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勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


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28/120

第28話 1度死んだ

「お前は五十年前に――」


 老人は一度、言葉を切った。


 そして。


「一度、死んだんだ」


 その言葉が地下室に響いた。


「……」


 俺は何も言えなかった。


 ミラも黙っている。


 三十一番も。


 三十三番も。


 誰一人、驚いていなかった。


「……知ってたのか?」


 俺が聞く。


 三十一番は答えない。


「知ってたんだな?」


「……ああ」


「じゃあ、なんで言わなかった?」


「言える状況ではなかった」


「いつなら言うつもりだった?」


「分からない」


「またそれか」


 俺は頭を抱えた。


「俺の周り、分からない奴ばっかりだな」


 ミラが小さく手を挙げる。


「私も分からない」


「ミラまで言うな」


「でも本当だし」


 老人が笑った。


「相変わらずだな」


 俺は老人を見る。


「俺を知ってるんだな」


「ああ」


「五十年前の俺を?」


「そうだ」


「何歳だった?」


「分からない」


「……」


「お前には、最初から年齢という概念がなかった」


「何それ」


「お前は人間として生まれたわけではないからな」


 胸の奥が重くなる。


「じゃあ俺は何なんだ?」


 老人は答えない。


 代わりに。


 部屋の奥にある機械を動かした。


 古い歯車が回る。


 カチ。


 カチ。


 カチ。


 壁に映像が浮かび上がった。


 五十年前。


 白い部屋。


 中央に台がある。


 その上に――


 子供が寝ていた。


 俺だ。


「……」


 見間違えるはずがない。


 顔も。


 髪も。


 小さな手も。


 全部。


 今の俺と同じだった。


「これ……俺?」


「そうだ」


「五十年前?」


「ああ」


 映像の中。


 誰かが子供の額に手を置いている。


 その人物は――


 アルドだった。


「……アルド」


 俺の声が震える。


 アルドは何かを話している。


 だが、音声はない。


 映像だけが続く。


 アルドが子供を抱き上げる。


 そして。


 老人に何かを渡す。


 布。


 俺が持っていた、あの布だった。


 そこには。


 三十二


 と刻まれている。


「これを……」


 俺は呟く。


「俺が昔から持っていた?」


「そうだ」


 老人が答える。


「アルドがお前に残した」


「何のために?」


「忘れないためだ」


「何を?」


 老人は少し黙った。


「自分が何者だったのかを」


 俺は映像を見る。


 アルドが子供の俺を抱いている。


 その顔は悲しそうだった。


 そして。


 映像が変わった。


 子供の俺が台に寝かされる。


 周囲に人が集まる。


 その中に。


 一番。


 三十一番。


 三十三番。


 そして零番。


 全員がいた。


「……」


 俺は息を呑んだ。


「お前たちは……」


 一番が目を伏せた。


「見ていた」


「俺がここにいたときから?」


「ああ」


「何をしていた?」


 誰も答えない。


 老人が言った。


「お前を止めた」


「止めた?」


「アルドはお前を連れて逃げようとした」


 俺は映像を見る。


 確かに。


 アルドが俺を抱えて走っている。


 だが。


 その前に一番が立つ。


「……」


 一番がアルドを止める。


 アルドは何か叫んでいる。


 そして。


 一番が剣を抜いた。


「やめろ!」


 俺は思わず叫んだ。


 映像の中では。


 アルドが俺を庇っている。


 剣が振り下ろされる。


 ――そこで映像が止まった。


 俺は息を呑む。


「……ここから先は?」


「記録が残っていない」


 老人が言う。


「じゃあ、俺は?」


「お前は死んだ」


「……」


「正確には」


 老人は続けた。


「お前の身体が一度、停止した」


「停止?」


「ああ」


「じゃあ、今の俺は?」


「二十八年前に再起動した」


 俺の背筋に寒気が走る。


「誰が?」


 老人は答えた。


「アルドだ」


「……」


「お前を死なせたのもアルド」


「俺を生き返らせたのもアルド」


「そうだ」


「なんで……?」


 老人は俺をまっすぐ見る。


「それを知るには――」


 老人の後ろの壁が開いた。


 その奥に。


 一つの棺があった。


 古びた黒い棺。


 表面には。


 32


 そして。


 その下に。


 小さく文字が刻まれている。


 ――初代レイン


 俺は息を呑んだ。


「……初代?」


 老人は静かに頷いた。


「お前には、二人のレインがいる」


「二人?」


「五十年前に死んだレイン」


 老人が棺を指す。


「そして――」


 俺を見る。


「二十八年前に生まれ直したレイン」


 俺は言葉を失った。


 すると。


 棺の中から。


 カン。


 音がした。


 老人の顔から笑みが消える。


「……まずい」


「何が?」


 カン。


 カン。


 カン。


 棺が震える。


「この棺は――」


 老人が後ずさる。


「開けてはいけない」


 だが。


 蓋が。


 ゆっくりと持ち上がった。

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