第31話 七人目の起動
――七人目:起動確認。
その文字を見た瞬間。
地下室の空気が変わった。
「……起動?」
ミラが呟く。
「私、レインが起動した瞬間なんて見てないんだけど」
「俺もだ」
俺は徽章を見つめる。
――三十二番
――七人目:起動確認
二つの表示が並んでいる。
「どういうこと?」
三十一番を見る。
「分からない」
「三十三番は?」
「知らない」
「一番」
「……」
「零番」
「答えられない」
全員が同じだった。
俺はため息をつく。
「本当に誰も知らないんだな」
老人が言った。
「いや」
全員の視線が老人に集まる。
「一人だけ知っている」
「誰?」
老人は俺を指差した。
「お前だ」
「……俺?」
「ああ」
「俺が?」
「五十年前のお前が知っている」
「でも俺は覚えてない」
「だから封印した」
老人は壁の文字を指す。
――記憶の封印
「お前は七人目について知りすぎた」
「何を知った?」
「それは――」
老人が言葉を止める。
その瞬間。
地下の奥から。
ドン。
大きな音がした。
全員が振り返る。
「何?」
ミラが俺の腕を掴む。
ドン。
もう一度。
今度は近い。
「何か来る」
三十一番が剣を抜く。
一番も構える。
三十三番が扉を見る。
そして。
零番が小さく呟いた。
「……起きたか」
「何が?」
「七人目ではない」
「じゃあ?」
「七人目を起こしたものだ」
俺の背中に寒気が走った。
扉が。
ゆっくり開いた。
その向こうに。
黒い通路が伸びている。
そして。
壁一面に。
数字が刻まれていた。
01。
02。
03。
――32。
――33。
そして。
その先。
数字ではなく。
文字があった。
回収対象外
「……」
俺は足を止めた。
「なんだ、これ」
零番が答える。
「俺たちにも分からない」
「でも、ここにある」
「ああ」
三十三番が壁を見る。
「五十年前にも、これがあった」
「知ってたの?」
「見た」
「じゃあ、なぜ教えなかった?」
「忘れていた」
「……」
ミラが小声で言った。
「この人たち、忘れすぎじゃない?」
「俺もそう思う」
通路を進む。
しばらくすると。
小さな部屋に出た。
そこには。
机が一つ。
椅子が一つ。
そして。
一冊の本が置かれていた。
表紙には。
七人目
と書かれている。
「……」
俺は本を取った。
「待て」
一番が止める。
「何?」
「それはお前が読むものではない」
「じゃあ誰が読む?」
「俺だ」
一番が本を取ろうとする。
だが。
本が光った。
そして。
俺の手から離れない。
「……」
一番が手を止める。
「やはり」
「何が?」
「お前にしか開けない」
「じゃあ読んでみる」
俺は表紙を開いた。
一ページ目。
――七人目について
二ページ目。
――七人目は、人間ではない。
俺は眉をひそめる。
「……」
三ページ目。
――七人目は、勇者でもない。
四ページ目。
――七人目は、魔王でもない。
そして。
五ページ目。
――七人目は、どちらも殺せる。
俺は息を呑んだ。
「何だよ……これ」
さらにページをめくる。
そこには。
名前があった。
――レイン
「……」
だが。
その名前の下に。
もう一つ。
別の名前が書かれていた。
――アルド
「……え?」
俺は何度も見る。
確かに。
二つの名前がある。
「レインとアルド?」
ミラが覗き込む。
「どういうこと?」
俺には分からない。
そのとき。
本の最後のページが勝手にめくれた。
そこに。
短い文章があった。
――七人目は二人ではない。
――一人の中に、二つの死がある。
俺はページをめくる。
だが。
次のページは白紙だった。
「……終わり?」
その瞬間。
白紙に文字が浮かび始めた。
――現在、二つ目の死が起動しました。
俺の心臓が止まりそうになった。
「二つ目の……死?」
すると。
俺の身体が突然動かなくなった。
「レイン!」
ミラの声が遠くなる。
視界が暗くなる。
そして。
頭の中に。
知らない声が響いた。
『起きろ』
誰だ。
『レイン』
俺の名前を呼ぶ。
『五十年前に終わったはずの俺を――』
声が近づく。
『もう一度、殺せ』
「……誰だ」
俺は必死に声を出す。
『お前だ』
「……俺?」
『そうだ』
暗闇の中。
誰かが立っている。
顔は見えない。
だが。
声だけは分かる。
アルドだった。
『お前の中には、俺の死が二つある』
「二つ……?」
『一つ目は、俺の死』
その影が一歩近づく。
『そして二つ目は――』
そこで。
声が途切れた。
代わりに。
俺の徽章が鳴った。
カン。
表示が変わる。
――七人目:起動中
そして。
その下に。
新しい名前が浮かんだ。
――アルド
俺は目を見開いた。
同時に。
現実の俺の身体が。
勝手に一歩、前へ出た。
「レイン!」
ミラが俺の腕を掴む。
だが。
俺は自分の意思で止まれない。
そして。
俺の口から。
自分の知らない声が出た。
「……久しぶりだな」
俺自身の声で。
俺ではない言葉を。
「アルドが――」
俺は呟いた。
「帰ってきた」




