第52話 レイン自身
ドクン。
胸の奥で。
もう一度。
心臓が鳴った。
「……!」
俺は胸を押さえる。
一つ。
今まで通りの鼓動。
そして。
もう一つ。
少し遅れて。
ドクン。
ミラが顔を青くした。
「レイン……」
「聞こえるか?」
「うん」
「二つ?」
「……うん」
三十三番が。
俺から一歩離れた。
「まずい」
「何が?」
「二つ目が戻った」
「二つ目って」
ミラが聞く。
「02の起動核じゃないの?」
三十三番は首を振る。
「違う」
「じゃあ何?」
「02が持っていたものは」
三十三番が。
俺の胸を見る。
「元々、お前の中にあったものだ」
「……」
胸が。
また鳴る。
ドクン。
ドクン。
今度は。
二つの鼓動が。
同じ速さになった。
その瞬間。
地下の壁に文字が浮かんだ。
――第二人格核:起動。
「人格核……?」
俺が呟く。
続いて。
――候補三:接続。
少年が。
笑った。
「やっとだ」
「お前が?」
「違う」
少年は首を振る。
「俺じゃない」
「じゃあ誰だ?」
「俺より古い」
少年の笑顔が消えた。
「ずっと、お前の中にいた」
俺の胸が。
ズキッと痛む。
「……!」
膝をつく。
「レイン!」
ミラが支える。
視界が歪む。
雪。
また雪だ。
五十年前。
俺は雪の中にいる。
でも。
今回は。
俺一人じゃない。
隣に誰かいる。
顔は見えない。
声だけ。
『寒いか?』
「……少し」
俺の声。
幼い。
『名前は?』
「レイン」
『違う』
「……?」
『それは、今の名前だ』
声の主が。
俺の頭に手を置く。
『本当の名前を言え』
俺は。
答えられない。
すると。
『そうか』
声が笑う。
『まだ知らないんだな』
映像が切り替わる。
今度は。
大人の俺。
五十年前の俺。
そして。
目の前に。
アルド。
『お前の中には』
アルドが言う。
『もう一人いる』
「誰?」
『俺だ』
「……」
『ただし』
アルドが首を振る。
『俺そのものじゃない』
映像が。
途切れる。
また別の場面。
-1番。
アルド。
そして俺。
『こいつを残す』
アルドが言う。
『なぜ?』
-1番が聞く。
『俺が死んだあと』
アルドが答える。
『こいつが必要になる』
『何に?』
『俺を殺すために』
「……」
俺は息を呑んだ。
そして。
最後の映像。
俺自身が。
何かを抱えている。
小さな光。
心臓のような。
赤い光。
俺が言う。
『これを、俺の中に入れてくれ』
-1番が驚く。
『それを入れたら、お前は――』
『分かってる』
『戻れなくなる』
『それでいい』
映像が。
消える。
俺は。
現実に戻った。
「……」
息が荒い。
ミラが。
俺の肩を掴む。
「何を見たの?」
「……分からない」
「また?」
「ああ」
三十三番が。
静かに聞いた。
「赤い核を見たか?」
「……」
「見た」
三十三番は目を閉じた。
「やっぱりか」
「知ってるのか?」
「ああ」
「何なんだ?」
三十三番は。
すぐには答えなかった。
「それを知ると」
「……」
「お前は」
彼が言う。
「自分がなぜアルドを殺すよう命令したのかを知る」
俺は。
息を止めた。
「じゃあ教えろ」
「まだだ」
「なぜ?」
「お前自身が思い出さなければ意味がない」
「……」
俺は苛立った。
「またそれか」
「そうだ」
三十三番は。
珍しく俺の目を真っ直ぐ見る。
「お前は五十年前」
一拍。
「自分の記憶を、自分で封じた」
「……」
「俺たちが奪ったんじゃない」
「じゃあ」
俺は胸を押さえる。
「この二つ目は」
三十三番が答える。
「お前が封じた記憶を守っている」
「……記憶を?」
「いや」
首を振る。
「記憶じゃない」
地下の奥で。
何かが動いた。
「じゃあ何だ?」
三十三番が。
低い声で言った。
「お前が最後まで捨てなかったものだ。」
その瞬間。
地下の奥から。
足音がした。
一歩。
二歩。
三歩。
そして。
暗闇から。
一人の男が現れる。
黒い服。
左目に傷。
見覚えのある顔。
三十一番。
だが。
おかしい。
三十一番は。
俺たちの前にいるはずがない。
なぜなら。
俺の記憶では。
三十一番は――
五十年前に。
死んでいる。
男が笑った。
「ようやく起きたか」
俺は。
思わず後ずさった。
「……三十一番?」
男は首を振った。
「違う」
そして。
胸元を開く。
そこには。
番号があった。
-2
「俺は」
男が言う。
「お前がまだ知らない番号だ」
そして。
俺の胸を見て。
笑った。
「その二つ目の鼓動――」
一拍。
「俺が入れた」




