第39話 02
赤い目が。
俺を見ていた。
「……レイン」
また。
俺と同じ声。
だが。
目の前にいるものは。
人間には見えなかった。
巨大な身体。
黒い皮膚。
胸に刻まれた。
02
「二番……」
三十一番が呟く。
剣を抜いた。
「全員、下がれ!」
だが。
二番は動かなかった。
ただ。
俺だけを見ている。
「レイン」
「……何だ」
「お前を」
一歩。
「待っていた」
地面が揺れる。
ミラが俺の腕を掴む。
「逃げよう!」
「そうしたい」
「じゃあ逃げよう!」
「でも」
俺は二番を見る。
「こいつは俺を知ってる」
「それが何?」
「……知りたい」
「レイン!」
ミラが叫ぶ。
「今それを知ろうとする!?」
「たぶん、俺はこういう性格なんだよ」
「今さら自己分析しないで!」
二番が首を傾げる。
「……ミラ」
ミラの顔が固まった。
「私の名前……」
二番は続ける。
「知っている」
「なんで?」
「レインが話した」
俺は眉をひそめる。
「いつ?」
「五十年前」
空気が凍る。
「……俺が?」
「ああ」
「ミラのことを?」
「いや」
二番は首を振った。
「ミラという名前を話した」
ミラが目を見開く。
「私、五十年前に生まれてないよ」
「そうだな」
「じゃあ……」
二番が胸に手を当てる。
「お前が未来の記憶を持っていた」
「未来……?」
俺は言葉を失う。
二番の胸が。
赤く光る。
「俺たちは」
二番が言った。
「時間の順番を守っていない」
「……」
「作られた順番と」
巨大な手が胸を指す。
「生きた順番が違う」
零番が低く呟いた。
「やはり……」
「知ってたのか?」
俺が聞く。
「予想はしていた」
「また予想かよ」
「すまない」
「珍しく謝ったな」
「それほど危険ということだ」
その瞬間。
二番が動いた。
速い。
「レイン!」
ミラが俺を引っ張る。
ドンッ!
二番の拳が地面を砕く。
「うわっ!」
俺たちは転がった。
一番が斬り込む。
ガキン!
剣が弾かれた。
「硬い……!」
三十三番も攻撃する。
だが。
二番は片手で受け止めた。
「弱い」
「……!」
三十三番が吹き飛ばされる。
三十一番が走る。
「なら俺が!」
二番が振り向く。
腕を振る。
三十一番も吹き飛ぶ。
「全員まとめて来い」
その声に。
俺は違和感を覚えた。
「……」
二番は。
俺を殺そうとしていない。
攻撃しているのは。
俺以外だけだ。
「おい」
二番が俺を見る。
「何だ?」
「お前は攻撃しない」
「……」
「俺を?」
「そう」
「なぜ?」
「お前は俺だからだ」
「またそれか」
「事実だ」
俺は一歩近づいた。
「じゃあ聞く」
「何を?」
「お前は何なんだ?」
二番はしばらく黙った。
「俺は――」
そのとき。
二番の胸の番号が変わった。
02
その数字の下に。
文字が浮かぶ。
――器
「器?」
三十二号が呟く。
二番は続ける。
「俺は器だ」
「何の?」
「お前のための」
「俺?」
「ああ」
二番が胸を開く。
中には。
心臓がない。
代わりに。
赤い光を放つ球体がある。
「これを見ろ」
俺は息を呑む。
「……それ」
見覚えがある。
俺の胸の奥にある。
もう一つの鼓動。
二番の胸にあるものと。
同じだった。
「まさか……」
「そうだ」
二番が笑う。
「お前の二つ目の心臓は――」
一歩。
「俺のものだ」
俺の胸が。
ドクン!
「ぐっ……!」
突然。
激痛が走った。
「レイン!」
ミラが駆け寄る。
二番が手を伸ばす。
「返してもらう」
「……!」
赤い光が。
俺の胸から二番へ向かって伸びる。
「嫌だ!」
俺は反射的に胸を押さえた。
光が止まる。
二番が驚く。
「拒否した?」
「……知らない」
「お前が?」
「ああ!」
俺は歯を食いしばる。
「俺は――俺だ!」
その瞬間。
胸の奥から。
別の声が響いた。
『そうだ』
アルドの声。
『お前はレインだ』
「……!」
二番が目を見開く。
「その声……」
俺は聞く。
「知ってるのか?」
二番は。
初めて怯えた。
「……知っている」
「誰だ?」
「俺たちを作った理由」
「……」
「そして」
二番が俺を見る。
「俺たちを殺した理由」
森が。
静まり返った。
「誰が?」
二番は答えた。
「アルドだ」
その瞬間。
俺の胸の奥で。
もう一つの鼓動が。
完全に止まった。




