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勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


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58/120

第58話 第三の選択肢

――第三選択肢:存在しません。


 壁に。


 冷たい文字が浮かんでいる。


「……そうか」


 俺は。


 少年の手を握ったまま。


 壁を見る。


「存在しないなら」


 俺は言った。


「作ればいい」


 ミラが。


 小さく頷いた。


「うん」


 旧レインが。


 初めて。


 不安そうな顔をした。


「本気か?」


「ああ」


「無理だ」


「どうして?」


「俺たちは」


 旧レインが言う。


「三つに分けられた」


「器」


 少年。


「記憶」


 旧レイン。


「人格」


 そして。


「お前」


 俺を指す。


「それ以上にはなれない」


「誰が決めた?」


「……」


「そのルールを」


 俺は。


 壁に手を置く。


「誰が決めた?」


 返事はない。


 俺は。


 もう一度言った。


「答えろ」


 壁が。


 赤く点滅した。


 ――製造規則により決定。


「製造規則?」


 俺は笑った。


「じゃあ」


 一拍。


「俺は製品じゃない」


 壁が。


 大きく揺れた。


 ――警告。


 ――対象が製造規則を拒否。


「……」


 ミラが。


 目を丸くする。


「レイン」


「何だ?」


「今の」


「俺も初めて見た」


 旧レインが。


 呆然と俺を見る。


「お前……」


「何だ?」


「そんなこと」


 彼の声が。


 少し震える。


「五十年前の俺には、できなかった」


「だから?」


「……羨ましい」


 その言葉に。


 少年が笑った。


「僕も」


「……」


 旧レインが。


 少年を見る。


「お前は?」


「うん」


 少年は。


 俺の手を握り返した。


「俺も、今のレインが羨ましい」


「どうして?」


「選べるから」


 俺は。


 少しだけ黙った。


 選べる。


 本当にそうなのか。


 俺だって。


 ずっと選ばされてきただけじゃないのか。


 三十二番。


 アルド。


 レイン。


 七人目。


 候補三。


 どれも。


 誰かが用意した名前だ。


 だったら。


「……名前も」


 俺は呟く。


「自分で決めていいんだよな」


 壁が。


 反応した。


 ――命名権限:本人。


「だったら」


 俺は。


 少年を見る。


「お前の名前は」


 少年が。


 息を呑む。


 だが。


 俺は続けた。


「まだ決めない」


「……え?」


「今は」


 少年を見る。


「お前が自分で決めるまで待つ」


「俺が?」


「ああ」


「でも」


「名前は」


 俺は言う。


「俺が押しつけるものじゃない」


 ミラが。


 嬉しそうに笑った。


「うん。それがいい」


 その瞬間。


 壁の文字が。


 変わった。


 ――命名方式変更。


 ――本人による自己命名を許可。


 旧レインが。


 驚いた。


「そんな機能……」


「あるじゃないか」


 俺が言う。


「隠してただけだろ」


 壁が。


 沈黙する。


 少しして。


 新しい文字。


 ――例外処理を確認。


 そして。


 ――七人目条件を再計算します。


 俺は。


 息を止めた。


「七人目条件?」


 壁に。


 一行ずつ表示される。


 ――一人目:アルド


 ――二人目:三十二番


 ――三人目:レイン


 ――四人目:-1番


 ――五人目:零番


 ――六人目:???


 そして。


 最後。


 ――七人目:条件未定義。


「……」


 俺は。


 その文字を見つめる。


「七人目って」


 ミラが呟く。


「人の名前じゃないの?」


「……たぶん」


 俺は答えた。


「条件なんだ」


 旧レインが。


 小さく笑った。


「やっと気づいたか」


「知ってたのか?」


「少しだけ」


「教えろ」


「できない」


「なぜ?」


「俺も」


 旧レインが。


 自分の胸を押さえる。


「七人目になる前に、死んだから」


 その瞬間。


 少年が。


 急に苦しみ始めた。


「……っ」


「どうした?」


「胸が……」


 俺が支える。


「痛い?」


「違う」


 少年が。


 顔を上げる。


「誰かが」


 そして。


 俺を見る。


「呼んでる」


「誰が?」


「分からない」


 少年の目が。


 赤く光る。


「でも」


 その声が。


 少しずつ低くなる。


「俺の名前を呼んでる」


 俺は。


 息を呑む。


「名前?」


「ああ」


 少年が。


 初めて。


 自分から名前を口にした。


「……レイン」


「……!」


 旧レインの顔が。


 青ざめた。


「違う」


「何が?」


「そいつに」


 旧レインが叫ぶ。


「その名前を呼ばせるな!」


 遅かった。


 少年の目が。


 完全に赤くなる。


 そして。


 俺の声で。


 言った。


「レイン」


 ドクン。


 胸の二つ目が鳴る。


「レイン」


 今度は。


 少年の声。


「レイン」


 旧レインの声。


「レイン」


 三つの声が。


 重なる。


 そして最後に。


 四つ目の声。


 俺が。


 まだ聞いたことのない声。


『――ようやく、名前が戻った。』


 地下の全ての灯りが。


 一斉に消えた。


 暗闇の中。


 俺は。


 誰かに手を握られた。


 ミラではない。


 少年でもない。


 もっと小さな手。


 そして。


 耳元で。


 幼い声が囁いた。


『今度は、俺を捨てないで』

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