第40話 アルドが作った
ドクン。
最後に一度だけ。
胸の奥で鳴った。
そして。
――止まった。
「……」
俺は胸を押さえた。
痛みはない。
苦しくもない。
ただ。
何かが消えたような感覚だけがある。
「レイン!」
ミラが俺の肩を掴む。
「大丈夫?」
「……たぶん」
「心臓は?」
「普通に動いてる」
ドク。
ドク。
いつもの鼓動。
「じゃあ、二つ目は?」
「……分からない」
二番が俺を見る。
「返ってきた」
「何が?」
「お前の中にあったもの」
俺は眉をひそめる。
「返ったって、どこに?」
二番は自分の胸を指す。
「俺の中へ」
「……」
俺は二番の胸を見る。
赤い光。
さっきまでとは違う。
少しだけ明るくなっている。
「じゃあ俺は普通に戻ったのか?」
「違う」
「何が?」
「お前の中には、まだ一つ残っている」
「……?」
二番が言う。
「『死』だ」
背筋が冷たくなった。
「死?」
「ああ」
「どういう意味だ?」
「俺には分からない」
「お前までか」
「俺は器だから」
二番は自分の胸を叩く。
「記憶がない」
「でも俺を知ってる」
「知識として残っている」
「誰の知識?」
二番は答えない。
その代わり。
「お前に一つ聞く」
「何だ?」
「アルドを信じているか?」
突然の質問だった。
「……分からない」
「なら」
二番が言った。
「まだ間に合う」
「何が?」
「アルドを殺した理由を思い出す前に」
「……」
二番が地面に手をつく。
すると。
森の中に巨大な円形の魔法陣が浮かび上がった。
「ここを開ける」
「何を?」
「最初の墓」
零番が叫ぶ。
「やめろ!」
二番は振り返らない。
「もう遅い」
地面が震える。
雪が浮き上がる。
木々が揺れる。
そして。
地面が左右に割れた。
地下へ続く階段。
古い石造り。
壁には。
数字が並んでいる。
-1
0
1
2
……
32
俺は目を疑った。
「全部……?」
三十一番が呟く。
「番号が全部ある」
三十三番が顔をしかめる。
「こんな場所……知らない」
一番が剣を収めた。
「私もだ」
零番だけが。
黙っている。
「零番」
俺が呼ぶ。
「何だ」
「知ってるんだろ?」
「……」
「ここは何だ?」
零番はしばらく黙っていた。
そして。
「墓だ」
「誰の?」
「全員の」
俺は言葉を失った。
「全員……?」
「ああ」
零番が階段を見る。
「ここにいる番号は」
一つ一つ指す。
「作られた者」
「……」
「死んだ者」
「……」
「そして」
零番が。
最後の数字を見る。
「まだ死んでいない者」
32
俺は息を呑んだ。
「三十二号?」
「いや」
零番が首を振る。
「今は違う」
「じゃあ誰だ?」
「お前だ」
俺は黙った。
ミラが小さく息を吐く。
「またレイン……」
「俺もそう思う」
俺たちは階段を降りた。
一段。
二段。
三段。
地下へ。
空気が変わる。
冷たい。
そして。
古い血の臭いがする。
「……」
最下層。
そこには。
墓石が並んでいた。
番号だけ。
名前はない。
-1。
0。
1。
2。
……
31。
32。
そして。
その奥に。
一つだけ。
数字が刻まれていない墓石があった。
「……?」
俺が近づく。
ミラが止める。
「レイン、待って」
「大丈夫」
「いやな感じがする」
「俺も」
でも。
足が勝手に動いた。
墓石の前に立つ。
表面を手でなぞる。
すると。
文字が浮かんだ。
――レイン
「……」
ミラが息を呑む。
「レインの墓……」
その下に。
日付。
五十年前。
さらに。
死亡理由。
俺は読む。
――本人の希望による死亡
「……」
誰も喋らない。
俺は墓石を見つめる。
「俺は……」
声が震えた。
「五十年前に、自分で死んだ?」
一番が答える。
「そうだ」
「でも」
俺は振り返る。
「俺を殺したのは、お前じゃない?」
「……」
一番が黙る。
「答えてくれ」
「俺は」
一番が言う。
「お前の願いを実行した」
「……」
「だが」
一番が目を伏せる。
「お前を殺したのは、俺だけではない」
「どういう意味?」
一番は答えなかった。
そのとき。
墓石の裏から。
紙が落ちた。
俺が拾う。
古い。
だが。
文字は読める。
――一番へ。
その下。
――俺を殺せ。
さらに。
――ただし、アルドを殺したことは誰にも言うな。
「……」
俺は紙を握る。
「アルドを殺した……」
二番が言う。
「そうだ」
「俺が?」
「違う」
二番が首を振る。
「お前は殺していない」
俺は顔を上げる。
「じゃあ誰が?」
二番は。
墓石の奥を指差した。
「この墓の下にいる」
「……誰が?」
二番が答える。
「アルドだ」
その瞬間。
墓石の下から。
――コン。
一度。
音がした。
――コン。
二度。
そして。
――コン。
三度。
俺は息を止めた。
懐かしい音。
あの徽章と同じ。
カン、カン、カン。
墓の下から。
誰かが。
叩いている。




