↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/120

第26話 第一製造者

二つの赤い目が、こちらを見ていた。


 動けない。


 呼吸すら忘れそうになる。


「……アルド?」


 俺が呟く。


 返事はない。


 ただ。


 暗闇の奥で、何かが動いた。


 カツ。


 一歩。


 カツ。


 また一歩。


 足音が近づいてくる。


 ミラが俺の袖を掴んだ。


「レイン……」


「ああ」


「これ、帰っていいやつ?」


「俺もそう思う」


「じゃあ帰ろう」


「でも」


 俺は目を逸らせなかった。


「俺のことを知ってるかもしれない」


「……そうだね」


 やがて。


 暗闇から人影が現れた。


 長い髪。


 古びた鎧。


 そして。


 顔。


「……」


 俺は息を呑んだ。


 見覚えがある。


 何度も夢で見た顔。


 アルド。


 だが。


「違う」


 一番が呟いた。


「アルドではない」


「でも顔は……」


「同じだ」


 零番が言った。


「同じ顔を使っている」


「使っている?」


「器としてな」


 目の前の男は俺たちを見る。


 そして。


 俺を見る。


「……レイン」


 その声まで同じだった。


「お前は、まだ生きていたのか」


 俺は思わず後ずさった。


「俺を知ってる?」


「当然だ」


「お前は誰だ?」


 男は少し考えた。


「俺か?」


「ああ」


「そうだな」


 男は胸に手を当てる。


「俺は――」


 そこで。


 胸元に刻まれた文字が見えた。


 01


 俺は目を疑った。


「……一番?」


 隣を見る。


 一番本人がいる。


 だが。


 目の前の男にも「01」がある。


「どういうこと?」


 一番は黙っていた。


 零番が答える。


「一番は一人ではない」


「……」


「番号は個人名ではない」


 俺は思い出す。


 三十二番もそうだった。


 役割。


 器。


 人格。


 記憶。


 全部が分かれている。


「じゃあ、こいつは?」


「一番の最初の器だ」


 男が笑った。


「正確には――」


 赤い目が俺を見る。


「アルドを回収するために作られた、一番目の器だ」


 俺は言葉を失う。


 目の前の男は続けた。


「だが、アルドは俺を使わなかった」


「なぜ?」


「俺が失敗したからだ」


「何に?」


「人間になることに」


 その言葉に。


 三十三番が顔をしかめた。


「……まだその話をするのか」


「五十年間、誰も聞かなかったからな」


 一番が言う。


「黙れ」


「お前も知っているだろう」


「何を?」


 俺が聞く。


 誰も答えない。


 その沈黙が。


 何より嫌だった。


「いい加減にしてくれ」


 俺は声を上げた。


「俺のことなのに、俺だけ何も知らない」


「……」


「俺は誰なんだ?」


 誰も答えない。


「三十二号なのか?」


 沈黙。


「アルドの死から生まれたのか?」


 沈黙。


「それとも――」


 俺は目の前の男を見る。


「アルドを再生するための器なのか?」


 男が初めて笑った。


「正解に近い」


 心臓が跳ねた。


「近い?」


「ああ」


「じゃあ、何が違う?」


 男は俺の胸を指差した。


「お前の中には、アルドが入っていない」


「……」


「入っているのは――」


 そこで。


 地下の奥から声がした。


『違う』


 全員が振り返る。


 男も驚いた顔をした。


『レインの中にあるのは、俺ではない』


 その声。


 聞き覚えがある。


 夢の中で何度も聞いた。


「……アルド?」


『そうだ』


 俺の目の前が揺らぐ。


『だが、俺の記憶でもない』


「じゃあ何?」


『俺が死ぬ直前に――』


 声が途切れる。


 カン。


 カン。


 カン。


 地下全体が震えた。


 壁に文字が浮かぶ。


 ――記憶移植、失敗


 ――人格形成、失敗


 ――勇者再生、失敗


 そして。


 最後に。


 ――第四段階、別存在を確認


「別存在……?」


 ミラが呟く。


 零番の顔色が変わった。


「……ありえない」


 三十一番が聞く。


「何が?」


 零番は答えた。


「俺たちは三十二号を作った」


「そうだ」


「だが――」


 零番が俺を見る。


「レインという人格を作った記録はない」


「……」


「つまり」


 零番がゆっくりと言った。


「お前の人格は――」


 地下の奥。


 何かが笑った。


「誰にも作られていない」


 俺の背筋が凍った。


「じゃあ……」


 俺は自分の胸に手を当てる。


「俺は、どこから来た?」


 返事はなかった。


 ただ。


 壁に新しい文字が浮かんだ。


 ――第四段階:不明


 その下に。


 初めて見る番号が刻まれた。


 33


 三十三番が息を呑む。


「……俺?」


 違う。


 その番号の横には。


 名前があった。


 レイン


 俺は動けなくなった。


 五十年前。


 俺はまだ生まれていない。


 なのに。


 俺の名前は。


 そこに記録されていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。