↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/120

第24話 本当の墓

北へ向かう道は、思っていたより静かだった。


 町を出てから三時間。


 人の姿はほとんどない。


 畑も減った。


 木々が増えた。


 そして何より――


「寒い」


 俺は外套の襟を閉じた。


「まだ秋なのに」


 ミラが隣で笑う。


「北だからね」


「北ってだけで寒くなるのか?」


「なるんじゃない?」


「雑だな」


「レインよりは雑じゃないよ」


「俺は仕事が丁寧だ」


「死体回収に関してだけね」


「重要な仕事だぞ」


「知ってる」


 ミラは笑った。


 少し前を歩く三十一番。


 そのさらに先に、一番がいる。


 二人はほとんど会話をしない。


 というより。


 意図的に距離を取っているように見えた。


「なあ、ミラ」


「何?」


「一番と三十一番って仲悪いのかな」


「五十年前から知り合いなんでしょ?」


「そうらしい」


「なら、色々あるんじゃない?」


「色々って?」


「色々は色々」


「便利な言葉だな」


「レインもよく使うじゃん」


「そうだったか?」


「うん」


 そんな会話をしていると。


 一番が突然立ち止まった。


「止まれ」


 全員が止まる。


 俺は周囲を見回した。


 何もない。


 ただの森。


「どうした?」


 一番は答えない。


 地面を見ている。


 そして。


 しゃがんだ。


「……古い」


「何が?」


「足跡だ」


 俺も見る。


 土に残った跡。


 だが、かなり古い。


「誰の?」


「分からない」


 三十一番が近づく。


 足跡を見るなり、顔色を変えた。


「これは……」


「知ってるの?」


 ミラが聞く。


 三十一番は答えない。


 代わりに一番が言った。


「五十年前のものだ」


「五十年前?」


「ああ」


「そんなもの残るの?」


「普通なら残らない」


 俺は足跡を見る。


 土に刻まれた靴跡。


 その横に――


 小さな跡がある。


 裸足。


「……これ」


 俺が指を差す。


「子供?」


 三十一番が黙った。


 一番も黙った。


「誰の足跡?」


 もう一度聞く。


 一番が答えた。


「お前だ」


「……」


 頭が真っ白になった。


「俺?」


「ああ」


「五十年前の?」


「そうだ」


「俺は二十八歳だぞ」


「知っている」


「じゃあ、おかしいだろ」


「だから探している」


 その言葉に。


 嫌な感覚がした。


 俺は足跡を見る。


 小さな裸足。


 その隣に、大きな靴跡。


 さらにもう一つ。


 別の足跡。


 合計三人分。


「誰が一緒にいた?」


 一番は答えない。


 三十一番が口を開く。


「アルドだ」


「……」


 俺は黙った。


「お前は五十年前、アルドとここを歩いている」


「でも俺は……」


「覚えていない」


「……」


「当然だ」


 三十一番は言った。


「その記憶は、お前から消された」


「誰に?」


 沈黙。


「誰が俺の記憶を消した?」


 今度は一番が答えた。


「アルドだ」


「……アルド本人が?」


「ああ」


 胸の奥がざわついた。


「なんで?」


「お前を守るためだ」


「何から?」


 一番は北を見る。


「魔王から」


 風が吹いた。


 木々が揺れる。


 その瞬間。


 俺の頭の中に映像が流れた。


 雪。


 赤い空。


 倒れている人。


 そして。


 俺の手を握る男。


 アルド。


 その顔は笑っていた。


『レイン』


 声が聞こえる。


『お前は何も覚えなくていい』


 小さな俺が泣いている。


『俺のことも忘れろ』


「……嫌だ」


 思わず声が出た。


 ミラが振り返る。


「レイン?」


『忘れたほうが、生きられる』


 アルドが俺の頭に手を置く。


『だから――』


 そこで映像が途切れた。


 俺は膝をついた。


「レイン!」


 ミラが駆け寄る。


「大丈夫?」


「……ああ」


 息を整える。


「ただの……記憶だ」


 一番が俺を見る。


「思い出したか」


「少しだけ」


「何を?」


「アルドが……俺に忘れろって」


 三十一番が目を閉じた。


「やはりそうか」


「何を知ってる?」


「まだ話せない」


「また?」


「ああ」


 俺はため息をつく。


「いい加減にしてくれ」


 三十一番は何も言わなかった。


 代わりに。


 森の奥から音がした。


 カン。


 全員が振り返る。


 カン。


 まただ。


 俺の徽章が鳴っている。


 しかし。


 今回は文字が違った。


 ――三十二番、帰還確認。


「……帰還?」


 俺は眉をひそめる。


「俺、まだどこにも行ってないぞ」


 一番が険しい顔になる。


「違う」


「何が?」


「帰還したのは――」


 一番が森の奥を見る。


「お前じゃない」


 木々の向こう。


 白い霧が流れていた。


 その中から。


 誰かが歩いてくる。


 黒い外套。


 銀色の徽章。


 そして――


「三十二番……」


 三十一番が呟いた。


 だが。


 歩いてきた男の徽章には。


 **「32」ではなく、「0」**と刻まれていた。


 男が立ち止まる。


 そして俺を見る。


「久しぶりだな」


 知らない男の声。


 なのに。


 俺の記憶の奥が反応した。


 まるで――


 ずっと昔から知っている人間のように。


「お前は……誰だ?」


 男は笑った。


「お前を最初に作った者だよ」


 北の森に。


 五十年前から止まっていた時間が――


 再び動き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。