↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
47/120

第47話 二人目

「俺の名前を」


 暗闇の中から。


 少年の声が響いた。


 赤い目だけが。


 こちらを見ている。


「……」


 俺は立ち上がった。


 ミラが俺の袖を掴む。


「レイン」


「大丈夫だ」


「本当に?」


「……たぶん」


「たぶんって言った」


「俺だって万能じゃない」


「そこは威張らないでよ」


 こんな状況なのに。


 少しだけ笑ってしまった。


 だが。


 少年は笑っていなかった。


「名前をくれ」


 もう一度。


 そう言った。


「……どうしてそんなに名前が欲しい?」


「名前がないと」


 少年は胸に手を当てる。


「俺は、いつまでも『候補三』だから」


「それが嫌なのか?」


「違う」


 少年は首を振る。


「怖いんだ」


「何が?」


「名前がないままだと」


 少年の声が震えた。


「俺が消えても、誰も気づかない」


「……」


 その言葉に。


 俺は返事ができなかった。


 三十三番が。


 静かに口を開く。


「それが、二人目だ」


「三十三番?」


「候補三は人格ではない」


「じゃあ何だ?」


「人格になる前の存在だ」


「……」


「まだ何者にもなっていない」


 三十三番が少年を見る。


「だから名前が必要なんだ」


 少年が頷く。


「名前をもらえば」


 少年は俺を見る。


「俺は、俺になれる」


 俺は黙った。


 名前。


 そんなもの。


 ただの呼び方だと思っていた。


 けれど。


 この場所では違う。


 名前が。


 人格を決める。


 名前が。


 存在を固定する。


 そして。


 名前を与えた瞬間。


 俺が選んだことになる。


「……俺には」


 俺は少年を見る。


「お前に名前をつける資格があるのか?」


「ある」


 即答だった。


「どうして?」


「だって」


 少年は笑う。


「お前が俺を作ったから」


「……」


 また。


 その言葉。


 俺が作った。


 俺が選んだ。


 俺が殺した。


 俺が生かした。


 この物語では。


 何度も俺自身が原因にされている。


 でも。


「俺は」


 俺は少年を見る。


「お前を作った覚えがない」


「うん」


「名前もつけてない」


「うん」


「殺した覚えもない」


「……うん」


 少年は少しだけ笑った。


「だから」


「だから?」


「お前はまだ、本当のことを知らない」


 その瞬間。


 壁が光った。


 ――記録を再生します。


 俺の背後に。


 一つの映像が浮かぶ。


 五十年前。


 白い部屋。


 少年の俺が。


 椅子に座っている。


 その前に。


 アルド。


 そして。


 -1番。


「また……」


 ミラが呟く。


 アルドが。


 少年の俺に何かを渡していた。


 小さな金属片。


 刻印は。


 ――32。


「これを持っていろ」


 アルドが言う。


「これは何?」


「お前の名前じゃない」


「じゃあ何?」


「お前が名前を持たないための印だ」


 少年の俺が首を傾げる。


「どうして?」


 アルドは。


 少しだけ悲しそうに笑った。


「名前をつけたら」


 アルドは言う。


「お前は俺の代わりになる」


「……」


「それだけは駄目だ」


 俺は息を止めた。


 アルドが。


 少年の俺の頭に手を置く。


「お前は俺じゃない」


「うん」


「勇者でもない」


「うん」


「俺の人生を継がなくていい」


 少年が頷く。


 すると。


 アルドが。


 小さな声で続けた。


「だから」


 ――名前を持たないでくれ。


 映像が止まった。


「……」


 俺は動けなかった。


 少年が。


 俺を見る。


「分かった?」


「……何が?」


「俺が名前を欲しがる理由」


 少年は笑った。


「五十年前」


 その目が赤く光る。


「俺は名前をもらえなかった」


「……」


「だから今度は」


 一歩。


 こちらへ近づく。


「お前から欲しい」


「でも」


 俺は言う。


「アルドは名前を持つなと言った」


「うん」


「だったら――」


 少年が遮る。


「それは五十年前のお前に言ったこと」


「……」


「今のお前には」


 少年が。


 自分の胸を指す。


「別の約束がある」


「別の約束?」


 少年は頷く。


「二十八年後に起こしてくれ」


「……!」


 俺の記憶が。


 一瞬だけ揺れた。


 そうだ。


 確かに。


 五十年前の俺は言った。


 ――二十八年後に起こしてくれ。


 なぜ?


 誰に?


 何のために?


 その答えが。


 少しだけ見えた。


「お前を起こしたのは」


 俺は少年を見る。


「……誰だ?」


 少年は答えなかった。


 代わりに。


 俺の後ろを見る。


「そいつ」


 振り返る。


 誰もいない。


 だが。


 床に。


 新しい足跡があった。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 そして。


 四つ目。


 今までなかった。


 大人の足跡。


 その先に。


 白い杖が落ちている。


「……-1番」


 ミラが呟く。


 だが。


 -1番の姿はない。


 杖の横には。


 一枚の紙。


 俺は拾う。


 そこには。


 たった一行。


 ――名前をつけるな。


 そして。


 その下に。


 別の筆跡で。


 ――名前をつけろ。


 二つの文字が。


 重なっていた。


「……」


 俺は紙を見つめる。


 どちらも。


 俺には見覚えのある字だった。


 その瞬間。


 少年が笑った。


「さあ」


 赤い目が。


 俺を見つめる。


「どっちの俺を信じる?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。