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勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


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32/120

第32話 アルド

「アルドが――」


 俺の口から出た声は。


 確かに俺の声だった。


 なのに。


 俺の意思ではなかった。


「帰ってきた」


 ミラが俺の肩を掴む。


「レイン!」


 聞こえている。


 ミラの声も。


 三十一番の声も。


 だが。


 身体が動かない。


 右手が勝手に上がる。


「……何だよ、これ」


 俺の指先が。


 空中に文字を描く。


 見えない何かをなぞるように。


 カン。


 徽章が鳴った。


 ――人格干渉を確認


 カン。


 ――記憶干渉を確認


 カン。


 ――七人目、再起動中


「人格干渉……?」


 三十一番が顔を強張らせる。


「レインから離れろ!」


 ミラが叫ぶ。


「無理!」


「どうして?」


「足が動かない!」


 一番が俺の前に立った。


「レイン」


「……」


「俺を見ろ」


 俺は顔を上げる。


 一番を見る。


「お前はレインだ」


「……」


「アルドではない」


 頭の中で。


 何かが笑った。


『そうだ』


 知らない声。


『レインはアルドではない』


「じゃあ……誰なんだ」


 俺が聞く。


『俺にも分からない』


 その答えに。


 俺は少し驚いた。


「……お前にも?」


『ああ』


 声が続く。


『俺が残したのは、死だけだ』


「死……?」


『俺の記憶ではない』


『俺の人格でもない』


『ただ、死ぬ直前の意思だけだ』


 俺の身体から力が抜けた。


 ミラが支える。


「レイン!」


「大丈夫……」


「本当に?」


「たぶん」


「たぶん禁止!」


「……分かった」


 少しだけ笑えた。


 だが。


 一番は笑っていない。


「なら、今の声は何だ?」


 俺は答える。


「アルド……らしい」


「らしい?」


「本人かどうかは分からない」


 三十三番が言った。


「それが正しい」


「どういうこと?」


「五十年前、アルドの死体から回収できたのは――」


 三十三番が言葉を止める。


「何?」


「意思だけだった」


 俺は息を呑んだ。


「死体は?」


「なかった」


「じゃあ、どうして意思だけ?」


「それを調べるために三十二号が作られた」


 俺は三十二号を見る。


 アルドの「生きたい」。


 そう名乗った存在。


「じゃあ、お前はアルドの意思を持ってる?」


「違う」


 三十二号が首を振る。


「俺は『生きたい』という感情だ」


「アルド本人じゃない?」


「ああ」


「じゃあ今、俺の中にいるのは?」


 三十二号が答えた。


「『死にたい』という意思だ」


 地下室が静まり返った。


「……」


 俺は自分の胸を見る。


「アルドには……」


「生きたい意思と」


 三十二号が続ける。


「死にたい意思があった」


「それを分けた?」


「ああ」


「そして」


 俺は自分を指差す。


「俺の中にある?」


「おそらくな」


「じゃあ、七人目って……」


 零番が口を開いた。


「二つの意思を持った存在」


「……」


「それが七人目だ」


 俺は頭を抱える。


「俺、そんなものになった覚えないんだけど」


 ミラが即答した。


「私もそう思う」


「だよな」


「でも」


 ミラは俺を見る。


「それでもレインなのは変わらないよ」


「……」


 その言葉が。


 妙に胸に残った。


 そのとき。


 地下室の奥から。


 大きな音がした。


 ドンッ!


 壁が崩れる。


「何だ!?」


 一番が振り返る。


 瓦礫の向こう。


 暗闇から。


 一人の男が歩いてきた。


 黒い外套。


 傷だらけの顔。


 三十一番が目を見開く。


「……お前」


 三十三番も驚く。


「なぜここに?」


 男は答えない。


 ただ。


 俺を見る。


 そして。


「やっと見つけた」


 俺は警戒する。


「誰だ?」


 男は自分の胸元を開いた。


 そこには。


 27


「二十七番……」


 三十一番が呟く。


「お前は五十年前に死んだはずだ」


「そうだ」


「なら、なぜ?」


 二十七番が笑う。


「一番と同じだ」


「……」


「死んでも終われない」


 その瞬間。


 二十七番の視線が三十二号へ向く。


「だが、俺が探していたのはお前じゃない」


 そして。


 俺を見る。


「七人目だ」


 ミラが俺の前に立つ。


「レインには触らせない」


 二十七番が首を傾げる。


「守るのか?」


「当然」


「なら、お前も邪魔だ」


 男が剣を抜く。


 一番が前へ出た。


「やめろ」


「一番……」


「こいつは私が処理する」


 二十七番が笑う。


「お前が?」


「ああ」


「五十年前と同じように?」


 一番の目が鋭くなる。


「……何が言いたい」


 二十七番は答えなかった。


 ただ。


 俺を見て。


「七人目」


 そう呼んだ。


「お前はまだ知らない」


「何を?」


「五十年前――」


 二十七番の口元が歪む。


「お前を殺したのは、一番じゃない」


 空気が凍った。


 一番の顔が変わる。


 三十一番が息を呑む。


 三十三番が低く呟く。


「……嘘だ」


 二十七番は笑った。


「なら聞けばいい」


「誰に?」


「お前自身にだ」


 そして。


 二十七番が俺を指差す。


「お前はもう、覚え始めている」


 その瞬間。


 頭の奥で。


 また映像が流れた。


 雪。


 血。


 倒れているアルド。


 そして。


 その前に立つ――


 俺。


 五十年前の俺が。


 血に濡れた手で。


 一人の男を見下ろしていた。


 その男の顔は――


 一番だった。


 だが。


 俺の手には。


 剣が握られていた。


 俺は息を呑んだ。


「……違う」


 映像の中の俺が。


 静かに言った。


『俺が殺す』


 そして。


 剣を振り上げた。

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