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勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


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62/120

第62話 第四候補

――第四候補:???


 その文字を。


 俺は見つめていた。


「選ぶな」


 旧レインが。


 もう一度言った。


「……理由は?」


「ない」


「それじゃ納得できない」


「理由を言えば」


 旧レインが。


 苦しそうに顔を歪める。


「お前は、きっと選ぶ」


「なるほど」


「何がなるほどなの?」


 ミラが呆れた顔をする。


「今のは」


 俺は答えた。


「選べって言われてるのと同じだ」


「レインって、そういうところあるよね」


「自覚はある」


 壁の文字が。


 また変化した。


 ――第四候補:未登録。


 ――命名権限:七人目。


「七人目?」


 俺は。


 その文字を指差す。


「つまり」


 ミラが言う。


「レインが七人目なら、レインが名前をつけるの?」


「……たぶん」


 だが。


 俺は違和感を覚えていた。


 さっきまで。


 命名権限は俺にあった。


 今は。


 七人目になっている。


 俺自身とは。


 書かれていない。


「……」


 俺は。


 ゆっくり壁に近づいた。


「おい」


 文字に話しかける。


「七人目って誰だ?」


 反応なし。


「俺か?」


 沈黙。


「旧レインか?」


 沈黙。


「候補三か?」


 沈黙。


「じゃあ」


 一拍。


「誰だ?」


 その瞬間。


 壁に。


 一文字だけ浮かんだ。


 ――選択者。


「……選択者?」


 旧レインが。


 目を伏せる。


「そうだ」


「知ってるのか?」


「少しだけ」


「またそれか」


 俺が睨む。


 旧レインは。


 苦笑した。


「五十年前の俺は」


「何をした?」


「選んだ」


「何を?」


「アルドを殺すことを」


 空気が。


 重くなる。


「そして」


 旧レインが続ける。


「自分を殺すことを」


「……」


「だから」


 彼は。


 俺を見る。


「俺が七人目になれなかった」


「どういう意味だ?」


「選択者には」


 一拍。


「資格が必要なんだ」


「資格?」


「ああ」


 旧レインが。


 第四候補を見る。


「自分を選ばないこと」


「……?」


「自分のために」


 旧レインは言う。


「他人を消さないこと」


 少年が。


 静かに顔を上げた。


「じゃあ」


 少年が言う。


「僕を消さなければ」


「それだけじゃない」


 旧レインは首を振る。


「俺もだ」


「……」


「レイン」


 旧レインが。


 俺を見る。


「お前は」


 少しだけ笑った。


「俺を消せるか?」


「……」


「俺を消せば」


 彼は続ける。


「お前は簡単に生きられる」


「そうかもな」


「でも」


「消さない」


 俺は即答した。


 旧レインが。


 目を見開く。


「……そうか」


「俺は」


 俺は。


 少年を見る。


「こいつも」


 そして。


 旧レインを見る。


「お前も」


「……」


「俺も」


 一拍。


「全部残す」


 ミラが。


 小さく笑った。


「また第三の道?」


「ああ」


「好きだね」


「他にないからな」


 その瞬間。


 第四候補の文字が。


 激しく点滅した。


 ――条件不成立。


「……何?」


 俺は眉をひそめる。


 ――三者共存:失敗。


「失敗?」


 ミラが叫ぶ。


「まだ何もしてないじゃん!」


 壁が。


 冷たく答える。


 ――存在容量を超過。


「存在容量?」


 -2番が。


 突然。


 顔色を変えた。


「そういうことか」


「何だ?」


「お前の器は」


 -2番が。


 俺の胸を見る。


「一人分しかない」


「……」


「だから」


 彼は言う。


「三人を入れれば壊れる」


 少年が。


 青ざめる。


「じゃあ」


「そうなる」


「僕が消えれば」


「違う」


 俺は。


 少年を見る。


「消える必要はない」


 -2番が。


 俺を睨む。


「なら、どうする?」


「器を増やす」


「無理だ」


「なぜ?」


「お前の身体は」


 -2番が。


 低く言った。


「五十年前から完成している」


「だから?」


「作り直せない」


 俺は。


 少し考えた。


 そして。


「作り直す必要はない」


「……?」


「俺が器になる必要もない」


 ミラが。


 目を瞬く。


「じゃあ?」


「一つの身体に」


 俺は。


 胸に手を当てる。


「一つの人格しか入れられないなら」


 一拍。


「人格を一つにしなければいい」


 全員が。


 黙った。


「……それ」


 少年が。


 恐る恐る言う。


「どういう意味?」


「分からない」


「分からないの?」


「ああ」


「レイン……」


 ミラが。


 呆れたように笑う。


「それ、作戦なの?」


「今考えてる」


「行き当たりばったりじゃん」


「いつものことだ」


 すると。


 第四候補の文字が。


 突然消えた。


 代わりに。


 新しい文字が浮かぶ。


 ――統合ではない。


 ――分離でもない。


 ――第三の状態を確認。


 俺は。


 息を呑んだ。


「第三の状態……」


 さらに。


 一文字。


 また一文字。


 ゆっくりと。


 名前が表示されていく。


 ――共存型人格。


 俺は。


 思わず笑った。


「……そんなの」


 旧レインが。


 震える声で呟く。


「存在しないはずだ」


「じゃあ」


 俺は壁を見る。


「今、作った」


 直後。


 地下施設全体が。


 轟音を立てた。


 壁が割れる。


 床が揺れる。


 天井から。


 大量の土埃が落ちてくる。


「ちょっと!」


 ミラが叫ぶ。


「レイン!」


「走るぞ!」


「どこに!?」


「分からない!」


「また!?」


 俺たちは。


 崩れ始めた通路を走る。


 その途中。


 俺は。


 一瞬だけ振り返った。


 第四候補の部屋。


 その壁に。


 最後の文字が浮かんでいた。


 ――七人目:条件達成率 49%


「……半分にも届いてないのか」


 そして。


 その下。


 誰にも見られていない場所に。


 小さく。


 もう一つ。


 文字があった。


 ――六人目:起動準備完了。


 俺は。


 その意味を知る前に。


 通路の奥から聞こえた声を聞いた。


『……やっと』


 あの声だった。


 五十年前の。


 幼い俺の声。


『今度は』


 ドクン。


 胸の三つ目が鳴る。


『僕も選べる』

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