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勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


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60/120

第60話 幼いレイン

――ドクン。


 三つ目の鼓動が。


 胸の奥で鳴った。


 目の前にいるのは。


 幼い俺。


 たぶん。


 十歳にも満たない。


 雪の中で。


 裸足のまま立っている。


「……お前」


 俺は。


 ゆっくり近づいた。


「誰だ?」


 幼い俺は。


 首を傾げる。


「レイン」


「それは俺の名前だ」


「うん」


「じゃあ、お前は?」


 少年は。


 少し考えてから。


 答えた。


「まだ、ない」


「名前が?」


「うん」


 それは。


 さっきの少年と同じだった。


 俺は振り返る。


 候補三の少年も。


 幼い俺を見ている。


「……知ってる?」


 俺が聞く。


「知らない」


 少年は首を振った。


「でも」


「でも?」


「怖くない」


 旧レインが。


 突然。


 低い声で言った。


「俺は知ってる」


 全員が。


 旧レインを見る。


「こいつは」


 一拍。


「俺が捨てたものだ」


「……」


「五十年前」


 旧レインが続ける。


「俺は一つだけ、自分から切り離した」


「それが?」


「あの子供だ」


 幼い俺が。


 旧レインを見る。


 そして。


 寂しそうに笑った。


「うん」


「お前……」


「僕は」


 幼い俺が言う。


「怖かったから」


 旧レインの顔が。


 わずかに歪む。


「何が?」


「死ぬこと」


「……」


「だから」


 幼い俺は。


 自分の胸に手を当てた。


「ここに隠れた」


 俺も。


 胸に手を当てる。


「俺の中に?」


「うん」


 ドクン。


 三つ目の鼓動。


「じゃあ」


 俺は尋ねる。


「三つ目の鼓動は、お前なのか?」


 幼い俺は。


 首を横に振った。


「違う」


「じゃあ何だ?」


「僕を見つけるための音」


「……?」


「僕がいるって」


 幼い俺が。


 胸を指す。


「レインに教えるための音」


 ミラが。


 小さく息を吐いた。


「じゃあ……三つ目の鼓動は、人格そのものじゃない?」


「たぶん」


 俺が答える。


 すると。


 幼い俺が。


 笑った。


「正解」


「……」


 俺は。


 少しだけ嫌な予感がした。


「じゃあ」


 俺は続ける。


「お前は何なんだ?」


「僕?」


「そう」


 幼い俺は。


 しばらく黙った。


 そして。


「最初のレイン」


 と言った。


 空気が。


 止まった。


「……最初の?」


「うん」


「初代レインは五十年前に死んだんじゃないのか?」


「死んだよ」


「じゃあ、お前は?」


「死んだ僕」


「……意味が分からない」


 幼い俺は。


 笑う。


「だから」


 小さな手が。


 俺の胸に触れた。


「まだ生きてる」


 瞬間。


 視界が白くなった。


 雪。


 五十年前の森。


 俺がいる。


 いや。


 俺じゃない。


 もっと幼い。


 その前に。


 アルドが立っている。


「レイン」


 アルドが言う。


「聞いてくれ」


 幼い俺が。


 頷いている。


「お前には」


 アルドが。


 赤い核を手に持っていた。


「二つ必要だ」


 胸に。


 何かが押し込まれる。


 幼い俺が。


 苦しそうに顔を歪める。


「一つは、生きるため」


 アルド。


「もう一つは――」


 そこで。


 映像が途切れた。


「……何だ?」


 俺が叫ぶ。


 暗闇に戻る。


 幼い俺は。


 もういない。


 代わりに。


 床に。


 一枚の金属板が落ちていた。


 拾う。


 表面には。


 数字が刻まれている。


 ――-2


 俺は。


 それを見つめる。


「……これ」


 ミラが。


 息を呑んだ。


「-2番の?」


「ああ」


 金属板の裏側には。


 一文だけ。


 刻まれていた。


 ――第二の心臓は、人格を作るためのものではない。


 俺は。


 その下を読む。


 ――死を選ぶためのものでもない。


 さらに。


 小さな文字。


 ――二つの存在を、一つの人生に収めるためのもの。


「……」


 俺は。


 少年を見る。


 旧レインを見る。


 そして。


 自分を見る。


「一つの人生に」


 ミラが呟く。


「三人……?」


「いや」


 俺は首を振る。


「たぶん違う」


「じゃあ?」


 俺は。


 金属板を握る。


「二つだ」


「二つ?」


「ああ」


 幼い俺。


 旧レイン。


 候補三。


 そのどれか二つではない。


 もっと別の何か。


 ――生まれた人格。


 ――作られた存在。


 その二つを。


 一つの人生に。


 俺は。


 嫌な予感がした。


「……俺は」


 呟く。


「どっちなんだ?」


 すると。


 背後から。


 声がした。


「どちらでもない」


 振り返る。


 そこには。


 -2番が立っていた。


「……いつからいた?」


「最初からだ」


「嘘つけ」


「半分は本当だ」


「その言い方、やめろ」


 -2番は。


 珍しく笑った。


「お前らしいな」


「俺を知ってるのか?」


「五十年前から」


「またそれか」


「だが」


 -2番の表情が。


 初めて真剣になる。


「一つだけ訂正する」


「何を?」


「お前の中にある三つ目の鼓動」


 彼が。


 俺の胸を見る。


「それは――」


 一拍。


「七人目の鼓動じゃない」


「……じゃあ何だ?」


 -2番は。


 答えなかった。


 代わりに。


 俺の手にある金属板を指差す。


「裏を見ろ」


「もう見た」


「もう一度だ」


 俺は。


 金属板を裏返した。


 さっきまでなかった文字が。


 浮かんでいる。


 ――二つ目の心臓:起動済み。


 その下。


 新しい文字。


 ――三つ目の心臓:未起動。


 俺は。


 息を止めた。


「……じゃあ」


 ミラが。


 青ざめる。


「今鳴ってるのは……」


 -2番が。


 静かに答えた。


「予告だ」


 ドクン。


 三つ目の鼓動。


 今度は。


 はっきりと。


 俺自身の名前を呼んだ。


 ――レイン。


 そして。


 壁に最後の一行が浮かんだ。


 ――第三心臓、起動条件:七人目の選択。


「……」


 俺は。


 ゆっくり拳を握った。


 どうやら。


 第三の選択肢を作っただけでは。


 終わらないらしい。


 むしろ。


 ここからが。


 本当の選択だった。

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