第41話 アルド本人
――コン。
墓の下から。
もう一度。
音がした。
――コン。
「……」
誰も動かない。
俺だけが。
その音を聞いていた。
「レイン」
ミラが小声で呼ぶ。
「聞こえる?」
「ああ」
「何の音?」
「分からない」
俺は墓石に手を置いた。
冷たい。
だが。
その奥には。
何かがいる。
そんな感覚があった。
――コン。
三度目。
今度は。
墓石そのものが震えた。
「下がれ!」
一番が叫ぶ。
俺は反射的に後ろへ下がった。
直後。
墓石に亀裂が走る。
パキッ。
「……!」
亀裂が広がる。
墓石が左右に割れた。
その下から。
階段が現れた。
「また地下……」
ミラが呟く。
「どこまで地下があるんだよ……」
三十一番が階段を覗き込む。
「深い」
三十三番が言う。
「何かある」
零番は動かなかった。
「零番?」
「……ここは知らない」
「え?」
「私が作った場所ではない」
その言葉に。
全員が黙る。
「じゃあ誰が?」
零番は答えない。
俺は階段を見る。
下から。
冷たい風が吹いてくる。
「行く」
ミラが俺の腕を掴む。
「一人で行かないで」
「分かってる」
「絶対?」
「絶対」
「……よし」
俺たちは階段を降りた。
一番。
二番。
三番。
地下へ進む。
壁には古い文字がある。
――死者は眠らせる。
その下。
――記憶は残す。
さらに。
――人格は捨てる。
俺は足を止めた。
「人格を捨てる?」
三十二号が壁を見る。
「俺のことかもしれない」
「……」
さらに進む。
やがて。
大きな部屋に出た。
中央に。
一つの棺がある。
黒い石でできている。
蓋には。
名前が刻まれていた。
――ALD
「アルド……」
ミラが息を呑む。
俺は棺に近づいた。
だが。
触れる前に。
「待て」
一番が止めた。
「何?」
「それは本当に棺なのか?」
「……?」
よく見る。
確かに棺に見える。
だが。
違う。
蓋に継ぎ目がない。
開く構造ではない。
そして。
側面に文字がある。
――記録保管容器
「棺じゃない」
三十一番が呟く。
「記録を保存するためのものだ」
俺は息を吐いた。
「じゃあ、中には何が?」
零番が答えた。
「記憶だ」
「アルドの?」
「おそらく」
その瞬間。
棺から声がした。
『違う』
俺は凍りついた。
「……」
『これは、アルドの記憶ではない』
声。
聞き覚えがある。
俺自身の声。
だが。
少し幼い。
『これは――』
棺が開いた。
中に。
一冊の本があった。
表紙には。
レイン
その下。
初回記録
「……」
俺は本を手に取った。
一ページ目。
――五十年前。
次。
――対象、死亡。
次。
――対象、自己殺害。
次。
――アルド殺害記録、虚偽。
「……!」
俺はページをめくる。
――対象はアルドを殺していない。
その下。
――対象はアルドを救った。
「救った?」
俺は息を呑む。
次のページ。
――ただし、救った結果として――
文字が途切れている。
「……何だよ」
次のページは。
真っ白だった。
俺はさらにめくる。
真っ白。
また。
真っ白。
「記録がない?」
三十三番が言う。
「違う」
俺は首を振る。
「書かれてる」
「え?」
俺はページを見る。
肉眼では。
何もない。
だが。
胸の奥で。
かすかな鼓動が鳴った。
ドクン。
その瞬間。
白いページに文字が浮かんだ。
――記録閲覧者:レイン
「……」
続いて。
――閲覧資格:本人
そして。
最後に。
――閲覧条件:二人目の起動
俺は息を呑んだ。
「……」
二番が俺を見る。
「始まった」
「何が?」
「お前が読むんだ」
「何を?」
「五十年前の最後の日を」
俺の指が。
勝手にページをめくった。
そこに。
一枚の絵が描かれていた。
雪原。
倒れているアルド。
その隣に。
五十年前の俺。
そして。
その後ろに。
もう一人。
「……誰だ?」
俺は目を細める。
その人物には。
顔がなかった。
ただ。
胸に数字だけが刻まれている。
-1
俺は息を呑んだ。
「マイナス一番……」
老人の姿が。
脳裏に浮かぶ。
そして。
絵の中の-1番が。
こちらを向いた。
まるで。
絵の中から。
俺を見ているように。
次の瞬間。
ページに文字が浮かんだ。
――アルドを殺したのは、-1番。
俺は息を止めた。
だが。
そのすぐ下に。
もう一行。
――ただし、殺すよう命令したのは――レイン。
俺の手から。
本が落ちた。




