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勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


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46/120

第46話 33

「同じ場所?」


 三十三番の言葉が。


 地下室に落ちた。


 俺は手の中の金属板を見る。


 ――33。


「どういう意味だ?」


「その板を置け」


「答えろ」


「置け」


 三十三番が珍しく。


 強い声を出した。


 ミラが俺の前に出る。


「ちょっと」


「ミラ、下がって」


「でも――」


「大丈夫」


 俺は三十三番を見る。


「俺はこれを拾った」


「ああ」


「もう手遅れなんだろ?」


「……」


 三十三番は答えない。


「だったら話せ」


 沈黙。


 やがて。


 三十三番が息を吐いた。


「三十三番は」


 自分の胸元を指す。


「番号じゃない」


「……?」


「役割だ」


 俺は眉をひそめる。


「三十二番も?」


「ああ」


「じゃあ三十三番ってのは何の役割だ?」


 三十三番が答える。


「記録を消す役割だ」


 ミラが目を見開いた。


「消す?」


「記憶ではない」


 三十三番は首を振る。


「記録だ」


「何が違う?」


「記憶は本人の中にある」


「……」


「記録は、世界に残る」


 三十三番が壁を見る。


「俺は五十年前から」


 その声は。


 どこか疲れていた。


「世界に残った記録を消してきた」


「俺の記録も?」


「ああ」


「なぜ?」


「お前が生きるためだ」


 また。


 その言葉。


「俺が生きるためなら」


 俺は金属板を握る。


「どうして五十年前の俺を消した?」


 三十三番の表情が変わった。


「……」


「答えろ」


「消していない」


「え?」


「お前の記録は」


 三十三番が言う。


「消したんじゃない」


「じゃあ?」


「二つに分けた」


「……」


 俺は言葉を失った。


「一つは」


 三十三番が続ける。


「今のお前」


「そしてもう一つは」


 地下の奥を見る。


「五十年前のお前」


 ミラが呟く。


「二人のレイン……?」


「違う」


 三十三番が即座に否定した。


「二人ともレインだ」


「じゃあ何が違うの?」


「生きた時間が違う」


 三十三番は俺を見る。


「今のお前は二十八年しか生きていない」


「……」


「だが」


 その声が低くなる。


「もう一人は五十年分の死を持っている」


 背筋が。


 冷たくなった。


「死を……持つ?」


「そうだ」


「どういう意味だ?」


「お前は死んだ」


「俺は生きてる」


「今のお前はな」


 その言葉に。


 俺は黙った。


 五十年前。


 俺は死んだ。


 二十八年前。


 俺は起きた。


 その間に。


 何があった?


「じゃあ」


 俺は金属板を見る。


「この33は?」


 三十三番が答える。


「お前の二つ目の記録を開く鍵だ」


「……」


「だから拾うなと言った」


「開いたらどうなる?」


 三十三番は。


 しばらく黙った。


「五十年前のレインが」


 そして。


「今のレインを見る」


「……?」


「そして」


 さらに声を落とす。


「今のレインも、五十年前のレインを見る」


 ミラが不安そうに俺を見る。


「それって……」


「ああ」


 三十三番が言う。


「互いに、自分が本物だと思う」


 地下室の空気が。


 重くなった。


「……馬鹿らしい」


 俺は言った。


「俺は俺だ」


「そう思っていられるうちにな」


 三十三番が答える。


 その瞬間。


 手の中の金属板が。


 熱くなった。


「……っ!」


 光が走る。


 ――33:記録接続。


「待て!」


 三十三番が叫ぶ。


 遅かった。


 視界が白くなる。


 音が消える。


 そして。


 俺は。


 雪原に立っていた。


「……」


 五十年前の雪。


 冷たい風。


 見覚えがある。


 目の前に。


 アルドがいる。


「……アルド」


 だが。


 アルドは俺を見ていない。


 その視線の先。


 そこには。


 もう一人の俺がいた。


 少年ではない。


 今の俺と。


 ほとんど同じ年齢。


 同じ顔。


 同じ身体。


 ただし。


 目だけが違う。


 死んだような目。


 そいつが。


 アルドに言う。


「もう時間だ」


 アルドが頷く。


「分かった」


「本当に殺すのか?」


「俺が死ななければ」


 アルドが答える。


「こいつは生きられない」


 もう一人の俺が。


 俺を指差した。


「こいつを?」


 アルドが首を振る。


「違う」


「じゃあ誰を?」


「俺自身を」


「……」


 アルドが笑った。


「俺を殺すのは」


 その手に。


 剣が握られる。


「レインだ」


 俺は息を呑んだ。


「違う」


 思わず声が出る。


「俺は殺してない」


 だが。


 映像の中の俺が。


 アルドの前に立つ。


 剣を受け取る。


 そして。


 俺の方を向いた。


 まるで。


 今の俺を見ているように。


「――お前は、まだ知らなくていい」


「……!」


 そいつが笑った。


「俺が全部背負う」


 映像が崩れる。


 最後に。


 俺の耳元で。


 自分自身の声が聞こえた。


『だから、お前には――』


 一瞬。


 視界が暗くなる。


『俺の名前を渡さなかった』


 ――そこで。


 現実に戻った。


「レイン!」


 ミラの声。


 俺は床に膝をついていた。


「大丈夫!?」


「ああ……」


 息が苦しい。


 だが。


 手の中の金属板を見る。


 33の刻印が。


 消えていた。


 代わりに。


 新しい文字が刻まれている。


 ――記録接続完了。


 その下。


 ――対象:レイン。


 さらに。


 ――二人目:確認。


 俺は顔を上げた。


「……二人目」


 その瞬間。


 地下の奥から。


 少年の声がした。


『やっと見つけた』


 俺は振り返る。


 暗闇の中。


 赤い目が。


 二つ。


 こちらを見ていた。


『俺の名前を』


 少年が笑う。


『決めてくれるんだろ?』

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