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勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


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第37話 二つ目の心臓

ドクン。


 胸の奥で。


 もう一つの鼓動が鳴った。


「……」


 俺は胸を押さえた。


 普通の心臓は。


 いつも通り。


 ドク。


 ドク。


 その奥に。


 もう一つ。


 ドクン。


 ドクン。


「レイン……?」


 ミラが不安そうに俺を見る。


「聞こえる」


「何が?」


「俺の中で……心臓が二つ鳴ってる」


 ミラの顔が青ざめる。


「……二つ?」


「たぶん」


「たぶんって……」


 俺は胸に手を当てる。


 確かにある。


 普通の鼓動とは違う。


 少し遅い。


 そして。


 妙に冷たい。


「それは心臓じゃない」


 老人が言った。


「……」


 俺は老人を見る。


「じゃあ何だ?」


「分からん」


「おい」


「心臓のように動いているだけだ」


 老人は俺の胸を見る。


「それは『起動核』だ」


「起動核?」


「ああ」


「何の?」


 老人は答えなかった。


 零番が口を開く。


「……お前が知っているのか」


「知っている」


「なら説明しろ」


「嫌だ」


「……」


 零番の顔が険しくなる。


「なぜだ」


「お前に教える義理はない」


「私は――」


「零番」


 老人が遮った。


「お前は最初に作っただけだ」


 零番が黙る。


「完成させたのは俺だ」


「……」


「だから」


 老人が俺を見る。


「こいつのことは、俺の方が詳しい」


 俺は一歩下がった。


「俺を作った?」


「正確には」


 老人は首を振る。


「お前の『最初の器』を作った」


「……」


「人格は作っていない」


「じゃあ」


 俺は聞いた。


「今の俺は誰が作った?」


 老人は笑った。


「お前自身だ」


「……」


 その言葉。


 どこかで聞いた。


 アルドの声。


『お前の人生は、お前が決めろ』


 俺は拳を握る。


「だったら」


 俺は老人を見る。


「五十年前の俺は何だった?」


 老人は少しだけ黙った。


「七人目だ」


「それは分かってる」


「なら――」


 老人が言った。


「質問を変えろ」


「……」


「『七人目は何だったのか』ではない」


 老人が杖を持ち上げる。


「『七人目は何をするために作られたのか』だ」


 胸の奥が。


 また鳴った。


 ドクン。


「……何のため?」


 老人は答えた。


「二人を殺すためだ」


「二人?」


「アルドと――」


 老人の目が細くなる。


「もう一人」


 俺は息を呑んだ。


「誰だ?」


 老人は俺を指差した。


「お前だ」


「……俺?」


「そうだ」


 ミラが前へ出る。


「意味が分からない!」


「分からなくていい」


「そればっかり!」


 ミラが怒鳴る。


「この人たち、何でも分からなくていいで済ませすぎ!」


 俺は思わず笑った。


「……それは俺も思う」


「でしょ?」


 老人が苦笑する。


「面白い娘だ」


「褒めても何も出ませんよ」


「そうか」


 老人は俺を見る。


「なら、二人目の心臓を起こせ」


「嫌だ」


 即答した。


 老人が目を丸くする。


「なぜ?」


「怖いから」


「……」


「あと」


 俺はミラを見る。


「ミラがいるから」


「え?」


「変なものを起こして、ミラを巻き込むのは嫌だ」


 ミラが少し驚く。


 老人はしばらく俺を見つめていた。


 やがて。


「なるほど」


 笑った。


「それなら安心した」


「何が?」


「五十年前のお前と同じだ」


 俺は固まった。


「……どういう意味だ?」


「お前は昔から、自分より他人を優先する」


「俺が?」


「ああ」


 老人は森の奥を見る。


「だから死んだ」


「……」


「アルドを殺すためじゃない」


 老人の声が低くなる。


「アルドを生かすために」


 俺は息を呑んだ。


「どういう――」


 その瞬間。


 胸の奥で。


 ドクン。


 今度は強く。


「ぐっ……!」


 膝をついた。


「レイン!」


 ミラが駆け寄る。


 視界が歪む。


 雪。


 白い部屋。


 アルド。


 そして。


 五十年前の俺。


 俺はアルドの前に立っている。


『早く逃げろ』


 アルドが言う。


『俺はいい』


 少年の俺が首を振る。


『お前が死んだら、俺も死ぬ』


『それは違う』


『違わない』


 アルドが笑う。


『だから、お前には二つ目が必要なんだ』


「……二つ目?」


 映像の中の俺が聞く。


 アルドが。


 俺の胸に手を当てる。


『一つは、お前自身の心臓』


『もう一つは――』


 そこで。


 映像が途切れた。


「……何だよ」


 俺は息を荒くする。


「もう一つは……何なんだ?」


 答えはなかった。


 ただ。


 胸の奥で。


 もう一つの鼓動が。


 確実に速くなっていた。


 ドクン。


 ドクン。


 ドクン。


 老人が静かに言う。


「起き始めたな」


 一番が剣に手をかける。


「止められるか?」


「無理だ」


「なら――」


 老人が首を振る。


「止める必要はない」


「なぜ?」


「二人目が起きるのは――」


 老人が俺を見る。


「七人目が、自分の名前を思い出したときだからだ」


「……」


 俺は息を呑んだ。


「俺の名前?」


「ああ」


「レインじゃない?」


 老人は答えた。


「それは今の名前だ」


「じゃあ――」


 老人が笑う。


「お前が最初に呼ばれていた名前は――」


 そこで。


 森の奥から。


 別の声がした。


『――レイン』


 全員が振り返る。


 誰もいない。


 だが。


 その声は。


 俺のすぐ後ろから聞こえた。


『思い出して』


 俺はゆっくり振り返る。


 そこに。


 俺と同じ顔をした少年が立っていた。


 そして少年は。


 笑いながら言った。


『俺の名前を』

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