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勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


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53/120

第53話 -2番

「俺が入れた」


 -2番は。


 そう言った。


 俺は。


 しばらく言葉が出なかった。


「……お前が?」


「ああ」


「俺の中に?」


「ああ」


「いつ?」


「五十年前」


 胸の奥が。


 ドクン。


 もう一つの鼓動が鳴る。


「……だったら」


 俺は胸を押さえた。


「お前が、俺を二十八年後に起こしたのか?」


「違う」


 即答だった。


「起こしたのは俺じゃない」


「じゃあ誰だ?」


「それを知っているのは」


 -2番が。


 俺を見る。


「お前自身だ」


「……またそれか」


 思わず舌打ちした。


「どうして誰も俺に教えない?」


「教えられないんだ」


「同じ意味だろ」


「違う」


 -2番は首を振った。


「お前が思い出すまで、答えが存在しない」


「……?」


「五十年前のお前が」


 -2番は言った。


「自分で答えを消した」


 三十三番が。


 静かに口を開く。


「-2番」


「久しぶりだな、33」


「お前は死んだはずだ」


「そうだな」


「記録にもある」


「記録なら」


 -2番が笑う。


「俺が一番信用していないものだ」


 ミラが小声で言った。


「この人たち、死んだ人が多すぎない?」


「俺もそう思う」


 思わず答えた。


 -2番がこちらを見る。


「お前たち」


「ん?」


「本当に似てないな」


「何が?」


「五十年前の二人は」


 -2番が俺とミラを交互に見る。


「こんなふうに笑わなかった」


 俺は。


 少し黙った。


「……五十年前の俺は、どんな奴だった?」


 -2番は。


 すぐには答えなかった。


「質問するか?」


「何?」


「答えは一つしかやれない」


「またか」


「この場所ではな」


 俺はため息をついた。


「じゃあいい」


「聞かないのか?」


「自分で見つける」


 -2番が。


 少し驚いた顔をした。


 そして。


 笑った。


「そうか」


「何だ?」


「それが今のお前か」


 -2番が胸元を指す。


「五十年前には、そんな選び方をしなかった」


「……」


「昔のお前は」


 彼は言った。


「答えを先に欲しがった」


 俺は黙る。


「だから」


 -2番が続ける。


「自分の人生まで、他人に決めてもらおうとした」


「……俺が?」


「ああ」


「どうして?」


「怖かったからだ」


 また。


 その言葉。


 怖かった。


 五十年前の俺が。


 何を恐れていたのか。


 さっきの記録では。


 俺自身。


 正確には。


 俺の中にいる「もう一人」。


「じゃあ」


 俺は聞く。


「二つ目の鼓動は、そのためか?」


「違う」


「じゃあ何だ?」


「お前が」


 -2番が。


 ゆっくり近づいてくる。


「最後に自分で選ぶためだ」


「……何を?」


「生きるか」


 -2番が。


 俺の胸を指す。


「死ぬか」


 そして。


「誰として生きるか」


 俺は。


 息を呑んだ。


 その瞬間。


 胸の奥で。


 ドクン。


 二つ目の鼓動が強く鳴った。


 視界が。


 一瞬だけ暗くなる。


 そして。


 声が聞こえた。


『――レイン』


 俺の声。


 だが。


 俺ではない。


『まだ、選ぶな』


「……誰だ?」


 -2番が。


 初めて顔色を変えた。


「聞こえたか?」


「ああ」


「何と言った?」


「まだ選ぶな」


 -2番が。


 目を閉じる。


「……そうか」


「知ってるのか?」


「知っている」


「誰だ?」


 -2番は答えない。


 代わりに。


 俺の胸を見た。


「そいつは」


 低い声。


「五十年前から、お前の中にいる」


 俺の身体が。


 固まった。


「……アルド?」


「違う」


「じゃあ誰だ?」


「アルドより前」


「……?」


「レインより前」


 -2番が言う。


「三十二番より前だ」


 その瞬間。


 壁に文字が浮かんだ。


 ――原初人格:反応。


 ミラが息を呑む。


「原初……人格?」


 三十三番が。


 呟いた。


「そんな記録は存在しない」


「いや」


 -2番が否定する。


「存在していた」


「なら、なぜ記録がない?」


「消されたからだ」


「誰に?」


 -2番が。


 俺を見る。


「お前に」


「……俺?」


「ああ」


 壁の文字が変わる。


 ――原初人格:削除済み。


 ――削除者:三十二番。


 俺は。


 自分の手を見る。


「俺が……消した?」


「五十年前のお前がな」


「なぜ?」


 -2番は。


 静かに答えた。


「そいつが」


 一拍。


「お前を殺そうとしたからだ」


「……!」


 少年が。


 暗闇の中で。


 突然笑った。


「違う」


 全員が振り返る。


 少年は。


 赤い目で俺を見ていた。


「殺そうとしたんじゃない」


「じゃあ?」


 少年が。


 小さく首を傾げる。


「お前と一緒になろうとしたんだよ。」


 ドクン。


 胸の奥で。


 二つ目の鼓動が。


 今までで一番強く鳴った。


 そして。


 壁に新しい文字が浮かぶ。


 ――人格融合まで、残り一段階。


 その下。


 ――融合対象:三十二番。


 さらに。


 赤い文字。


 ――融合開始条件:レインの死亡。


 ミラが。


 俺の腕を掴んだ。


「レイン……」


 俺は。


 ゆっくり笑った。


「……なるほど」


「何が?」


「ようやく分かった」


 俺は胸を押さえる。


「こいつらが」


 一拍。


「俺を殺したがってる理由がな」

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