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勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


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第3話 北の山調査

北の山は、嫌いだ。


 理由は三つある。


 一つ。


 遠い。


 二つ。


 寒い。


 三つ。


 飯がまずい。


「お前、朝からずっと飯の文句言ってるな」


 隣を歩くミラが呆れた顔をする。


「重要な問題だぞ」


「遺体捜索のほうが重要でしょ」


「死体は飯を食わない」


「生きてる私たちは食べるのよ」


「だから重要なんだ」


「何よ、その理屈」


 今回の依頼では、俺一人で行く予定だった。


 だが、ミラが勝手についてきた。


 理由を聞いたら、


「暇だったから」


 だそうだ。


 受付嬢という仕事は暇なのかと思ったが、本人曰く、


「あなた一人だと絶対に余計なことするから」


 らしい。


 心外である。


 俺は仕事に忠実だ。


 ただし、金貨一枚の依頼なら少しくらい規則を曲げることはある。


「ところで」


 ミラが地図を見る。


「この先に旧迷宮があるのよね?」


「たぶん」


「入らないよね?」


「入らない」


「本当に?」


「入らない」


「じゃあ、何で地図に印をつけてるの?」


「道に迷わないため」


「入口の場所を?」


「……」


 俺は地図をしまった。


 山道を登る。


 雪が少し積もっている。


 足跡はほとんどない。


 行方不明になった冒険者は、この辺りまで来ていたらしい。


「この先だな」


 俺は地面を見る。


 小さな靴跡。


 人間のもの。


 新しい。


「見つけた?」


「たぶん本人」


「生きてるかな」


「分からない」


 俺たちは足跡を追った。


 しばらく進むと、木の枝に布切れが引っかかっていた。


 青い布。


 依頼書に書かれていた服装と一致する。


「近い」


 俺は周囲を見回した。


 こういうときは慎重になる。


 死体の近くには、たいてい何かがいる。


 魔物。


 盗賊。


 あるいは――


「いた」


 ミラが指差した。


 岩陰。


 人が倒れている。


「……」


 俺は近づいた。


 冒険者の男だった。


 目を閉じている。


 呼吸は――


「ある」


「生きてる?」


「ああ」


 男が突然、目を開けた。


「……水」


「はい」


 ミラが水筒を渡す。


 男は勢いよく飲んだ。


「助かった……」


「何があった?」


「魔物に襲われた」


「何の魔物?」


「分からない」


「見てない?」


「見た」


「じゃあ何?」


 男が震える。


「……人間だった」


 俺とミラは顔を見合わせた。


「人間?」


「ああ」


「盗賊?」


「違う」


「冒険者?」


「分からない」


 男は山の奥を指差した。


「俺は、あそこで襲われた」


「どこ?」


「あの岩山の向こう」


 俺は地図を取り出した。


 指で確認する。


「……旧迷宮の近くだな」


 男の顔が青ざめた。


「知ってるのか?」


「名前だけ」


「行くな」


「行かない」


「絶対に行くな」


「分かった」


「……あそこには、墓がある」


 俺は手を止めた。


「誰の?」


「知らない」


 男は首を振る。


「ただ……俺が見つけたときには、墓の前に誰かが立っていた」


「誰か?」


「顔は見えなかった」


「何をしてた?」


「墓を掘っていた」


 ミラが眉をひそめる。


「墓荒らし?」


「違う」


 男は震える声で言った。


「そいつは――」


 言葉が止まる。


「どうした?」


「……俺の名前を呼んだ」


「知り合い?」


「違う」


「じゃあ、なぜ?」


 男は答えなかった。


 代わりに、俺の腕を掴んだ。


「逃げろ」


「何から?」


「分からない」


「それじゃ逃げようがない」


「いいから!」


 その瞬間。


 山の奥から音がした。


 カン。


 カン。


 カン。


 金属を叩く音。


 一定の間隔で響いている。


 俺は立ち上がった。


「何の音?」


 ミラが聞く。


「分からない」


 カン。


 カン。


 カン。


 男が震え始める。


「……あれだ」


「何が?」


「あいつだ」


「誰?」


 男は答えた。


「墓を掘っていた奴だ」


 俺は音のする方向を見る。


 雪の向こう。


 木々の隙間。


 そこには何も見えない。


 ただ――


 音だけが聞こえる。


 カン。


 カン。


 カン。


 俺は地図を広げた。


 音の方向を確認する。


 そして気づいた。


 旧迷宮の入口は、地図上ではもっと東にある。


 なのに。


 この音は――


 西から聞こえている。


「ミラ」


「何?」


「帰るぞ」


「珍しいわね」


「ああ」


 俺は男を背負った。


 そして山を下り始める。


 カン。


 カン。


 カン。


 音が続いている。


 だが――


 数分歩いたところで、ミラが足を止めた。


「ねえ」


「何だ?」


「音……」


 俺も気づいた。


 遠ざかっているはずなのに。


 音が――


 近づいている。


 カン。


 カン。


 カン。


 俺たちの背後から。


 俺は振り返った。


 誰もいない。


 雪の上には、俺たち三人分の足跡しかない。


 ……いや。


 一つだけ。


 俺たちの足跡とは違うものがあった。


 裸足の足跡。


 それが、山の奥からこちらへ向かって伸びている。


 そして俺たちのすぐ後ろで――


 途切れていた。


「……」


「レイン?」


「走るぞ」


「え?」


「今度は本気だ」


 俺たちは山を駆け下りた。


 金貨一枚?


 いらない。


 報酬なんてどうでもいい。


 俺はこのとき初めて思った。


 今回の仕事は――


 死体を拾うだけでは終わらない。

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