第30話 レイン
――初代レイン
――死亡理由:
そして。
最後の文字が浮かんだ。
――自分自身による殺害。
「……」
誰も喋らなかった。
俺も。
ミラも。
三十一番も。
三十三番も。
一番も。
零番でさえ。
ただ、その文字を見ていた。
「自分自身って……」
ミラが小さく呟く。
「どういう意味?」
「分からない」
俺が答える。
すると。
老人が笑った。
「いや」
老人は首を振る。
「意味は、そのままだ」
「どういうこと?」
「初代レインは――」
老人が俺を見る。
「自分で自分を殺した」
「……」
俺は眉をひそめた。
「そんなこと、どうやって?」
「それが問題なんだ」
老人は壁を見る。
「初代レインには、自分を殺せるだけの力がなかった」
「じゃあ……」
「誰かが手を貸した」
「誰?」
老人は答えなかった。
代わりに。
一番が口を開く。
「俺だ」
全員が一番を見る。
「……一番?」
「ああ」
「お前が俺を殺した?」
「正確には違う」
「どう違う?」
一番は少し黙った。
「お前が俺に頼んだ」
俺の背筋が凍った。
「俺が?」
「そうだ」
「何を?」
「殺してくれ、と」
頭の中で。
何かが弾けた。
――雪。
――血。
――一番。
――そして。
自分の声。
『俺を殺してくれ』
「……」
映像が一瞬だけ見えた。
五十年前の俺。
子供の姿。
その前に立つ一番。
俺は一番の手を握っている。
『約束して』
『何を?』
『俺を、もう一度生きさせて』
俺は息を呑んだ。
「……もう一度」
一番が俺を見る。
「思い出したか」
「少しだけ」
「なら、続きを聞け」
「……」
一番は言った。
「お前は死ぬ前に、一つだけ条件を出した」
「何?」
「俺に殺されること」
「……それだけ?」
「違う」
一番の声が低くなる。
「お前は言った」
地下室が静まり返る。
「『俺を殺したあと、二十八年後に起こしてくれ』」
俺は息を呑んだ。
「二十八年後……」
「そうだ」
「だから俺は……」
「二十八年前に起きた」
「誰が起こした?」
一番は答えなかった。
その代わり。
老人を見る。
老人が静かに言った。
「私だ」
「……」
「お前の再起動を行った」
「じゃあ、母さんたちは?」
「何も知らない」
「父さんも?」
「知らない」
「じゃあ、どうして俺はあの町に?」
老人が少し笑う。
「それも、お前自身が決めた」
「俺が?」
「そうだ」
「五十年前の俺が?」
「いや」
老人は首を振る。
「五十年前の記憶を持たない、お前自身がだ」
意味が分からない。
俺が頭を抱える。
「じゃあ俺は、五十年前に死んで……」
「二十八年前に起きた」
「そして普通に生きてきた」
「そうだ」
「でも、その人生は誰かに作られたものじゃない?」
「違う」
老人がはっきりと言う。
「お前自身の人生だ」
その言葉に。
胸の奥が少しだけ軽くなった。
ミラが隣で微笑む。
「ほら」
「……何?」
「前に私が言ったでしょ」
「何を?」
「どうやって生まれたか分からなくても、今ここにいるあなたはレインだって」
「……」
俺は少しだけ笑った。
「覚えてたのか」
「当然」
「俺は忘れてた」
「レインだもん」
「どういう意味?」
「忘れっぽいって意味」
「……」
緊張していた空気が。
ほんの少しだけ緩んだ。
だが。
一番は笑っていなかった。
「まだ終わっていない」
「何が?」
「初代レインの死だ」
「俺が自分で死を選んだんだろ?」
「そうだ」
「じゃあ、何が問題?」
一番が答える。
「なぜ、お前は自分を殺す必要があった?」
「……」
「なぜ二十八年後だった?」
「……」
「そして」
一番が壁を見る。
「なぜ、お前は自分の死亡理由を自分で消した?」
誰も答えられない。
その瞬間。
壁の文字が変わった。
――死亡理由:自分自身による殺害
その下に。
新しい一文が浮かぶ。
――目的:記憶の封印
「……記憶?」
三十一番が呟く。
さらに文字が続く。
――封印対象:
そこで。
文字が途切れた。
俺は息を呑む。
「何を封印した?」
壁が震える。
カン。
カン。
カン。
そして。
ゆっくり文字が現れた。
――アルドではない。
「……?」
全員が固まる。
さらに。
その下に。
――魔王でもない。
俺の心臓が跳ねる。
そして最後に。
一行だけ。
――『七人目』である。
地下室の空気が凍った。
三十三番が顔を上げる。
「……七人目」
三十一番が一歩後退する。
一番の手が剣に伸びる。
零番は目を閉じた。
そして老人だけが。
静かに呟いた。
「とうとう、そこまで戻ったか」
俺は老人を見る。
「七人目って……誰なんだ?」
老人は答えた。
「お前だ」
その瞬間。
俺の徽章が鳴った。
カン。
表示された文字は――
三十二番。
その下に。
今まで見たことのない表示が浮かんだ。
――七人目:起動確認。




