第63話 六人目の起動
――『僕も選べる』
その声が。
崩れかけた地下通路に響いた。
俺たちは。
足を止めた。
「……今の」
ミラが。
小さく呟く。
「幼いレインだよね?」
「ああ」
「でも」
ミラが振り返る。
「姿がない」
その通りだった。
さっきまで。
確かにいた。
幼い俺。
なのに。
今は誰もいない。
「……レイン」
旧レインが。
俺を見る。
「聞こえたか?」
「ああ」
「なら」
旧レインの顔が。
険しくなる。
「もう始まった」
「何が?」
「六人目だ」
その言葉と同時に。
通路の奥で。
――カン。
金属音。
――カン。
もう一度。
――カン。
三回。
俺の持つ金属板が。
熱を持った。
「……またか」
表面を見る。
数字が。
変わっていた。
――六人目:起動準備完了。
「六人目って」
ミラが。
不安そうに聞く。
「誰なの?」
旧レインが。
答えようとした。
だが。
「俺だ」
突然。
別の声がした。
全員が振り返る。
そこに。
一人の男が立っていた。
黒い服。
長い髪。
左目に。
古い傷。
俺は。
その顔を知っていた。
「……三十一番」
男は。
静かに頷いた。
「久しぶりだな」
「五十年前にもいたのか?」
「ああ」
31番は。
俺を見る。
「そして」
自分の胸元から。
金属板を取り出した。
番号は。
――06
「俺は六人目だ」
ミラが。
目を丸くする。
「三十一番じゃないの?」
「番号には」
31番が答える。
「二種類ある」
「……二種類?」
「役割番号と」
一拍。
「存在番号だ」
俺は。
金属板を見る。
「31は役割」
「そうだ」
「06は存在」
「そういうことだ」
俺は。
嫌な予感がした。
「じゃあ」
俺は聞く。
「五十年前」
「俺たちは」
「六人いた?」
31番は。
頷いた。
「正確には」
少し間を置いて。
「六人が選ばれた」
「誰に?」
「七人目に」
俺は。
息を止めた。
「……七人目が?」
「ああ」
31番が言う。
「七人目は」
その目が。
俺の胸を見る。
「五十年前から」
「六人を選んでいた」
「何のために?」
「自分の代わりにするためだ」
「……」
少年が。
突然。
声を上げた。
「違う」
全員が。
少年を見る。
「それは違う」
少年の目から。
涙が落ちた。
「七人目は」
「誰かの代わりになるためじゃない」
「じゃあ何だ?」
31番が聞く。
少年は。
震えながら答えた。
「……僕を」
「僕を」
一度。
息を吸う。
「選ぶためだった」
31番の顔が。
変わった。
「そうか」
「思い出したか」
少年が。
首を振る。
「思い出したんじゃない」
「じゃあ?」
「今」
少年は。
胸を押さえる。
「僕が選んだ」
その瞬間。
俺の胸で。
ドクン。
三つ目の鼓動。
今までより。
はっきり。
強く。
鳴った。
――六人目:起動。
31番の身体が。
わずかに揺れる。
「……始まった」
「何が?」
「六人目の」
一拍。
「選択だ」
31番の目が。
赤く光る。
ミラが。
後ずさる。
「レイン……」
「大丈夫」
俺は。
前に出た。
「31番」
「何だ?」
「お前は」
俺は。
聞く。
「誰を選ぶ?」
31番は。
笑った。
「俺じゃない」
「……?」
「選ばれるのは」
彼が。
俺を見る。
「お前だ」
その瞬間。
壁に。
巨大な文字が浮かんだ。
――六人目:選択開始。
――選択対象:七人目。
そして。
その下に。
名前が三つ。
――レイン
――旧レイン
――候補三
「また三つか」
俺は。
ため息をついた。
だが。
今回は違った。
名前の横に。
小さな数字がある。
レイン――現在
旧レイン――過去
候補三――未確定
そして。
その下。
空白。
何もない場所に。
突然。
文字が浮かんだ。
――六人目が選択した場合、第四候補は消滅します。
「……!」
少年が。
息を呑む。
「僕が消える」
「違う」
俺は。
即座に言った。
「まだ決まってない」
「でも」
「俺が決める」
31番が。
笑う。
「それが」
静かに。
「七人目の条件だ」
「……」
「誰かを消すか」
「それとも」
31番の目が。
赤く光る。
「誰も消さずに」
一拍。
「自分の存在そのものを変えるか」
俺は。
その言葉を聞いて。
理解した。
第三の選択肢。
共存。
それは。
ただ三人を残すことじゃない。
俺自身が。
今までの「レイン」という存在から。
変わらなければならない。
だから。
七人目なのだ。
だが。
その瞬間。
背後から。
小さな声がした。
『レイン』
振り返る。
誰もいない。
なのに。
声だけは。
確かに聞こえる。
『お願い』
『今度は』
『僕を――』
一瞬。
声が途切れる。
そして。
最後の言葉だけが。
耳元に残った。
『殺して』
「……!」
俺は。
凍りついた。
その声は。
幼い俺のものだった。




