第53話 -2番
「俺が入れた」
-2番は。
そう言った。
俺は。
しばらく言葉が出なかった。
「……お前が?」
「ああ」
「俺の中に?」
「ああ」
「いつ?」
「五十年前」
胸の奥が。
ドクン。
もう一つの鼓動が鳴る。
「……だったら」
俺は胸を押さえた。
「お前が、俺を二十八年後に起こしたのか?」
「違う」
即答だった。
「起こしたのは俺じゃない」
「じゃあ誰だ?」
「それを知っているのは」
-2番が。
俺を見る。
「お前自身だ」
「……またそれか」
思わず舌打ちした。
「どうして誰も俺に教えない?」
「教えられないんだ」
「同じ意味だろ」
「違う」
-2番は首を振った。
「お前が思い出すまで、答えが存在しない」
「……?」
「五十年前のお前が」
-2番は言った。
「自分で答えを消した」
三十三番が。
静かに口を開く。
「-2番」
「久しぶりだな、33」
「お前は死んだはずだ」
「そうだな」
「記録にもある」
「記録なら」
-2番が笑う。
「俺が一番信用していないものだ」
ミラが小声で言った。
「この人たち、死んだ人が多すぎない?」
「俺もそう思う」
思わず答えた。
-2番がこちらを見る。
「お前たち」
「ん?」
「本当に似てないな」
「何が?」
「五十年前の二人は」
-2番が俺とミラを交互に見る。
「こんなふうに笑わなかった」
俺は。
少し黙った。
「……五十年前の俺は、どんな奴だった?」
-2番は。
すぐには答えなかった。
「質問するか?」
「何?」
「答えは一つしかやれない」
「またか」
「この場所ではな」
俺はため息をついた。
「じゃあいい」
「聞かないのか?」
「自分で見つける」
-2番が。
少し驚いた顔をした。
そして。
笑った。
「そうか」
「何だ?」
「それが今のお前か」
-2番が胸元を指す。
「五十年前には、そんな選び方をしなかった」
「……」
「昔のお前は」
彼は言った。
「答えを先に欲しがった」
俺は黙る。
「だから」
-2番が続ける。
「自分の人生まで、他人に決めてもらおうとした」
「……俺が?」
「ああ」
「どうして?」
「怖かったからだ」
また。
その言葉。
怖かった。
五十年前の俺が。
何を恐れていたのか。
さっきの記録では。
俺自身。
正確には。
俺の中にいる「もう一人」。
「じゃあ」
俺は聞く。
「二つ目の鼓動は、そのためか?」
「違う」
「じゃあ何だ?」
「お前が」
-2番が。
ゆっくり近づいてくる。
「最後に自分で選ぶためだ」
「……何を?」
「生きるか」
-2番が。
俺の胸を指す。
「死ぬか」
そして。
「誰として生きるか」
俺は。
息を呑んだ。
その瞬間。
胸の奥で。
ドクン。
二つ目の鼓動が強く鳴った。
視界が。
一瞬だけ暗くなる。
そして。
声が聞こえた。
『――レイン』
俺の声。
だが。
俺ではない。
『まだ、選ぶな』
「……誰だ?」
-2番が。
初めて顔色を変えた。
「聞こえたか?」
「ああ」
「何と言った?」
「まだ選ぶな」
-2番が。
目を閉じる。
「……そうか」
「知ってるのか?」
「知っている」
「誰だ?」
-2番は答えない。
代わりに。
俺の胸を見た。
「そいつは」
低い声。
「五十年前から、お前の中にいる」
俺の身体が。
固まった。
「……アルド?」
「違う」
「じゃあ誰だ?」
「アルドより前」
「……?」
「レインより前」
-2番が言う。
「三十二番より前だ」
その瞬間。
壁に文字が浮かんだ。
――原初人格:反応。
ミラが息を呑む。
「原初……人格?」
三十三番が。
呟いた。
「そんな記録は存在しない」
「いや」
-2番が否定する。
「存在していた」
「なら、なぜ記録がない?」
「消されたからだ」
「誰に?」
-2番が。
俺を見る。
「お前に」
「……俺?」
「ああ」
壁の文字が変わる。
――原初人格:削除済み。
――削除者:三十二番。
俺は。
自分の手を見る。
「俺が……消した?」
「五十年前のお前がな」
「なぜ?」
-2番は。
静かに答えた。
「そいつが」
一拍。
「お前を殺そうとしたからだ」
「……!」
少年が。
暗闇の中で。
突然笑った。
「違う」
全員が振り返る。
少年は。
赤い目で俺を見ていた。
「殺そうとしたんじゃない」
「じゃあ?」
少年が。
小さく首を傾げる。
「お前と一緒になろうとしたんだよ。」
ドクン。
胸の奥で。
二つ目の鼓動が。
今までで一番強く鳴った。
そして。
壁に新しい文字が浮かぶ。
――人格融合まで、残り一段階。
その下。
――融合対象:三十二番。
さらに。
赤い文字。
――融合開始条件:レインの死亡。
ミラが。
俺の腕を掴んだ。
「レイン……」
俺は。
ゆっくり笑った。
「……なるほど」
「何が?」
「ようやく分かった」
俺は胸を押さえる。
「こいつらが」
一拍。
「俺を殺したがってる理由がな」




