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勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


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51/120

第51話 1問だけ

「質問は一つだけ」


 その言葉が。


 妙に重かった。


 五十年前の俺が。


 目の前にいる。


 同じ顔。


 同じ声。


 けれど。


 目が違う。


 こいつの目には。


 俺が知らない五十年がある。


「……一つだけ?」


「ああ」


「何を聞いてもいいのか?」


「いい」


「嘘は?」


「つかない」


「本当か?」


「この記録室ではな」


 俺は三十三番を見る。


「こいつを信じていいのか?」


「判断するのはお前だ」


「役に立たないな」


「いつものことだ」


 ミラが小さく笑った。


「三十三番、開き直ってない?」


「事実だ」


「そこ威張るところじゃないよ」


 少しだけ。


 空気が緩んだ。


 だが。


 壁の文字は消えない。


 ――質問権:一回。


 俺は考える。


 聞きたいことは。


 いくらでもある。


 アルドを殺した理由。


 自分を殺した理由。


 二十八年後に起こせと言った理由。


 少年は誰なのか。


 三十二番とは何なのか。


 七人目とは何なのか。


 魔王は本当に生きているのか。


 全部。


 知りたい。


 でも。


 一つしかない。


「……」


 俺は目を閉じた。


 そして。


 一番最初に浮かんだ質問を捨てる。


 次も。


 捨てる。


 その次も。


 捨てる。


 やがて。


 一つだけ残った。


 目を開く。


「決めた」


 五十年前の俺が頷く。


「聞け」


 俺は。


 自分自身を見る。


「お前は――」


 そこで。


 言葉が止まった。


 ミラが俺を見る。


「レイン?」


「……」


 質問を。


 変えた。


「お前が五十年前に、一番怖かったものは何だ?」


 五十年前の俺の目が。


 初めて揺れた。


「……」


 長い沈黙。


 やがて。


 そいつが笑う。


「そう聞くか」


「ああ」


「どうして?」


「理由が知りたい」


「何の?」


「俺が自分を殺した理由」


 五十年前の俺は。


 少しだけ俯いた。


「……怖かったもの」


 彼が呟く。


「それは」


 顔を上げる。


「死じゃない」


「……」


「アルドでもない」


「……」


「魔王でもない」


 そして。


 俺を指差した。


「お前だ」


「……俺?」


「ああ」


 胸の奥が。


 冷たくなる。


「俺が?」


「そう」


「どうして?」


「質問は一つだけだ」


「……」


「今のは二つ目だ」


「……」


 ミラが。


 小声で言った。


「それはずるい……」


 五十年前の俺は。


 苦笑した。


「そういうところも」


 そして。


「昔の俺と同じだ」


 壁に文字が浮かぶ。


 ――回答完了。


 ――質問権を消費。


「待て」


 俺は壁に手を伸ばす。


「まだ何も分かってない」


 だが。


 文字は消えない。


 五十年前の俺も。


 少しずつ薄れていく。


「おい!」


「これで十分だ」


「何が?」


「お前は」


 彼が笑う。


「俺が何を恐れたのかを知った」


「それだけじゃ――」


「それでいい」


 姿が消えていく。


 最後に。


 彼は言った。


「お前は」


 一瞬。


「俺より強い」


「……」


「だから」


 最後の言葉。


「今度は、自分を殺すな」


 光が消えた。


 静寂。


 俺は。


 しばらく動けなかった。


「……レイン」


 ミラが。


 そっと声をかける。


「大丈夫?」


「ああ」


「怖くない?」


「……分からない」


「そっか」


 ミラが隣に立つ。


 そのとき。


 床に。


 一枚の紙が落ちた。


 俺は拾う。


 そこには。


 五十年前の俺の字。


 ――俺が一番怖かったのは、レインではない。


「……?」


 続きがある。


 ――レインの中にいる、もう一人だ。


 俺は。


 ゆっくり顔を上げる。


 少年が。


 暗闇の中に立っていた。


 赤い目。


 無表情。


「……俺の中に?」


 少年は頷く。


「うん」


「もう一人って誰だ?」


「まだ起きてない」


「……」


 少年が笑う。


「でも」


 一歩。


 こちらへ近づく。


「もうすぐ起きる」


 その瞬間。


 俺の胸が。


 一度だけ。


 ドクン。


 と鳴った。


「……!」


 二つ目の鼓動。


 止まったはずの。


 あの鼓動。


 もう一度。


 ドクン。


 少年が。


 嬉しそうに笑う。


「起きた」


 地下の奥で。


 何かが。


 ゆっくり目を開いた。

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