 その声が。


 俺を引き戻す。


「……」


 まだ。


 俺は俺だった。


「ありがとう」


「何言ってるの!」


 ミラが怒鳴る。


「勝手に消えないでよ!」


「消えるつもりはない」


「なら、もっとちゃんとして!」


「善処する」


「そこは『分かった』でしょ!」


 少しだけ。


 笑えた。


 だが。


 壁の文字は。


 止まらない。


 ――七人目:削除率12%


 ――25%


 ――41%


「……」


 俺は。


 立ち上がる。


「時間がない」


 31番を見る。


「お前」


「何だ?」


「本当に俺を七人目にしたいのか?」


 31番は。


 黙った。


「答えろ」


「……したくない」


「え?」


 俺は。


 耳を疑った。


「俺は」


 31番が。


 胸元の06を握る。


「お前を七人目にしたくない」


「じゃあ」


「だから」


 31番が。


 初めて。


 苦しそうな顔をした。


「俺は五十年間」


 一拍。


「お前を探していた」


「……」


「殺すためじゃない」


「じゃあ何のために?」


「止めるためだ」


 空気が。


 変わった。


「何を?」


「七人目になることを」


「……!」


 旧レインが。


 驚いた。


「お前……」


「そうだ」


 31番が言う。


「俺は回収人じゃない」


「なら何だ?」


「監視人だ」


「それは」


 俺は。


 以前にも聞いた言葉を思い出す。


「三十一番としての役割か?」


「ああ」


「何を監視していた?」


 31番は。


 しばらく答えなかった。


 そして。


 ゆっくり。


 俺の胸を見る。


「七人目が」


 一拍。


「目を覚まさないように」


「……」


「だから」


 31番が。


 低く言う。


「お前が第三の選択肢を作った瞬間」


 その目に。


 初めて恐怖が浮かんだ。


「俺は失敗したと思った」


「何が?」


「五十年前から」


 31番が。


 呟く。


「ずっと」


「お前は七人目になるために動いていたんだ」


 俺は。


 何も言えなかった。


 ――ドクン。


 胸の三つ目が鳴る。


 すると。


 壁に。


 新しい文字が浮かんだ。


 ――六人目:真実の開示を開始。


 31番が。


 顔を上げる。


「やめろ」


 だが。


 止まらない。


 ――六人目の役割:七人目の監視。


 ――監視対象:レイン。


 そして。


 最後の一行。


 ――監視開始:五十年前。


 俺は。


 31番を見る。


「……最初から俺を知ってたのか?」


「ああ」


「俺が死ぬ前から?」


「ああ」


「俺が28年前に目覚めることも?」


 31番は。


 答えない。


 俺は。


 一歩近づいた。


「答えろ」


 31番が。


 目を逸らす。


「知っていた」


「……」


「お前が28年前に目覚めることも」


「ミラと出会うことも」


「この地下に来ることも」


「そして」


 31番の声が。


 震えた。


「今日、第三の選択肢を作ることも」


 俺の背中に。


 冷たいものが走る。


「じゃあ」


 俺は。


 ゆっくり言った。


「俺の人生は」


「最初から」


 一拍。


「全部、決められていたのか?」


 31番は。


 答えなかった。


 代わりに。


 床から。


 古い紙が一枚。


 滑ってきた。


 俺は拾う。


 そこには。


 五十年前の日付。


 そして。


 俺の字で。


 こう書かれていた。


 ――「俺が七人目になることを、絶対に止めろ。」


 俺は。


 息を止めた。


 その下には。


 もう一行。


 ――「もし止められなかったら――六人目を殺せ。」


 俺は。


 ゆっくり31番を見る。


 31番は。


 何も言わなかった。


 ただ。


 静かに目を閉じた。

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