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勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


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54/120

第54話 レインの死亡

――融合開始条件:レインの死亡。


 その文字を。


 俺は睨んでいた。


「……俺が死んだら」


 ミラが。


 俺の腕を掴んでいる。


「融合するってこと?」


「ああ」


 俺は答えた。


「そうらしい」


「じゃあ」


 ミラの声が低くなる。


「絶対に死なないで」


「努力する」


「努力じゃなくて」


「善処する」


「同じ!」


 こんな時でも。


 ミラは怒る。


 そのことが。


 少しだけ嬉しかった。


 だが。


 -2番は笑っていない。


「お前たちは勘違いしている」


「何を?」


「融合するのは」


 -2番が。


 壁を見る。


「人格ではない」


「……?」


「人格と記憶と――」


 そこで。


 言葉を止めた。


「何だ?」


「名前だ」


 俺は眉をひそめる。


「名前?」


「ああ」


 -2番が。


 俺の胸を指す。


「お前が死んだ瞬間」


 そして。


「今の『レイン』という名前が空になる」


「……」


「空になった場所へ」


 壁の文字が。


 赤く点滅する。


「三十二番が戻る」


 俺は。


 少し考えた。


「つまり」


「お前の身体は」


 -2番が言う。


「ずっと三十二番の器だった」


「……」


「レインという人格は」


「俺自身だ」


「そうだ」


 -2番は頷く。


「だからこそ厄介なんだ」


 ミラが。


 不安そうに聞く。


「何が?」


「本来」


 -2番が言う。


「三十二番には人格が存在しなかった」


「……」


「そこにレインが生まれた」


「じゃあ」


 ミラが言う。


「三十二番はレインを消したいの?」


「違う」


「じゃあ?」


「三十二番は」


 -2番が。


 俺を見る。


「レインになりたい」


 俺は。


 言葉を失った。


 消す。


 奪う。


 殺す。


 それだけじゃない。


 もっと厄介だ。


 俺と。


 同じになろうとしている。


「……どうして?」


 俺が聞く。


 少年が答えた。


「羨ましいから」


「何が?」


「名前がある」


「……」


「友達がいる」


 少年は。


 ミラを見る。


「帰る場所がある」


 そして。


 俺を見る。


「怖がったり」


「笑ったり」


「怒ったりする」


 少年が。


 自分の胸を押さえる。


「俺には、それがなかった」


 ミラが。


 少し黙る。


「だから」


 少年は笑う。


「お前になりたい」


 俺は。


 答えられなかった。


 その気持ちは。


 少しだけ。


 分かる気がした。


 自分が何者なのか分からない。


 どこから来たのかも分からない。


 そんな存在が。


 自分の名前を持つ人間を見たら。


 欲しくなるのかもしれない。


「でも」


 俺は言った。


「俺を殺しても」


「うん」


「お前が俺になるとは限らない」


「……」


「むしろ」


 俺は。


 少年を見る。


「俺の人生を奪うだけだ」


 少年の表情が。


 少し曇った。


「……そうだね」


 その瞬間。


 地下の奥から。


 声がした。


『だから――』


 低い声。


 聞いたことがある。


 アルド。


 いや。


 アルドに似ている。


『だから、選べ』


 俺は振り返る。


『レインとして生きるか』


 壁が赤く光る。


『三十二番として生きるか』


 そして。


『どちらも捨てるか』


 ミラが叫ぶ。


「待って!」


 声は止まらない。


『選べないなら』


 一拍。


『死ね』


 壁に。


 巨大な文字。


 ――選択期限:10分。


「……」


 俺は。


 思わず笑った。


「急だな」


「笑ってる場合じゃないよ!」


「いや」


 俺は立ち上がる。


「こういうのは」


 壁を見る。


「だいたい選ばなくてもいい」


「え?」


「選択肢を作った奴は」


 俺は。


 壁に手を置いた。


「三つしかないと思ってる」


 ミラが目を丸くする。


「じゃあ?」


「四つ目を作る」


 -2番が。


 初めて笑った。


「……なるほど」


「何?」


「やっぱり」


 -2番が言う。


「お前は五十年前とは違う」


 俺は。


 壁を見る。


 ――残り9分。


「まず」


 俺は言った。


「俺はレインを捨てない」


 壁が。


 反応する。


 ――選択拒否。


「次に」


 俺は続ける。


「三十二番にもならない」


 ――選択拒否。


「そして」


 俺は少年を見る。


「お前も消さない」


 ――選択拒否。


 地下全体が。


 大きく揺れた。


 ――選択肢が存在しません。


「そうだろうな」


 俺は。


 少し笑う。


「だから作る」


 俺は。


 胸に手を当てた。


「新しい名前を」


 少年の目が。


 大きく開く。


「……俺の?」


「ああ」


「でも」


 少年が震える。


「名前をつけたら人格が固定される」


「そうだな」


「俺は三十二番になるかもしれない」


「ならない」


「どうして分かるの?」


「分からない」


 俺は答えた。


「でも」


 少年を見る。


「俺が決める」


 少年が。


 初めて泣いた。


「……怖い」


「俺もだ」


「失敗したら?」


「その時は」


 俺は。


 ミラを見る。


「また考える」


 ミラが。


 小さく笑った。


「それでいいと思う」


 その瞬間。


 壁の文字が。


 全部消えた。


 そして。


 新しい一行が浮かぶ。


 ――第四候補を確認。


「……」


 -2番が。


 息を呑む。


「そんなものは」


 壁が続ける。


 ――候補四:レインが命名する人格。


 そして。


 最後に。


 ――命名権限:本人。


 俺は。


 少年を見る。


「名前」


 少年が。


 ゆっくり顔を上げる。


「……くれるの?」


「ああ」


 だが。


 その瞬間。


 地下のさらに奥から。


 別の声が響いた。


『――それはやめろ。』


 今まで聞いたことのない声。


 低く。


 冷たい。


 そして。


 どこか。


 俺自身に似ていた。


『その名前を与えた瞬間――』


 声が。


 笑った。


『お前は、本当の七人目になる。』

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