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勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


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61/120

第61話 第三の心臓

――第三心臓、起動条件:七人目の選択。


 その文字を。


 俺は何度も見た。


「……つまり」


 ミラが言う。


「レインが選べば、第三心臓が動くってこと?」


「たぶん」


「じゃあ、何を選ぶの?」


「それが分からない」


「ですよね」


 ミラがため息をつく。


「この地下施設、説明不足すぎない?」


「同感だ」


 こんな場所を作った奴に。


 一度くらい文句を言いたい。


 ただ。


 その前に。


 -2番が口を開いた。


「選択するのは、お前じゃない」


「……何?」


「七人目だ」


「俺じゃないのか?」


「ああ」


 -2番が。


 俺を見る。


「お前が七人目なのか」


「……」


「それとも」


 -2番が。


 壁を見る。


「七人目を宿しているだけなのか」


 俺は。


 答えられなかった。


「待って」


 ミラが割り込む。


「それ、今までと話が違わない?」


「何がだ?」


「今までレイン自身が七人目って話だったじゃない」


「それは違う」


 -2番が即答した。


「正確には」


 彼は。


 一文字ずつ言う。


「七人目になれる条件を持っている」


「……」


 俺は。


 胸に手を当てた。


 まだ。


 三つ目は眠っている。


「じゃあ」


 俺は聞く。


「七人目って、誰なんだ?」


 -2番は。


 少し黙った。


「それは」


「それは?」


「俺にも分からない」


「……またか」


「すまない」


「謝られると余計に腹が立つ」


 ミラが吹き出した。


「レイン、珍しく素直」


「俺だって怒る」


「知ってるよ」


 ミラが笑う。


「人間だもんね」


 その言葉で。


 胸が。


 わずかに痛んだ。


 人間。


 その言葉は。


 俺にとって。


 妙に重かった。


 すると。


 旧レインが。


 静かに言った。


「七人目は」


「……?」


「人間かどうかじゃない」


 彼は。


 俺を見る。


「何を選んだかだ」


「選んだ?」


「ああ」


 旧レインが。


 目を伏せる。


「五十年前」


「俺は選んだ」


「何を?」


「死ぬことを」


 俺は。


 黙った。


「そして」


 旧レインが続ける。


「アルドも死ぬことを選んだ」


「……」


「俺たちは」


 苦笑する。


「選択を間違えた」


 その瞬間。


 壁が光った。


 ――過去の選択を検出。


 俺は。


 眉をひそめる。


 ――旧レイン:死亡を選択。


 ――アルド:死亡を選択。


 ――候補三:選択権なし。


 少年が。


 俯いた。


「……僕」


 俺を見る。


「選べなかった」


「……」


「ずっと」


 少年の声が。


 震える。


「誰かに選ばれてきた」


「器」


「候補」


「三十二番」


「二人目」


「全部」


 少年が。


 自分の手を見る。


「僕が決めたことは」


 一度もない。


 その言葉に。


 俺は。


 胸を締めつけられた。


「じゃあ」


 俺は。


 少年の前に立つ。


「今から決めればいい」


「……え?」


「誰かに決められた過去は変えられない」


「でも」


「これからは」


 俺は言う。


「お前が決めろ」


 少年が。


 俺を見る。


「何を?」


「まず」


 一拍。


「自分の名前」


 少年は。


 驚いた顔をした。


「僕が?」


「ああ」


「レインじゃなくて?」


「それは俺の名前だ」


「……うん」


 少年は。


 初めて。


 嬉しそうに笑った。


 その瞬間。


 壁に文字が浮かぶ。


 ――候補三:自己選択を確認。


 さらに。


 ――人格固定条件を解除。


 俺は。


 目を見開く。


「解除?」


 -2番が。


 険しい顔になる。


「まずい」


「何が?」


「候補三が」


 彼は。


 少年を見る。


「自由になった」


「それって」


「良いことじゃないの?」


 ミラが聞く。


「普通ならな」


 -2番が答える。


「だが」


 壁の文字が。


 赤く変わる。


 ――自由人格:発生。


 ――既存人格との干渉を開始。


 少年の姿が。


 一瞬。


 揺らいだ。


「……っ」


 少年が。


 頭を押さえる。


「痛い?」


「違う」


「じゃあ?」


「誰かが」


 少年が。


 顔を上げる。


「俺を呼んでる」


 俺の背筋に。


 冷たいものが走った。


「またか」


「うん」


 少年の目が。


 赤くなる。


「今度は」


 一瞬。


 少年の口元が。


 別人のように笑った。


「もっと近い」


 ドクン。


 俺の胸が鳴る。


 ――一つ目。


 ドクン。


 ――二つ目。


 そして。


 まだ起動していないはずの。


 ――三つ目。


 ドクン。


 ドクン。


 ドクン。


 三つが。


 同時に鳴った。


 その瞬間。


 地下全体に。


 声が響く。


『七人目の選択を開始します』


「……」


 俺は。


 周囲を見る。


『候補を表示します』


 壁に。


 三つの名前が浮かんだ。


 ――レイン


 ――旧レイン


 ――候補三


 ミラが。


 息を呑む。


「また三択……」


「違う」


 俺は。


 首を振った。


「これは」


 壁の一番下を見る。


 そこには。


 小さく。


 もう一つ。


 文字があった。


 ――第四候補:未登録。


 俺は。


 ゆっくり笑った。


「……やっぱりな」


「レイン?」


「第三の選択肢は」


 俺は。


 壁に手を置く。


「最初から消されてたんだ」


 その瞬間。


 第四候補の欄に。


 文字が一つだけ浮かんだ。


 ――???


 そして。


 その文字を見た瞬間。


 旧レインが。


 初めて。


 怯えた。


「……それだけは」


「何?」


 旧レインが。


 震える声で言う。


「選ぶな」


 俺は。


 第四候補を見つめた。


 その名前は。


 まだない。


 だが。


 なぜか。


 俺には分かった。


 これは。


 五十年前の俺が。


 最後まで捨てられなかったものだ。

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