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勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


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64/120

第64話 殺してと言う声

――「僕を殺して」


 その声が。


 耳から離れなかった。


「……レイン?」


 ミラの声。


 俺は。


 返事をしなかった。


「レイン!」


「……ああ」


 ようやく。


 声が出た。


「聞こえた?」


「何が?」


「……」


 俺は。


 答えられなかった。


 言えば。


 ミラまで巻き込まれる。


 そんな気がした。


「今」


 31番が。


 低く言った。


「何を聞いた?」


「……」


「答えろ」


「殺して、だ」


 31番の表情が。


 固まった。


「誰を?」


「俺自身を」


 正確には。


 幼い俺が。


 そう言った。


 31番が。


 ゆっくり目を閉じる。


「やっぱりか」


「知ってるのか?」


「ああ」


「五十年前にも?」


「そうだ」


「誰に言った?」


「お前に」


 俺は。


 息を止めた。


「俺に?」


「五十年前の」


 31番は。


 俺の目を見る。


「お前にな」


 旧レインが。


 苦しそうに顔を伏せた。


「……違う」


「何が?」


「俺が言った」


「……」


「殺してくれと」


 旧レインが。


 自分の胸を押さえる。


「俺が一番最初に」


「自分自身を殺してくれと頼んだ」


 俺は。


 言葉を失った。


「じゃあ」


 ミラが。


 恐る恐る聞く。


「今の声は……」


「同じだ」


 31番が答える。


「でも」


 一拍。


「少し違う」


「どう違う?」


「五十年前のレインは」


 31番が言う。


「自分を消したかった」


「今の声は?」


「自分を」


 31番が。


 少年を見る。


「残すために殺してほしいと言っている」


「……」


 意味が分からない。


 殺すことで。


 残す?


 俺が考えていると。


 少年が。


 静かに口を開いた。


「僕」


「……?」


「殺されたいんじゃない」


「じゃあ」


「死にたいわけでもない」


 少年は。


 自分の胸に手を当てる。


「僕を殺せば」


 一拍。


「僕が、僕じゃなくなる」


「……?」


「だから」


 少年が。


 俺を見る。


「その前に」


 涙をこぼした。


「僕を選んでほしい」


 俺は。


 理解できなかった。


「選ぶ?」


「うん」


「殺すんじゃなくて?」


「うん」


「だったら、なぜ殺してって言った?」


「……」


 少年は。


 俯く。


「僕が言ったんじゃない」


「え?」


「僕の中にいる」


 少年が。


 自分の胸を指す。


「誰かが言った」


 俺の背筋に。


 冷たいものが走る。


「誰だ?」


「分からない」


 少年が首を振る。


「でも」


「その人は」


「僕より古い」


 その瞬間。


 -2番が。


 初めて。


 明らかに動揺した。


「……原初人格」


 俺は。


 -2番を見る。


「知ってるのか?」


「いや」


「今、名前を言っただろ」


「推測だ」


「なら聞く」


 俺は。


 -2番に近づく。


「原初人格って何だ?」


「……」


「三十二番に消されたんだろ?」


「そう記録されている」


「本当に?」


「分からない」


「またそれか」


「事実だ」


 -2番が。


 俺を見る。


「俺は」


 一拍。


「原初人格を直接見たことがない」


「……」


「ただ」


 彼が。


 少年を見る。


「一度だけ」


「声を聞いた」


「何て?」


 -2番は。


 しばらく黙った。


 そして。


「俺を忘れろ」


 そう言った。


 俺は。


 固まった。


「……それ」


「何だ?」


「さっき」


 俺は。


 自分の記憶を探る。


「五十年前のアルドが」


「俺に言った」


 ――俺を忘れろ。


 -2番の顔色が変わった。


「違う」


「何が?」


「アルドじゃない」


「……」


「それは」


 -2番が。


 低い声で言う。


「原初人格の言葉だ」


 空気が。


 凍った。


「じゃあ」


 ミラが。


 震える声で聞く。


「アルドが言った言葉と」


「同じだった?」


「ああ」


「ということは……」


「分からない」


 また。


 その答え。


 俺は。


 ため息をついた。


「本当に便利な言葉だな」


「何が?」


「分からない」


 ミラが。


 小さく笑った。


「こんな状況でそれ言えるレイン、やっぱり強いよ」


「強くない」


「じゃあ鈍い」


「それは否定しない」


 少しだけ。


 空気が緩んだ。


 だが。


 その瞬間。


 壁が赤く染まった。


 ――六人目:選択を開始。


 31番の身体が。


 震える。


「……始まる」


「何が?」


「俺が」


 31番が。


 苦しそうに胸を押さえる。


「誰かを選ぶ」


 壁に。


 六つの番号が浮かんだ。


 ――01


 ――02


 ――03


 ――04


 ――05


 ――06


 そして。


 最後に。


 ――07


 俺は。


 その数字を見る。


「……七人目」


 31番が。


 首を振る。


「違う」


「何が?」


「07は」


 一拍。


「番号じゃない」


「じゃあ?」


「空席だ」


 壁の七番目だけ。


 名前がなかった。


 代わりに。


 ――選択者:未定


 と表示されている。


「じゃあ」


 俺は言う。


「七人目って」


 31番が。


 俺を見る。


「空席を埋める者だ」


「……」


「だから」


 31番が。


 笑った。


「五十年前」


「お前は選ばれた」


「何のために?」


「空席を」


 一拍。


「埋めるために」


 その瞬間。


 俺の胸の三つ目が。


 ――ドクン。


 大きく鳴った。


 そして。


 壁の七番目に。


 初めて。


 名前が浮かんだ。


 ――07:レイン


 俺は。


 息を呑む。


「……俺が」


 だが。


 その直後。


 名前の横に。


 もう一つ。


 小さな文字が浮かんだ。


 ――仮登録。


 さらに。


 その下。


 誰も予想していなかった文字が。


 ――本登録条件:六人目の死亡。


 31番が。


 笑わなくなった。


「……そういうことか」


「何が?」


 俺が聞く。


 31番は。


 俺ではなく。


 自分の胸元を見た。


「俺が死ななければ」


 そして。


 静かに。


 こう言った。


「お前は、七人目になれない」

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