第25話 0番
「お前を最初に作った者だよ」
男はそう言った。
俺はしばらく何も言えなかった。
「……作った?」
「ああ」
「俺を?」
「そうだ」
即答だった。
ミラが俺の隣に立つ。
「レイン」
「分かってる」
「いや、たぶん分かってない」
「俺もそう思う」
男は小さく笑った。
「昔から変わらないな」
「俺を知ってるのか?」
「当然だ」
「名前は?」
「名前?」
男は少し考えるような仕草をした。
「名前など必要なかった」
その言葉に。
三十一番が剣を抜いた。
「零番」
男が三十一番を見る。
「久しいな、三十一」
「死んだはずだ」
「そうだな」
「なら、なぜいる?」
「お前たちと同じだ」
「……」
「死んでも終われなかった」
三十三番が一歩前に出た。
「お前が生きているなら――」
「三十三か」
「……」
「お前も変わらない」
「お前に言われたくない」
二人の間に緊張が走る。
俺は男を見る。
「零番」
「ああ」
「お前が俺を作ったっていうのは?」
「そのままの意味だ」
「俺の身体を?」
「違う」
零番は俺を指差した。
「お前という存在をだ」
背筋が冷えた。
「……意味が分からない」
「だろうな」
零番は森の奥を見る。
「まだ記憶が戻っていない」
「じゃあ教えてくれ」
「嫌だ」
「なんで?」
「知れば、お前は自分を失う」
「……」
「それでも知りたいか?」
俺は答えた。
「ああ」
零番は少しだけ笑った。
「やはりアルドに似ている」
「俺が?」
「いや」
一拍。
「アルドが、お前に似ていた」
意味が分からない。
だが。
その言葉だけが妙に引っかかった。
「北へ行くんだろう?」
「そうだ」
「なら来い」
「どこへ?」
「お前が生まれた場所だ」
ミラが眉をひそめる。
「ここじゃないの?」
「違う」
「じゃあどこ?」
「この山の地下だ」
三十一番が言った。
「待て」
「何だ?」
「そこにはもう何もない」
「そう思っているのは、お前だけだ」
零番が地面を踏む。
すると。
カン。
音がした。
俺の徽章ではない。
地面の下からだった。
「……」
全員が黙る。
カン。
カン。
カン。
地面に細い亀裂が走った。
ミラが俺の腕を掴む。
「レイン」
「うん」
「これ、絶対ろくなことにならないよね」
「たぶん」
「逃げる?」
「……」
俺は一番を見る。
三十一番を見る。
三十三番を見る。
そして零番を見る。
「ここまで来たんだ」
俺は言った。
「行く」
亀裂が広がる。
地面が沈んだ。
その下に。
階段が現れた。
石造りの古い階段。
壁には番号が刻まれている。
01
02
03
――そして。
32
さらにその先。
俺は足を止めた。
壁に。
自分の名前があった。
レイン
その横に。
日付が刻まれている。
五十年前。
「……俺の名前?」
零番が言った。
「それがお前の最初の名前だ」
「じゃあ……今のレインは?」
「後から与えられた名前だ」
「誰に?」
零番は答えなかった。
代わりに階段を降りていく。
俺たちも続く。
地下は異様に長かった。
何度も角を曲がる。
そして。
一番奥に巨大な扉があった。
扉には文字が刻まれている。
――第一製造室
俺は立ち止まった。
「製造室……」
以前見た記録。
死体保存。
記憶移植。
人格形成。
再生。
そして。
三十二号。
全部ここにつながっている。
零番が扉に手を触れた。
すると扉が開いた。
中は真っ暗だった。
だが。
奥に一つだけ明かりがある。
小さな台座。
その上に。
一枚の紙が置かれていた。
零番はそれを取らなかった。
「読め」
「俺が?」
「ああ」
俺は近づく。
紙には。
五十年前の文字が残っていた。
――製造対象:アルド
俺の呼吸が止まる。
その下。
別の文字。
――製造目的:勇者の再生
さらに。
最後の一行。
――ただし、勇者本人は再生させない。
「……?」
俺はその続きを探した。
しかし。
紙はそこで終わっている。
「続きは?」
零番が答える。
「ここから先は、お前自身が見つける」
「なんで?」
「俺が作ったのは、ここまでだからだ」
「じゃあ、その後は誰が?」
零番が振り返る。
「アルドだ」
「……」
「お前を完成させたのは――」
その瞬間。
地下の奥から。
カン。
音がした。
そして。
暗闇の中で。
何かが目を開いた。
「――アルド本人だ」
俺は息を呑んだ。
暗闇の中。
二つの赤い目が。
こちらを見ていた。




