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勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


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43/120

第43話 第2段階

地下の奥で。


 何かが動いた。


 ゴゴゴゴ……。


 低い音が。


 床の下から響いてくる。


「……またかよ」


 俺は思わず呟いた。


 ミラが苦笑する。


「最近、地下から何か出てくるの多くない?」


「多いな」


「慣れてきた?」


「全然」


「だよね」


 だが。


 一番たちは笑っていなかった。


 零番が壁を見つめる。


「第二段階……」


「知ってるのか?」


 俺が聞く。


「知らない」


「……」


「正確には」


 零番が続ける。


「存在を知っているだけだ」


「じゃあ何が起きる?」


「分からない」


「また……」


 ミラがため息をつく。


「この世界、分からない人多すぎない?」


 俺も同意したかった。


 そのとき。


 床に。


 細い亀裂が走った。


 ――パキッ。


 亀裂が広がる。


 そして。


 地下から。


 白い煙が噴き出した。


「下がれ!」


 一番が叫ぶ。


 全員が距離を取る。


 煙の中から。


 何かが浮かび上がった。


 小さな金属板。


 ゆっくり。


 俺の前まで飛んでくる。


 俺が受け取る。


「……何だ?」


 表には。


 数字が一つ。


 32


 裏には。


 文字。


 ――第二段階:人格選択


「人格選択?」


 三十二号が反応した。


「……」


「知ってるのか?」


「知らない」


「お前でも?」


「ああ」


 三十二号は金属板を見る。


「だが」


「何?」


「嫌な予感がする」


 俺も同じだった。


 そのとき。


 金属板が熱くなった。


「熱っ!」


 俺は落としかける。


 だが。


 指が離れない。


「レイン!」


 ミラが俺の手を掴む。


「離れない!」


 金属板が光る。


 視界が白くなる。


 ――そして。


 声が聞こえた。


『人格を選択してください』


「……?」


 無機質な声。


『候補、一』


 アルド。


『候補、二』


 レイン。


『候補、三』


 ――空白。


「三人目?」


 俺が呟く。


『選択してください』


「嫌だ」


『回答を受理できません』


「じゃあ勝手にしろ」


『人格選択を開始します』


「……話聞けよ」


 ミラが叫ぶ。


「レイン!」


 だが。


 もう遅かった。


 俺の身体から。


 何かが抜ける。


「――っ!」


 膝から崩れ落ちる。


 ミラが支える。


「レイン!」


「……大丈夫」


「顔、真っ青だよ!」


「……少し寒いだけ」


 だが。


 本当に寒い。


 身体の内側が。


 空っぽになっていく。


 そして。


 頭の中に。


 三つの声が流れ込んできた。


『俺はアルドだ』


『俺はレインだ』


『俺は――』


 三つ目だけ。


 名前がない。


「……」


 俺は目を閉じた。


「お前は誰だ?」


 問いかける。


 三つ目の声が。


 静かに答えた。


『まだ、名前をもらっていない』


「……」


『だから』


 声が続く。


『お前が決めろ』


「俺が?」


『そう』


「名前を?」


『ああ』


「……」


 俺は考える。


 だが。


 その瞬間。


 別の声が割り込んだ。


『選ぶな』


 アルドの声。


『絶対に選ぶな』


「……アルド?」


『そいつに名前を与えたら――』


 声が途切れる。


「何が起きる?」


『お前が』


 ノイズ。


『お前が――』


 そこで。


 完全に消えた。


「……」


 俺は目を開ける。


 ミラが俺を見ている。


「何があったの?」


「……」


「レイン?」


 俺は。


 答えようとして。


 口を閉じた。


 なぜなら。


 自分の中に。


 知らない感情があった。


 怒り。


 悲しみ。


 そして。


 妙な安心感。


 まるで。


 ずっと眠っていた誰かが。


 俺の中で目を覚ましたような。


「……俺の中に」


 俺は呟く。


「誰かいる」


 ミラの顔が強張る。


「誰?」


「分からない」


 俺は胸に手を当てる。


「でも」


 そこには。


 もう二つ目の鼓動はなかった。


 代わりに。


 声が一つ。


『――ありがとう』


「……」


 俺は振り返った。


 誰もいない。


 だが。


 床に。


 小さな足跡があった。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 子供の足跡。


 それが。


 地下のさらに奥へ続いている。


「……行くしかないな」


 ミラがため息をつく。


「うん」


「嫌なら待ってていい」


「嫌だけど行く」


「どっちだよ」


「レイン一人で行かせる方が嫌」


 俺は少し笑った。


「……ありがとう」


 俺たちは足跡を追った。


 その後ろで。


 誰にも見えない場所。


 床に刻まれた文字が。


 ゆっくり浮かび上がった。


 ――人格選択:保留


 その下。


 ――候補三:起動条件待機


 さらに。


 ――レイン本人による命名が必要


 そして最後に。


 小さく。


 ――命名後、第二段階を完了する。


 地下深く。


 まだ誰にも名前を与えられていない「何か」が。


 静かに。


 レインを待っていた。

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